トップ写真は何やねん、って感じですけど、記事を読めばわかりますw
日本の「再開発」って面白くないものになってるんじゃ・・・っていう違和感は多くの人が持ってると思いますが、じゃあどうしたらいいのか?はいまいち見えてない部分がありますよね。
ただ、結構読まれた以下の記事を書いた時に知ったんですが、「下北沢の再開発」は、なんだかんだまあまあ「うるさ型のカルチャー界隈」からも評価を得ている面があるらしい。
もちろん「昔の古くて汚い下北沢しか許せん」というタイプの人も確実にいるんですが、とはいえ
昔の下北沢が大好きだった者として正直言いづらいからあまり言わないんだけど、でも実際に今下北沢の再開発をやってる人たちがすごい頑張って良いモノ作ってるという気持ちは実はある
…と言ってる人もいて(笑)、
「まだ大手を振って褒められない空気」はあるけど、「なかなかやるじゃん」的に思っている人も実は多い
…ぐらいの状況らしい。
そのあたり気になってたんですが、下北沢の小田急線跡地再開発=BONUS TRACKを手掛けている散歩社の桜木彩佳さん(記事トップ写真の右側の女性)に一時間ぐらいかけて界隈を案内してもらえるという体験をしまして、そこから見えてくる「これからの再開発」についての話を聞いてほしいんですね。
1. 「地域全体で利益を出す」ためのメリハリの効いた賃料設定
下北沢のBONUS TRACKは、小田急線が数駅分地下化されるにあたって空いた地上部分の線路を撤去して、その跡地に作られています。
たとえばこの記事を読むと、小田急と散歩社という会社がタッグを組んでかなり丁寧にやっている様子が伝わってきますね。
全体として、「下北沢駅に近い綺麗なビル」のテナント賃料は高めに設定して収益を確保する一方、駅から少し遠目の世田谷代田駅に近いゾーンは建物も簡素にし、ものすごく安い家賃で野心的な個人店が入れるような全体の設計になっている。
いわゆる”尖った”個人店の集まる世田谷代田側の広場
逆に下北沢より新宿側の東北沢駅方面は、むしろ「全力でおしゃれ方向」に振ったような、わざわざフロントにレコードが置いてあって、部屋にあるレコードプレイヤーでそれが聞けるホテルみたいな「カルチャー界隈!!」感のある(笑)ホテルなどが誘致されていました。
フロントに置いてあるレコード
このホテル↑、調べたら宿泊料金はそこまで高くなかったので(アパホテルとかと変わらんぐらい?)、多分東北沢方面もある程度賃料安めに設定してわざとそういう店を集めてるのだと思います。
そうやって「戦略的に価格設定をコントロール」することで、「エリア全体で利益を出す」方針になってるんですね。
2. 「作った仏に魂をいれる」地道な活動
で、そういう「全体の仕切り」がちゃんと配慮されてるというのも大事なんですが、その上で「コミュニティマネージャー」的な立場の人が、御用聞き的に常に回って顔を繋いでるところがすごいなと思いました。
それも、「BONUS TRACK内」のテナントだけじゃなくて、その地域の普通の商店街的なお店ともわけへだてなくちゃんと関係を作ろうとしてる感じなんですよね。
記事トップ写真にした画像の右側がその「コミュニティマネージャー」の桜木彩佳さんですけど、左にいるのはBONUS TRACKのすぐ近くにある普通のヤマザキショップの店主さんです。
ヤマザキショップ代田サンカツ店の池田勝彦さんと、BONUS TRACKコミュニティマネージャーの桜木彩佳さん
「サンカツ」って何?みたいな話も含めてこのヤマザキショップについての詳しい話はこの記事↓でまとめられていました。
で、桜木さんはBONUS TRACK界隈のあらゆる店(BONUS TRACK内のテナントも外側のテナントも関係なく)に対して、どこでもフラッと入っていって「こんにちは〜!」って感じで抱き合わんばかりの感じで世間話をしにいける関係を築いているのはマジですごいなと思いました(桜木さんはこういうヤマザキショップの店主的なタイプの人と超仲いいだけでなく、東北沢駅側のおしゃれショップにもフラッと入っていって挨拶できる幅広さがすごいw)。
