アメリカ政権とハーバード大学のもめごとをきっかけにアメリカで留学生のみならず、研究者も代替案の検討を始めています。これまではビジネスや先端技術のみならず野球などスポーツから学問までアメリカは世界の最先端を走っていたのです。それが果たして変わる可能性はあるのでしょうか?
東京大学(公式HPから)
トランプ2.0政権になる前、つまりバイデン氏の時代から一部のアメリカ人の間からはアメリカ脱出の動きがなかったわけではありません。国内で様々な軋轢があり、住みにくさが出てきているのは確かでしょう。これまでアメリカ人医師やカナダ人でアメリカに渡った医師がカナダに移住するという話はほとんど耳にすることがありませんでした。しかし、過去7か月間でカナダの医師免許取得のための申請は前年の71件から8.7倍の615件に増大したのです。トランプ氏就任前からの流れと言ってよいでしょう。
アカデミアの人にはリベラルの人が多いことがあるのでしょう。知識層を中心とした脱アメリカが今後、加速するのか気になるところです。
カナダはその受け入れには絶好で、地理、アクセス、言語、習慣がアメリカに近く、世界では最も受け入れが進む国になるとみています。かつてカナダの医師は「医療が無料制度故にここでは稼げない」と言って優秀なドクターほどアメリカに行く傾向が強かったのが事実です。が、それが逆流するのみならず、アメリカ人医師もカナダで働きたいとなれば状況は一変するでしょう。
アメリカで学ぶ優秀な研究者を取り込みたい、というのは世界の多くの大学の動きです。
AI技術の父とも言える人をご存じでしょうか?24年にノーベル物理学賞をとったジェフリー ヒントン名誉教授です。ヒントン教授は英国生まれでケンブリッジ大学で実証心理学を学んだあとカリフォルニアのUCLAに行くのですが、氏の独特な研究を最後に受け入れたのはカナダのトロント大学でした。
トロント大学はカナダの大学の御三家の頂点であり、あとの2つがバンクーバーのUBC、モントリオールのマギル大学です。私は大学と業務上の取引関係がありますが、トロント大学は別格という感じを持っています。そのヒントン氏がディープラーニングの分野で十分な成果を出せたのは学問の環境が整い、政治的不安定感がないカナダゆえというのは手前味噌と言われるかもしれません。
さて日本の大学もアメリカの優秀な研究者の争奪戦が水面下で繰り広げられているようです。しかし、私は日本ではアメリカの研究者は根付かないとみています。理由はいくつもあります。
最大のネックは給与と研究費です。給与は日米で3倍以上の開きがあります。研究費に至ってはお話にならないレベルで、様々な統計がありますが、日本私立大学協会の数字では日本の公的研究費が1800億円に対してアメリカのそれは2兆円規模であります。つまりどれだけ優秀な先生がアメリカから来ても研究費という手と足がなければ何もできないのであります。
次に現場研究において日本人の研究者や学生が外国の先生に言語のみならず思想構築のプロセスでなかなかついて行けないとみています。それまで世界最高峰の学生や研究員を抱えていた教授にとって日本に来たら裸一貫では話にならないのです。また海外の研究者が学会のみならず、様々な人的交流、つまりアカデミア コミュニティを日本で形成するのが難しいと思います。特に日本の研究者は思想的にもそこまでオープンではないと思います。
日本の教育水準は高いのですが、それは底上げとバラつきが少ないということなのです。誰もが一定レベルにはあるのですが、その上の殻が破れないのです。一方、北米の大学生や研究者を見ていると突き抜けている人がそれなりにいます。つまり日本人はAランクを取れる人は多いかもしれませんが、AAAランクが極めて少ないと言ったらよいのでしょうか?その理由として研究ディベートや学会発表、論文数、さらにそれが世界で認められるためのプレゼン能力という点においてまだまだな気がします。
言い換えればアメリカの先生がランクを落として日本に来るのか、という疑問であります。
私は来週から再び日本に行きますが、その予定の中に私が長年温めていた構想を具現化するための重要な打ち合わせがあります。既に3年以上やり取りして準備をしてきた案件です。それは日本のある研究機関への支援であり、何らかの形での提携にこぎつけられるところまで到達したのです。なぜそれを私のような弱小の海外事業家が推すのかといえば日本の学問や研究機関への支援体制が不十分だからです。日本企業は何百億、何千億円と稼いでいるのにびた一文そのような支援をしようという機運が見られないのです。
今回のハーバードの問題は研究者に思った以上の波紋となることでしょう。そして世界最高の研究ができる大学機関の位置づけは変わってくると思います。その中で卒業生がそれだけ母校の研究に資金を投じれるか、これが日本の大学が世界に輝けるかその岐路にあると思います。今回のハーバード事件をきっかけに日本の高等教育に火が付いてもらいたいものです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月13日の記事より転載させていただきました。