ロシアがウクライナ侵攻を開始した当初、一部から「第三次世界大戦が起こるのでは?」という杞憂がありました。当時の私の意見はこの戦争は身内の戦争、よって当事国だけで終わり、第三次世界大戦に発展するものではない、と申し上げたと思います。
トランプ大統領(ホワイトハウス X)、ゼレンスキー大統領(同大統領インスタグラム)、プーチン大統領(クレムリンHP)
想定外の長期戦になり、3年以上の月日が経った今、お前はその意見にブレはないのか、と言われると状況が変わりつつあり、読みにくい展開になってきた、と申し上げます。ロシアとウクライナの本質的問題は変わらないのですが、周辺国の関与の仕方が変わってきたように感じるのです。
まず、欧米が武器をウクライナに提供し、「ウクライナの自国内の防衛のために使ってください」というスタンスだったものが、ロシア国内の攻撃も容認する姿勢に変わりました。またウクライナはロシア領に侵攻し、「目には目を」という戦略を取りました。問題はロシア領に侵攻した時、ウクライナ兵は欧米から供与された武器を使い、ロシアは北朝鮮兵士を前線に据えたことで戦争の構図がよりインターナショナルな色彩となったのです。
次にトランプ氏の関与があります。大統領就任前は「24時間で停戦できる」と豪語するも実際には四苦八苦でようやくウクライナとロシアの直接会談までこぎつけるも両国ともトップは出席しません。またロシアは予想通り、飲めない和平提案をウクライナに提示し、ロシアは「それでは戦争継続ですな」という姿勢を貫いています。トランプ氏はプーチン氏と直接電話交渉をし、トランプ氏は「良い会談だった」と述べるも実際は全く折り合いがつきませんでした。このあたりはこのブログでそうなるだろうと指摘していました。トランプ氏はビジネスマン体質であり、外交をビジネスネゴと同一線上に考えている気配があるのです。氏はそれで外交をしているつもりですが、実際は力技で押し出しているだけの素人相撲のようなものに見えます。
ではその素人外交が次に何をするか、といえばロシア苛めだとみています。その苛め方次第ではプーチン氏は鋭く反応します。ここが読みにくいのです。例えば習近平氏ならばやられたら同じことをやり返し、2倍返し、3倍返しはしません。ところがプーチン氏は形を変えて反応する傾向があるのです。
トランプ氏が最も嫌がることは戦争であり、アメリカがそれに直接的に関与することです。トランプ氏の姿勢を見ていてフランクリン ルーズベルト大統領を思い出しました。セオドア ルーズベルトとは遠い親戚ですが、ルーズベルトと書くと混同するのでフランクリン ルーズベルトをFDRと略すことも多いので私もそうします。FDRは欧州本土で第二次大戦がはじまった際、アメリカは参戦せずというのが選挙公約でした。以前から何度も指摘していますが、アメリカ人は戦争嫌いであまり出兵したくないのです。そして武器は立派だが、出兵では歴史的にさほど強いわけではないのも事実です。
FDRが第二次大戦において参戦しないという公約を破ったのが対日参戦でした。FDRは大の日本人嫌いで「サル退治をする」と世論形成を行い、それに成功するのです。この参戦に向かう戦略が闇の部分とされ、真珠湾攻撃は実はFDRは事前に知っていたのに放置して日本軍がネズミ捕りならぬサル捕獲に引っかかるのを待っていた、とされます。真実はわかりません。
では今回はどうでしょうか?プーチン氏はトランプ氏への仕返しに嫌がる戦争に巻き込もうとする、これが私の考えるプーチン氏の策略です。ならば対象国はエストニアが最も都合がよいでしょう。NATO加盟国故にロシアがエストニアを攻めれば否が応でも欧州とアメリカ、カナダは反応しなくてはいけません。エストニア侵攻は小国で海に面しているのでロシアは攻めやすく、それこそ短期間で陥落させることもできなくはありません。当然、NATO軍は防衛します。ただ、NATOもやりたくないのです。金もかかるし、経済的にも悪影響が出る、社会不安も起きるでしょう。故にロシア国境を越えては攻めないのです。つまりプーチン氏は本気ではないけれどエストニアは第三次世界大戦の導火線になりうると考え、欧米に対して「この導火線に本気で火をつけるぞ」と恐喝するのです。
プーチン氏の策略はそれにより欧米を交渉の席に引きずり込み、ウクライナ ディールを完成させるのです。そうすればエストニアからは手を引くぞ、と。
もちろん、これは危険な火遊びであり、あってはならないシナリオです。ただ、人間というのは野蛮な動物なのです。そして自分を大きく見せたいのです。プーチン氏は今、背水の陣というより今戦争を止めたら軍人をどう養うか、そこが難問なのです。よって東部ウクライナの完全掌握と共にロシア軍による同地の復興を推進することで軍人の食い扶持を提供するのが私の思いつくストーリーです。
よって第三次世界大戦は起こりうるか、という質問への私の現時点での答えはリスクが高まっており、それはトランプ氏とプーチン氏に委ねられていると考えています。アメリカ外交チームがどれだけ知的に対応できるか次第ですが、トランプ氏がかき混ぜてしまえばプーチン氏としては組みしやすい相手ということになるのでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月11日の記事より転載させていただきました。