結果として、桜木さんや散歩社はBONUS TRACKに入ってるテナントや、そこで行われているイベントが、「尖りすぎたもの」ばかりにならないようにかなり気を使ってるそうです。(そういうのをやらないという意味ではない)
駐車場スペースを明け渡してただ皆でビールを飲むイベントとかを混ぜたり、地元のお祭りの山車がそこを通るようにしてもらったりとか、「おらが街の」的なレペゼン感が維持されるようにかなり配慮している。
ビールを飲むイベントをやる時には、このヤマザキショップ代田サンカツ店から仕入れるという配慮とかもあって、結果としてこのヤマザキショップはコンビニなのにやたらクラフトビールの品揃えが良いという感じになっている。
コンビニとは思えないクラフトビールの品揃え
実際ヤマザキショップの池田さんは、「ものすごい尖った怖い人達が来る場所になるかと思ったら、すごく地元に馴染んでくれる感じになって安心した。人通りが増えて売上にも繋がってありがたい」というようなことをおっしゃっていました。
その他、BONUS TRACKの正式なエリア内ということじゃないのかもしれませんが、少なくとも”元線路跡”エリアの中には以下のように完全に土が露出した「緑地」ゾーンも設けられています。
真偽未確認ですが聞いた話によると、この緑地部分↑はアメリカのポートランドの都市開発を理想とする世田谷区長の保坂展人氏の強い意向で残っているらしく、(彼は国政レベルの政治案件についてはかなり無茶なことを言う人だなという個人的印象があったのですが)少なくとも「地元の運営ビジョン」に関して評判が結構いいのはわかるなと思いました。
3. 「認めたくない!が頑張ってることはわかる」という”カルチャー界隈”の素直な感想(笑)
で、この下北沢再開発について、色々な立場の人が色々なことを思うところがあると思うんですよね。
今回この訪問をセットしてくれたのは、世田谷のライフスタイル情報誌の元編集長の鈴木聡さんなんですが…
鈴木聡さん(顔出しNGってわけじゃないと思いますがこれ以外写真撮り忘れたんでw)
鈴木さんが以下のような”ぶっちゃけ発言”をしてすごい面白かったんですよね。
「”カルチャー界隈”にいると今の下北沢を褒めづらい。褒めづらいけど、こうやって案内してもらうと最大限やれることやってることは伝わってくる。僕らは褒めづらいんで、倉本さんみたいな外部者が”いいじゃん”って言ってくれると”褒めても良い雰囲気”になってきていいかも?」
さっきも貼った僕が以前書いた再開発についての記事でも触れましたが、この再開発を扱ったNHKの番組に平田オリザさんが出演していて、
「自分にとっても下北沢は大事な場所だが、本当に良い再開発が行われて関係者に頭が下がる思いです」
…みたいなことを言ってて、”彼ですら”そういう意見なら、ちょっと言いづらいとしても大筋としては「成功」と考えている関係者は多いんだろうなと思いました。
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ただ、その僕の昔の記事で書いたように、この再開発がまあまあ成功しているのは、以下のような特殊な条件があってこそ、みたいなところはあるんですよね。
・事業者(小田急)がその土地に関する”ほぼ全権”を単独で持っており、地下化した線路さえ通せれば地上がどうなっても当面はOKだった
・「下北沢」自体に強烈なブランド性とキャラ付けがもともとあり、住民自体が結束して意味のある意見を提示できた
つまり下北沢では、ちゃんと「全権をグリップして責任持ってる存在」がいて、かつ「価値観の共有」がもともとある上で丁寧に話をすることができていた。
こういう条件は普通そこまで簡単には揃わないので、なかなかこれを他の土地でもやれる「再現性」を持てるかどうかというのは結構難しい側面もある。
