ビジネスマンのピークは何歳か?

黒坂 岳央

黒坂岳央です。

「20代(30代)が過ぎた。若くない自分はもうだめだ」という意見をよく見る。本当だろうか?

確かに単純記憶や純粋な体力だけを言えば、40代や50代やピークを過ぎたと言える。しかし、知識や経験、スキルの蓄積の他、不文律の理解やコミュニケーション能力など総合的知性を考えるなら、若い年代よりむしろ、中高年が圧倒的に有利と言っていい。

これはあらゆる研究でもそのように言われているし、自己体験的にもそう感じる。筆者は今年に入ってまったく未経験の新しい仕事を始め、現在は関連の資格試験も勉強中だ。

20代で米国留学し、毎日真夜中まで図書館で勉強していたときより、遥かに頭に知識がよく入るのを感じるし、理解力も伸びたと感じる。仕事のパフォーマンスも30代より遥かに今の方が高いといえる。仮に今、20代の自分と勝負すれば、仕事でも勉強でも「圧勝」できるという実感がある。

自分はまだ50代、60代は経験していないが、おそらく総合的に出せる力のピークは「40代」だろうと考える。その根拠を述べたい。

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40代がピークとなる根拠

1. 経験とスキル

ビジネスマンにとって、経験とスキルはキャリアを通じて蓄積される重要な資産だ。

プロジェクトや課題に取り組む中で培われる専門知識や対人スキルは、年齢を重ねるほど深みを増す。なぜならこうした「実地」を通して身につけるスキルは机上の理論だけでは学べないからだ。「会議の作法」を本や記事だけですべてを学びきることは現実的ではなく、実際に1回でも参加する方が遥かに身につく。それゆえに実地訓練量の多さは、ビジネススキルの高さになる。

40代後半から50代前半の時期になれば、一通り仕事で必要な経験とスキルは積み上がっている。また、知識のブラッシュアップをしたり、新しい領域を学び直す際も「勉強の型」が入っていれば、力任せの暗記ができる10代より遥かに効率よく身につけられる。

2. 認知能力

認知能力は、大きく2つに分けられる。1つ目は流動性知能で新しい問題を解決する能力だ。こちらは20代後半から30代前半でピークを迎え、その後は徐々に低下する。一般的に「中高年になって頭が劣化した」とされるのはこれを指している。一方で、流動性知能についていえば、経験から得た知識のことであり、こちらは年齢とともに増加し続ける。

ビジネスマンにとって、結晶性知能は特に重要だ。過去の経験を活かした判断力や洞察力は、40代後半から50代前半にかけて高い水準に達する。

一方、流動性知能の低下といっても、40代という時期でもドラスティックに落ちているわけではなく、さらに使い続けていれば劣化速度は明確に緩やかになる。

仕事を続けている40代なら、業務に大きな影響を与えるほどのインパクトはない。やはりこの年代は認知能力全体としては、非常にバランスが取れた状態と言えるだろう。

3. 身体的健康

年齢を重ねると身体的健康は自然と低下する傾向がある。40代以降は「徹夜ができなくなった」「疲れが取れない」といった意見をよく目にする。

しかし、これについては定期的な運動や健康的な生活習慣によって維持可能だ。自分自身、40代になってから筋トレや運動を本格的にするようになったことで、昔より遥かに体力や可動域が高まったという実感がある。

筆者は20代前半の頃、旅行をするとちょくちょく休憩を取らなければ疲れて楽しめなかった。運動不足だったのである。しかし、今は時には子供を背負って旅行しても、一日で2万歩以上歩けるほどに体力がついた。

「中年になって体力がなくなった」という人は今からでも運動をすればかなりの程度取り戻すことができる。こちらも決定的な問題にはならない。

4. モチベーション

中高年になると人生の先が見えたり、能力の限界を感じてモチベーションが下がる、という話がある。一方で若い頃は野心的でリスクテイクの傾向があるとされる。

これ自体は傾向として正しいが、すべてとは言えない。たとえば自分の場合はまったくの逆で「新しい仕事を始めて専門家になるなら今すぐでなければならない。これ以上年を取ればチャンスが狭まる」と考えて、全身全霊で勉強や、新しい仕事に打ち込んでいる。

「若い頃はやる気がある」という意見も世の中には支配的だが、筆者はかなり疑わしいと思っている。これまで多くの日本の大学生、新卒とも会話をしてきたが、「仕事なんてできればしたくない。一生学生のまま遊びたい」といってサボることばかり考えていたり、上司がいない間にこっそり帰ってしまったりする姿は何度も目撃している。

結局、「年齢差より個体差」だと思うのだ。

実は研究でも、ビジネスマンのピーク年齢が40代後半から50代前半であることが裏付けられている。”Age and High-Growth Entrepreneurship” by Azoulay et al.(2015年)では、成功した起業家の平均年齢が45歳であることが示され、また別の調査では、ビジネスマンのパフォーマンスが50代前半でピークに達すると結論付けられている研究結果も出ている。

ビジネスマンとしてのピーク年齢は、一般的には40代後半から50代前半だろう。この時期は、経験とスキルが豊富に蓄積され、結晶性知能が高く、身体的健康が維持され、モチベーションと経済的安定がバランスよく整うタイミングなのだ。

40代で人生を諦めるのはあまりにも早すぎる。昔の40代より今の40代は見た目だけでなく、体も若い。人生100年時代ではまだ折り返し地点ですらない。まだまだこれからである。

 

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