スペイン軍部、「NATOからの追放」を懸念
7月25日、オランダ・ハーグでNATO首脳会議が開催された。この会議に先立ち、スペインのサンチェス首相は、2035年までに国防費をGDP比5%(国防費3.5%+関連支出1.5%)に増額する案に反対を表明していた。一方で、GDP比2.1%までの増額には応じる姿勢を示していた。
ちなみに、スペインの国防費はこれまでNATO加盟国中で最も低く、2024年時点でわずか1.28%に過ぎない(1月27日付「エル・オルデン・ムンディアル」より引用)。
このように、防衛支出が最も少ない国が5%への増額に反対しても、説得力には乏しい。さらに、NATOのルッテ事務総長はかつて公の場でサンチェス首相を「シニカルな人物」と評しており、両者の関係はもともと険悪である。
加えて、サンチェス首相はEU内でも信頼を失っている。妻や弟、与党の前組織委員長、妻の秘書らが汚職で起訴され、すでに公判も始まっているにもかかわらず、首相自身は辞任の意思を見せず、国民に信を問うべき総選挙の実施にも否定的である。唯一彼がしているのは、政権の座にしがみつくことだけだ。
こうした背景をEUの首脳たちは承知しており、そのような人物が国防費の増額に異を唱えても、支持を得ることは難しい。実際、スペイン軍部の一部には、スペインがNATOから追放されるのではないかという懸念さえある。
トランプ大統領、スペインに圧力
もちろん、NATO加盟32カ国すべてが今回の増額案に満足しているわけではない。ベルギー、スロベニア、カナダなども内心では不満を抱いているが、サンチェス首相のようにあえて反対を公言する国はない。
そもそも、2035年までに32カ国すべてが一斉にGDP比5%を達成するのは現実的ではない、というのが多くの国の本音だろう。
スペインの反対姿勢は、首脳会議前の時点でトランプ大統領にも伝えられていた。そのため彼は米国を離れる前の記者会見で「スペインが問題だ」と名指しで批判し、さらに次のように述べた。
「スペインは唯一、GDP比2%にとどめようとしている国だ。しかもスペイン経済は好調なのに、少し自分勝手に動いている。私はそれを許すわけにはいかない」
加えて、「スペインと交渉し、関税を2倍に引き上げることで合意させる意向だ」と語り、国防費の増額に応じないならば、関税によって埋め合わせるという考えを明確に示した(6月25日付「OKディアリオ」より引用)。
トランプ大統領からのこのような「脅迫」もあり、サンチェス首相は最終的に5%の国防費増額覚書に署名した。
しかしその後の記者会見では、署名した文書には例外規定があるかのような含みを持たせ、改めて2.1%への増額方針を主張した。これにはイタリアのメローニ首相も驚き、「32カ国が署名した覚書に例外は存在しない」と強く反論した。
2029年、トランプ退任前に進捗確認
サンチェス首相は、おそらく今回の署名について、自らが内容を履行する必要はないと考えているのだろう。次の総選挙では自身が勝てないことを自覚しており、その責任は次期政権が負うと踏んでいる可能性が高い。
なお、この増額計画については2029年に見直しが予定されており、それはトランプ大統領が退任する直前、つまり2029年1月末までに確認が行われる見通しである。
今回のNATO首脳会議は、全体としてトランプ大統領の意向に沿って国防費増額が決定されたように見える。達成できるか否かは二の次であり、増額方針の「政治的合意」が最優先された会議だったと言えるだろう。