どうやったら「再現性」を持ってこういう試みを全国各地でもやれるか?というのは、これから色々な場所で工夫していくことが必要な論点なのかなと思います。
ただ、もう少し踏み込んで分析的に語ると、
「仏を作る部分」と「作った仏に魂をいれる部分」
…に、それぞれもう少し応用可能な知見はあるように思います。
ここまで書いてきた記事をこの視点でまとめると、以下の二点が重要だと言えます。
●「仏を作る部分」
↓
「儲けるところ」と「特別な価値を出すところ」を分けて全体で帳尻を合わせるビジネスモデル設計
↓
BONUS TRACKが下北沢駅近くの部分の賃料で大きく稼ぎつつ、駅から遠い部分は安い賃料にしてエリア全体の価値をあげるように配慮している部分
●「作った仏に魂をいれる部分」
↓
実際に成立しているビジネスモデルが”意味”を持ち続けられるような細部の配慮を続けられる人事的な配置を長期的に維持できるか
↓
BONUS TRACKがコミュニティマネージャーを置いて人間関係を密に保ち、尖ったイベントばかりやって地域から浮いた存在にならないような配慮ができるか、といった部分
4. 最新型のビジネスモデルの工夫と「カルチャー界隈の思い」が交わる時
まず「仏を作る部分」の話として、(特に”カルチャー界隈”の人は一緒くたに”こういう話は敵”だと思ってるのでぜひ聞いてほしいのですが)最近の「最新型のビジネスモデルの模索」が、そういう話をフォローできるようになってきてる面はあるなと思っています。
私の本業は経営コンサルタントなんですが、折しもこないだ某外資コンサルのディスカッションイベントに呼ばれまして、(守秘義務契約結んだので詳細は言えませんが)「まさにこういう問題意識」をDXを利用して実現しようという話になっていて面白かったです。
例えば、「利益を出す部分」と「その場自体の魅力を出す部分」を一つのビジネスモデルの中に混在させるというのは、下北沢のように「全権を握ってる主体と強固な価値観の共有がある」場合以外はなかなか実現できないんですよね。
官僚的に形だけで流れ作業でやってると、どんぶり勘定で全部同じ条件でテナントを「独立採算」で成立させなきゃということになって、結局大手チェーン店以外はその賃料を払えなくて「どこにでもある店」ばかりがある場所になってしまう。
でも「どこにでもある店ばかりがある場所」になったら”その場全体の価値”は明らかに下がるんで、誰のためにもなってない。
特に最近は、「必要最低限の日常需要はできるだけ安く、とはいえ2000円以内のランチのような非日常消費はちょっと財布の紐を緩めたい」というような二極化したニーズが広くあるので、後者側の「尖った」店を”共存”させている意味は全体としてビジネスモデル上の意味はかなり重要になってきているんですよ。
その「特別な価値を出す部分」が、「ちょっと高いだけで実際のとこしょぼいよね」とならずに、「コスパ的にサプライズ感があるぐらいの大きなお得感」を感じてもらえるようにするためには、全体のバランスの中から多少は優遇する部分をうまく設計するようなことが大事な配慮になってくる。
ショッピングモールにしても、「どこにでもある店」しか入ってないショッピングモールは「一番近いところに住んでる客」しか取り入れられないですよね。
でも、「儲ける部分」と「価値を出す部分」を混在させる特有の工夫ができれば、
「ユニクロに行こうと思ってGoogleマップ検索して複数のショッピングモールがヒットしたけど、このモールは一番近い店舗より15分ぐらい遠いけど、”行ってみたかったカフェ”もついでに行けるからこっちにしよう」
…という形で「全体として見た時の競争優位性の実現」が可能になる。
で、こういうのを「下北沢的に強い価値観の共有」がそもそもない場所でやる方法のひとつは、結構「精緻なデータ分析の基盤」があることなんですよね。
