若手の早期退職、企業も本人も損しない理由

黒坂岳央です。

4月に入社した新卒や若手社員はGWでふるい落とされ、あちこちの企業から「若手がすぐやめた」と嘆きの声が出ている。しかし、そもそも早く退職してしまうことは本当に悪いことなのか?そして「最近の若者」に限定した話か?この話を改めて考察したい。

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若者の早期退職は昔からあった

厚生労働省の調査によると、大学卒業後3年以内に離職する割合は34.9%。1980年代からほぼ3割前後で推移しており、早期離職は決して「最近の若者」特有の現象ではないのだ。

氷河期世代である筆者自身、「若者の3割はせっかく入社した会社をつまらない理由でやめてしまう。石の上にも3年の精神で働くべきだ」と聞いてきた。

また、気になるのが「日本の若者は忍耐力がない」といった、「最近の日本人は軟弱化した」という論調だ。本当だろうか?海外の事例と水平比較してみたい。できれば多くの国家データを参照するのが望ましいが、信頼のおける大規模データが入手できるのが米国であるため、米国のケースを取り上げる。

米国の労働市場では、若年層(特に18~24歳)の離職率が他の年齢層に比べて高い傾向だ。米国労働統計局(BLS)のデータによると、2022年の全体の離職率(自主的離職)は全年代で約25%。

GallupやLinkedInといった民間調査を参照すると、ミレニアル世代やZ世代の従業員は、キャリアの初期段階で転職を検討する割合が高く、2~3年以内に離職する新卒者が30~40%程度いると推定されている。

労働市場が日本より圧倒的に流動的な米国でも若手ほど早く辞めるのだ。つまり、「最近の日本の若者がダメになった」というのは単なる印象である。

早期退職してくれた方が企業にメリット

企業にとって新人採用は先行投資である。最初は採用費、教育費などで一人当たりの新卒採用コストは70-100万円が平均的水準とされる。

入社して数ヶ月で離職すれば教育費は未回収で赤字だが、人件費や将来の追加投資が膨らむ前に見切りをつけられる点で、その後1年、2年後に辞められるよりダメージは小さい。

企業側が気にするのは「離職率が高い会社」という評判であり、これは採用ブランドに響く。しかし、だからといってあまりに新人に合わせすぎて企業全体の合理性を欠き、既存社員のモチベーションを挫くなら本末転倒である。

新卒や若手は確かに貴重な存在だが、「お客様」ではないのだ。

「ミスマッチ0%」は不可能

採用現場の現実を知れば、どれだけ選考を厳しくしても完全フィルタリングは不可能だとわかる。

ミスマッチを防止するスクリーニングは学歴、インターン、適性検査、複数回面接など選考を多層化することだ。しかし、それでも実務とのミスマッチは一定発生する。

HR noteの記事によると、あの天下のGoogle社は面接最適回数を4回と定め、統計的に86%の的中率を確保しているが、あれほどのリーディングカンパニーでも100%にはならないのだ。

ならば「入ってみて合わなければ双方速やかに損切り」という前提で、

・リモート併用のトライアル雇用
・メンター制度による早期フォロー
・入社半年でのジョブローテーション

等を整備し、ミスマッチをクレームなどと同列に考え、事前に「変数」として折り込むべきだろう。

辞めるなら早い方が傷が浅い

今度は働く側の視点に立って考えてみよう。正直、職場は実際に配属されて数ヶ月働かないと相性が分からない。

だが、だましだまし相性が悪いまま働き続けても結局やめてしまうなら早く辞めたほうが本人のキャリアにも傷は浅い。

二十代前半での転職はポテンシャル採用枠が豊富で、専門スキルより「学習意欲・素直さ」が評価されやすいためだ。逆にミスマッチを我慢して何年も働き続けた結果、若さが武器にならないタイミングで手を上げても困るのは本人だ。

これは実例がある。筆者の学生時代の友人に優秀な人物がいた。彼は米国の大学に留学し、マーケティングを学んで帰国。面接時に「マーケティングをやりたい」と伝えたが採用されたのは営業。「まあその内、おいおいで」と言われながら気がつけばアラサーに。年齢的な焦りを感じて退職し、次の会社では無事にマーケティングの仕事についたようだ。これが30半ばだと間に合ったかどうかは分からない。

もちろん短期離職を繰り返すジョブホッピングは、履歴書の一貫性を欠き市場価値を下げるリスクもある。「なんとなくあわない」「思っていたのと違った」といった抽象的理由では転職時にリスクと取られるので、やめるなら転職理由を厳密に言語化し、次の職場選びでは「仕事内容・文化・成長機会」の優先順位を明確にして「自分で」ミスマッチ防止の努力をするべきだろう。

企業側、若手社員側の視点で考えても早期退職はまったく悪いこととは思わない。ただし「しんどいから辞める」を繰り返すと損をするのは自分である。セーフティネットはあっても、転職先の企業で温情はない。仕事は結果が全てであり、入社する相手に求めるものの本質は「粗利」であって若さそものもではないことは忘れるべきではないだろう。

 

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