中国ハイテク最前線から芸能ネタまで幅広い守備範囲を誇るジャーナリストの畏友、髙口康太さんが中国ヒューマノイド(人型ロボット)の進化ぶりを取り上げた記事を書いた(6月14日付け週プレNEWS「中華ロボット25年史】ツッコミどころ満載だった「先行者」から四半世紀、中国の技術はここまで進化した。今や世界最強のロボ大国!」)
四半世紀前に皆が笑った(嗤った?)中国のロボット「先行者」のネタを書き出しに持ってきているので「柔らか」系の記事に見えるが、取り上げられている中国のヒューマノイド技術の進化ぶりは笑い事ではない。
中華ヒューマノイドを巡っては日本の紅白歌合戦みたいな年末の娯楽TV番組で約20体のヒューマノイドが集合ダンスを踊る光景やヒューマノイドのハーフマラソン大会などが話題になっているが、私がいちばん衝撃を受けたのは性能を抑えた廉価版は既に1体2万ドルを切る値段で売りに出されているという事実だ。
しかもAIを登載している。手間のかかるプログラミングやインストレーションをしなくても、ヒトの動作を視認して、それらしい動きを再現する、なんて機能は早晩標準装備になるんだろう。
そこから何回か学習を繰り返すと、例えば指定された部品を(落とすでも壊すでもなく)適切な力で掴んで、指定の箇所に差し込む、といった動作を淀みなく行えるようになるんだろう。しかも1体に覚えさせれば、後は何十体にも何百体にも同じスキルを移植できる。
そんなヒューマノイドが1体300万円以下で買える時代になったら・・・
本当は、四方八方人手不足に悩まされている日本こそ、そんなヒューマノイドを先駆けて開発、商品化すべきなんだけど、中国には今の日本に無い3つの強みがある。
①資金力
政府の支援のほかファンド投資によるリスクマネーの供給もある(最近は地方政府の出資がリスクマネーの主力になりつつあるという噂も)
②サプライチェーン
髙口さんの記事も触れているが、ヒューマノイドに必要なパーツや素材は、全国に多数あるサプライヤーから簡単に、直ぐ、安く調達できる。「ものづくり大国」は今や中国の形容詞なのだ。
③理工系ヒューマンリソース
中国は今や理工系学卒、院卒の人数で、世界の何処の国も太刀打ちできないほど豊富なヒューマンリソースを擁する国になった。しかもアメリカに似て人材の流動性が高い(社歴10年に満たないベンチャー企業が完成度の高いEVを量産できるのは、このヒトのモビリティあってこそ!)
情況は深刻だ。日本の在来ロボット工業界は、規模から見ても早晩太刀打ちできなくなるだろう。日本が中国や米国のヒューマノイドに伍して戦うには、自動車業界が「EVの次はヒューマノイド」と本気で取り組むしかないと思う。
それもできなければ、日本は10年後には人手不足を補うために百万台単位のヒューマノイドを外から導入して、毎年兆円オーダーのヒューマノイド・サブスク代金を海外に払っている、ってなことになりかねない。
編集部より:この記事は現代中国研究家の津上俊哉氏のnote 2025年6月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は津上俊哉氏のnoteをご覧ください。