単体のテナントの売上と利益しか見ていないと、「全体の連動性」が生み出す数字的な部分が見えてこないので、その価値をビジネス的意思決定に反映させることができない。
でもここが精緻なデータ分析が可能になると、「全体としての人流の変化」といった複雑な現象が「見える化」できるようになって、それを元に意思決定できるようになる。
例えばこれ↓は、”哲学書”も書いてる経営コンサルタントとしてなんとなく共感してる電通の朱喜哲さんが札幌市のサッポロドラッグストア(サツドラさん)を取材してる記事ですけど・・・
例えば今はYouTubeで「その地域に住んでるアカウント」だけに広告を出せたりするんですが、そのアクションのビフォーアフターの売上変化のようなものを丁寧にデータ分析できると、「無駄にページビュー総数を追うような施策」とは違ったピンポイントの売り場の工夫と連動させることができるんですね。
そもそもローカルチェーン店のSNSアカウントが「ページビューの総数」みたいなKPI(効果測定に使う数字の指標)を無意味に必死に追っちゃって無駄な炎上を起こしてる事例とかいっぱいありますよね(笑)
でも、「ちゃんと売上に繋がっているかどうか」を精緻に分析できるようになると、「無駄にページビュー総数を追おうとしてブランドをめちゃくちゃにしてしまう」ような方向とは違う意思決定が可能になるんですね。
ここで、「単純な売上数字だけを見ていてもダメ」だけど、「売上的な数字を全然見ない」感じになると、それはそれで良くないんですよね。
そういうふうにやっちゃうと結果として、
「無駄に尖ってて周りに全然求められてない」ようなものを試しに入れてみては全然フィットしなくて諦めちゃって、あとはダダ崩れにチェーン店だけになる
…みたいなことになりかねない。
「その施策を行った事のビフォーアフター」を”複雑な全体像として”丁寧に分析できるようになればなるほど、「下北沢のように全権を持った主体を強い価値観共有がないとできなかったこと」が、より再現性を持ってできるようになっていく。
今、日本ではかなり「この分野」をなんとかトンネルを堀り抜こうという動きは盛んになってるなという感じがします。
さっき書いたように、最近僕がたまたま呼ばれた外資コンサルのディスカッションイベントで、そのプロジェクトの大手小売業クライアントの人が考えていることもそういう方向性でしたし・・・
以下の記事で紹介した、大阪駅再開発の中で最近注目されてる「バルチカ03」という飲食店街(”03=オッサン”向けのコンセプトに集中したのが斬新すぎて若い女性に人気になっているらしいw)も、かなり精緻なデータ分析のもとに、かなり強い意思を持ってテナント選びをして成功している事例としてあります。
また、そういう「精緻なデータ分析ができるようになることでそういう配慮ができるようになる」という事例だけでなく、下北沢ほどではないにしろ「全権持った主体と価値観の共有」がある分野では同じことを考えている例がたくさんある。
例えば全然違う分野ですけど、こないだ伝統的な「論壇誌」で対談を組んでもらってでかけて行ったら(6月5日発売の”潮”7月号に梶原麻衣子さんとの対談が載ります)
どうやって「論壇誌」をこれからも成立させ続けるか?というのを出版部門を含めた会社全体で帳尻を合わせて考えていくべき時代になっている
…という話をしていました。
また、再開発案件では、むしろ地価が安くて人口が減るから「新しいビル」を建てる意味が失われていく地方都市で、意識高い土建屋さんが全体のビジネスモデルの中に上手く組み込んで、中心部の古いビルの再開発案件を手掛けている例はあちこちで聞くようになってます。
これはほんの一例って感じですけど最近聞いた話では、浜松のこの丸八不動産という会社の例とかが面白かったです。(長期的な再開発の仕込み案件の、途中のタイミングを利用して古いビルに野心的な個人店を集めて下北沢BONUS TRACK的なビルにするという事例ですね)
こうやって「ビジネスモデル的な工夫」の方から迎えに来てくれて、そこに「カルチャー界隈」の人もちゃんと関われるようになる。
その結果として、
大手を振って褒めづらい空気は正直あるけど(笑)、実は内心結構やるじゃねーかと思ってもいる例もちらほらある
…みたいな気分が見えてきてるのは大きな希望だと言えるでしょう。
もっと上の世代では、
ありとあらゆることが「政治闘争のネタ」に見えるビョーキの結果として、「汚らしい資本主義が私達の大事な財産を壊すのを許すな!」と十把一絡げに騒いでいた
…ような状態から、
「お互いの事情を持ち寄ってより良い着地を目指していこう」というメタ正義的な方向性が見えてきている
…ということですね。
5. ビジネスモデルに「魂」を入れ続けられるか?という”人のつながり”の側面
で、上記のように、「全体として利益を確保するビジネスモデル的工夫」で「仏を作る」部分に追加して、さらに「作った仏に魂をいれる、入れ続ける」みたいなことができるかどうか?なんですよね。
BONUS TRACKのコミュニティマネージャーの桜木さんのように、ちゃんと「人間関係」を繋ぐこと自体が「本業」の人がいて、そういう人の配慮によって、
・ランチの価格帯が適切な範囲に収まっているか?
・行われるイベントがあまりに「尖ったもの」ばかりになって地域から浮き上がってしまっていないか
・とはいえカルチャー界隈がちゃんと満足できる”尖った”ものをちゃんと感度高く取り入れられているか?
…といった細部のバランス的なものを「丁寧に差配し続ける」ことができるかどうかが重要になってくる。
こういうのは「一回決めてしまったらほっといてもいい」わけじゃないんですよね。
「ランチの価格帯」みたいなのも「千円以下で!」って決めればいいわけではなくて、時代の変化やインフレの進展によって適宜見直しながら、「その場に適切な価格帯に収め続けられるか」について、場合によっては夜の時間帯の儲けとの配分を適切に配慮しつつ調整し続けることが必要になる。
「地元の人たちからも愛されているか」みたいな話も、「どうもー!」って感じで顔出してるというだけでなくて、イベントのチョイスやその仕入れをどこから行うのか、といった細部の配慮の積み重ねが必要になってくる。
日本における今までよくあった問題は、こういうのが一時はうまく行ってるように見えても「定期人事異動」でめちゃくちゃになっちゃうって事なんですよね。
土地を抑えてる電鉄会社やデベロッパーのある担当者が、たまたま個人としてものすごく意識高い人で、散歩社のようなカルチャー系の会社と組んで丁寧に開発をしてたんだけど、その「大会社の担当者」の人が偉くなって人事異動しちゃうと、もう全然そんなのに何の思い入れもないカイシャインタイプの人が後任になってどんどんオカシクなっていく・・・という話を結構聞きます。
これってなんか、「日本企業を買収する外資」の担当者も、その決断をした一代目の担当者はめっちゃ思い入れがあってカルチャーギャップにも配慮した経営をするけど、10年ぐらいして二代目になっちゃうと全然そういうのじゃなくなっちゃってオカシクなっていく・・・みたいなのに近いものがあるなと思いますね(笑)
そういう問題に対してどうしたらいいか?っていうのは、これは結構いわゆる「雇用の流動性」的な人事制度の変化が重要になってくるように思っています。
6. 剛腕のオーナー経営者→サラリーマン型の官僚主義→”変人”と”組織”のコラボレーション
日本経済の歴史的経緯もあって、昭和〜平成初期の時代には「破天荒なオーナー経営者」が強い意志を持って何かやってる例って多かったですよね。
昭和時期にはセゾングループの堤清二みたいな小説家もやってる特殊な経営者が剛腕でリードして一時代を作った。平成初期には、「裏原宿」とか発祥の小規模なオーナー系アパレル会社が「ア・ベイシング・エイプ」的な成功例を作っていったりした。
ただ「昭和型の剛腕のオーナー経営者」は寿命でどんどん引退していくし、平成初期型の「尖った個人店の延長」みたいな企業群はマスプロ的な資本のパワーと相性が悪くて巨大再開発の時代に徐々に力を失ってくる中で、全体として
普通に大学出て大会社に就職して、守られたレールをずっと生きてきたタイプの人
…の意向が強く反映されすぎてしまっているような状況にあるように思います。
もちろん「そういう普通の優秀な働き手」が社会の基礎を作っているのは確かなのでその事自体は悪いことではないんですが、ただ「そういう人たちだけ」の意見で回してると「面白い!」ものにはならないよねという話ではある。
さらにそのあたりを、日本の「新卒採用至上主義で終身雇用」のある意味硬直した人事制度が悪い意味で後押ししてしまって、「多様な意見」が取り入れづらくなっていた面があるはず。
そのあたりが、今後は「適切な雇用流動化」とか、「業務委託型にピンポイントで必要な人材をアサインできる仕組み」とかの工夫によって埋められていく時代になるはずだと思っています。
桜木さんは一応「散歩社」の社員だったんですが、今はフリーランスとして独立して業務委託で関わっていて、下北沢BONUS TRACKだけでなく東急がやってる「原宿のハラカド」にもコミュニティマネージャーとして関わっているんですよね。
桜木さんがBONUS TRACKに関わることになった経緯が面白くて、もともと美大出てフリーターからライブハウスのスタッフになった後、ほんと「色々やってきた」としか言えないような経歴なんですけど、その経歴を「リクナビ」みたいなところに登録しても全然「キャリア」として認めてもらえなくて全然オファーがなかったそうなんですよね。
でも、「自分はこういう人間です」みたいなのをそのままドカーンと露出したような以下のnoteを書いて「仕事募集!」って言ったら、次々とオファーが来たらしいです(笑)
この「仕事募集note」↑すごい面白いんでぜひ読んでみてほしいんですが、なんというか個人的に思うのは、
「こういうの↑で繋がって仕事がオファーされるって”人間社会の本来あるべき姿”のような気がするけど、これが”リクナビ型価値観”に毒されてまったく成立しなくなっていたのは良くなかったね」
…という感じがしますね(笑)
なんにせよ、「良い大学出て小田急や東急に勤めてそのままずっと働いてる人」と、桜木さんのようなタイプの変人wが、「適切に混ざりあって」仕事ができる人事の仕組みやカルチャーが成立するようになってきてるのはとても良いことだと思います。
こういう感じで、「スーツ着て働いてる層」と「変人」が適切にコラボできるシステムが維持できれば、「再開発絶対賛成vs再開発絶対反対」みたいな幸薄い罵りあいだけで終わらない新しい価値の創造に繋がっていくはずですよね。
ちなみに、大事な余談として聞いてほしいことがあるんですが、たまたま下北沢BONUS TRACKにある「色んな人の”日記”だけを集めている本屋」で桜木さん自身が書かれたZINE(文芸系の同人誌みたいなもの)を売ってたので買って読んでみたんですが、なんか想像以上に内面は「陰キャ」な感じでそこも第一印象と違いすぎてて面白かったです(桜木さんのZINEはここで買えます。それとは別に似た雰囲気の無料ニューズレターもこちらで登録すれば何本か読めます)。
「あらゆる人と仲良くなれる陽キャの極み」みたいな”見かけ”の裏に、「すごい陰キャに思い悩みながら人生を選び取ろうとしている」部分が眠ってることを知ってギャップに驚いたというか・・・
日記屋「月日」を案内してくれる桜木さん
なんか、
ひょっとすると今まで僕が人生の中で出会ってきた、いきなり「飴ちゃん食べる?」って聞いてくる関西のおばちゃんみたいな人も、桜木さんみたいに自分の言葉でZINEにまとめたりはしないけれども、「人を繋ごうとする強い熱意」の裏には、黙々と自分の中で醸成している深い精神世界があるってことだったのかも?
…みたいなことを考えさせられちゃう体験でしたね。
性的志向とか人種とか性別といった「アメリカ人が考える多様性」だけでなく、こういうタイプの「本質的な人間の種類としての多様性」をいかに「スーツ組が動かしてる経済」に還流させていけるか?が今考えるべき重要なテーマであるように思います。
7. 「スーツ組の事情」も否定せず吸い上げないと実現しないという当たり前の話ができるように
とにかく、こうやって「変人側の意志」が「リクナビ的な官僚主義」的な制度の壁を超えて大資本とコラボでき、「陰キャの精神世界」が適切に現実世界に還流するようになると、今度は逆に「スーツ組の言ってることにも必要な意味はあるんだね」という話になってきやすいところがあるのが、これから期待できるところだなと思います。
例えば、「世田谷の個人店」が好きな人は「湾岸のタワマン」とか大嫌いな人多いですけど、ただ過去20年の東京において、
「湾岸にタワマンをバカスカ建てた」→「世田谷の家賃水準を大きく下げて”過剰な高級化”(ジェントリフィケーション)を防いだ」
⋯という因果関係は明らかにあるんですよね。
東京は、他の主要な世界都市に比べると圧倒的に巨大な住宅供給をしてきたので、その事でニューヨークやロンドンやパリの周縁部ならありえない低価格で世田谷とかに住める状態になってるんですよ。
世田谷も最近は徐々に地価高騰を免れ得なくなってきてますが、少なくとも過去20年の下北沢とかで「面白い個人店」が生き残れた構造を、「世田谷以外の場所でタワマンをバカスカ建てたこと」が支えていることは間違いない。
他のわかりやすい例としては、今は「サブカル世界の星」的な存在である中野ブロードウェイは建設時に「東洋一のビルディング」と呼ばれ、当時のトップアイドルだった沢田研二も住んでたような今の「タワマン的存在」だったんですよね。
だからその時代の最先端的な「タワマン」的存在も、超科学都市のラピュタを木の根が取り囲むように、時代の流れとともに「カルチャー的に魂をコメていく」ことは可能なはずなんですね。
つまり、「カルチャー界隈」から見て「不倶戴天の敵」のように見えた「スーツ着てる存在」が考えていることは、「敵」じゃなくて「実は相互に補い合っている構造を持つ味方」の存在なんですよ。
お互いが持つ「ベタな正義」を否定しあわない、両立する「メタ正義」を考えていく機運が、色々な最新型のビジネスモデルの進化という形で見えてきているのだ、という希望を、この記事から感じていただければ嬉しいです。
8. さいごに 「世界中で起きている分断」を超える連携を東京発で作れるか?
今年久々に本を出してから、今までとは違うタイプの読者とどんどん繋がって世界が広がった感があるんですが、一番「今までは繋がれてなかった繋がり」として、こういう「カルチャー界隈」で生きてる人たちと仲良くなってきたのは大きいなと感じてます。
僕は色んな読者の人と「文通」しながら人生を考えるという仕事もしていて(ご興味があればこちらからどうぞ)、それで繋がってくれた「カルチャー界隈」の人たちと最近色々と深い話をするようになって、今まで相互理解が全然できてなかった「お互い」のことを急激に理解できるようになってきた感じなんですね。
ちょっと図式的な話をすると彼らの共通点は、
・安倍政権時代はだいたいかなり強い「反アベ」だった。
・神宮外苑再開発にも当然反対するのがデフォルトだと思っている。
⋯という感じなので、「そういう人たち」と僕が最近すごい「仲良い」感じになってきてるってなかなか底流的な大きな変化を感じるところがあります(笑)
でもこれは、世界的に「アメリカ一強時代」が終わって新しい多極化の時代になっていくにあたって、過去20年は当然だった「対立の図式」ごと消滅して新しい流れになってきてることを反映しているのだと思います。
その結果として、世界中では真っ二つに分断されて「不倶戴天の敵」になっちゃうような人間関係を、東京では「同じ目線を持った仲間」として繋ぎ止めて新しい解決策を作っていける情勢にできる余地が生まれていると思うし、なんとかそれを実現する流れを呼びかけていきたいと考えています。
例えば、僕がこないだ出した『論破という病』という本に書いてある、
「日本にとって安倍政権が必要とされていた意味」を直視しないと”その次”を現実性を持って描くことはできない
という話を主に失業率の問題から分析している話や、以下記事などで僕が主張している(『論破という病』の中でも書いている)、
外苑再開発について「主催者側の意図」を理解して迎えにいかないと、反対派寄りの人の意見も反映しようがないという話
…という話なんかに「感銘を受けました」と言ってくれる「カルチャー界隈」の人が出てきているのは、個人的にすごく大きな変化だと思っています。
というのは、自分は「反対派の人の気持ち」自体はすごくわかるタイプの人間で・・・というか僕自身に限らず、たとえば
日本の再開発もちょっと最近つまんないもの増えてるんじゃ?
って思ってるのはむしろ「マジョリティ」レベルで日本社会に共有されている問題意識だと思うんですよね。
みんな「気持ちはわかる」と思っている人は多いはずなんですよ。
とはいえ、一個一個の再開発プランとかは現実の課題に対して関係者がかなり真剣に考えて練り上げられている事情もあるので、その「スーツ組」の事情も迎えにいかないと、ただただ、
「悪辣な資本主義によって私達の”だいじなもの”が壊されている!許せん!」
⋯と叫んでいるだけでは取り入れようがない。(僕が外苑再開発について発言していた時に”いずれ老朽化したインフラの改修コストが激増するんで”という話をしてもポカンとされてましたが、埼玉の下水道陥没事故みたいな話で急激にリアリティを感じられるようになったのも時代の変化として大きいと感じてます)
そこに「お互いのベタな立場」を超えた「メタ正義」的な双方向のコミュニケーションができるようにならないと、日本は良くならないよ!ということを常々言ってきたのが僕の言論活動だったわけですけど・・・
そういう意味では、この「カルチャー界隈」の、特に「若い世代(30代〜40代)」が、ただ党派的に「敵」と「自分たち」を分けて紋切り型の論争をしてるだけじゃダメだよね・・・という動きをしなくちゃと強く思ってくれている感触があるのはすごく勇気づけられる話だと思っています。
桜木さんは、学生時代下北沢の再開発反対運動に参加してたらしいですけど、そういうタイプの人が再開発の中心にいるというのも「良い変化」ですよね。同時に、実は今も高円寺の再開発反対運動には今でも共感している面があるそうで、そういうタイプの人の意志もちゃんと”スーツ組”とコラボレーションして取り込んでいける構造をいかに作っていけるかがこれから鍵になってくるわけですね。
この「新しい流れ」に「最初は遠目に見てたけど徐々に希望を感じて参加できるようになった」という流れを徐々に作っていきつつ、今の時点ではすぐに理解しえない場合は「反対運動」という形でとりあえず表現されておく意味もある。
その両者が完全に分離してしまわずに、揉み合いながら、とはいえ「懐古主義でない新しい時代にフィットした具体的な解決」の方向に動かしていけるかどうか?
そういう「全体の構造」と進むべき未来について書いた私の著書もぜひ、よろしくお願いします。特にこだわりなければ電子書籍より実物本を買っていただけると嬉しいです!
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つづきはnoteにて(倉本圭造のひとりごとマガジン)。
編集部より:この記事は経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造氏のnote 2025年5月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は倉本圭造氏のnoteをご覧ください。