欧州連合(EU)の専門機関の一つ、「欧州刑事警察機構」(ユーロポール)は先月24日、「2025年の欧州におけるテロリズムの主要な動向と傾向」(TEーSAT)を公表した。ユーロポールは1999年に発足し、オランダのハーグに本部を置く。
ユーロポールの目的は、加盟国(27カ国)の警察機関の情報共有を支援し、重大な国際犯罪に対処することにある。ただし、捜査や逮捕といった警察権限はない。以下、ユーロポールが配信したプレスリリースからその概要をまとめた。
ユーロポール「テロリズムの動向と傾向に関する報告書」ユーロポール公式サイトから
2024年には、EU加盟国14か国から合計58件のテロ攻撃が報告された。このうち、34件はテロ貫徹、5件は未遂、19件は阻止された。このうち24件はジハード主義テロによるもので、前年比で10件増えた。5人が死亡、18人が負傷した。21件は左翼および無政府主義テロは21件。8件はその他または特定されていない形態のテロだ。
20カ国で449人がテロ関連犯罪で逮捕された。逮捕者のほとんどはジハード主義テロリスト(289人)で、続いて右翼テロリスト(47人)、左翼および無政府主義テロリスト(28人)、民族国家主義および分離主義テロリスト(27人)だった。10の加盟国で、その他のテロ行為または特定されていない形態のテロ行為に関連するテロ犯罪で58人が逮捕された。ちなみに、16加盟国で終結した裁判の結果、テロ犯罪に関して427件の有罪判決と59件の無罪判決が下された。
ユーロポールのカトリーヌ・ドゥ・ボレ事務局長は「TE-SAT報告書が示すように、テロリズムと暴力的過激主義はEU加盟国にとって最優先事項だ。緊迫した地政学的状況は、暴力的過激主義の言説を増幅させ続け、EU内での過激化を促進させている。また、EU全域で未成年者や若者がテロや暴力的過激主義活動に関与するケースが増加しており、憂慮すべき状況だ。テロリスト集団は、特に精神疾患、社会的孤立、デジタル依存に苦しむ脆弱な個人を標的としている」と述べている。
また、マグナス・ブルンナー欧州委員会内務・移民担当委員は「TE-SATは、テロリズムと暴力的過激主義が依然として深刻な脅威であることを明確に示している。若者の過激化と、テロリストや過激派によるオンラインプラットフォームの悪用については、特に警戒を怠ってはならない。EUのテロコンテンツオンライン規制は既に効果を発揮しており、テロリストや過激派のコンテンツを迅速に削除するのに役立っている。ProtectEUでは、これらの脅威やその他の脅威にさらに効果的に対抗するための計画をまとめている。今年後半には、今日の課題に適応した新たなテロ対策アジェンダを提示するとともに、EU域内の人々の保護を強化するため、EU近隣諸国との協力を強化する。また、EU市民を憎悪や過激化から守るため、オンラインプラットフォームとの協力を継続する。これは、特に子どもなど、最も脆弱な立場にある人々にとって重要だ」と強調している。
報告書は「暴力を扇動するオンラインコミュニティの脅威」を強調している。2024年にテロ関連犯罪で逮捕された容疑者のほぼ3人に1人は、未成年または若年成人だ。最年少の犯罪者は12歳で、テロ襲撃を計画していたとして逮捕された。
最近の殺人事件や襲撃事件の一部は、オンラインカルトコミュニティとの関連性が指摘されている。これらのコミュニティは、デジタルプラットフォームを利用して極度の残虐行為を共有・常態化し、被害者から金銭を強要し、若者を暴力行為に駆り立てる過激化を助長している。これらのグループのメンバーは、平均年齢8歳から17歳までの脆弱な未成年者を特に標的としている。これらの暴力グループの多くは、ジハード主義テロ、暴力的な右翼過激主義、オカルト、悪魔崇拝とイデオロギー的なつながりを持っている。
また、EUの安全保障に影響を与える地政学的動向について、ガザ紛争は、EUにおけるテロの脅威に引き続き大きな影響を与えている。インターネット上のテロリストや暴力的過激派によるプロパガンダは紛争を道具化し、憎悪を煽り立て、反ユダヤ主義は両者の共通項となっている。ロシアによるウクライナ侵略戦争は、暴力的過激派の言説の拡散、過激化、そして動員を促進するもう一つの要因となっている。また、報告書はアサド政権崩壊後のシリアの民主化への動向にも注意を払っている。
看過できない点は、新興技術の悪用だ。テロリストや暴力的過激派は、多様な技術を悪用し続け、そのノウハウのレベルは多岐にわたる。暴力的過激派コンテンツの単なる複製・共有から、AI生成コンテンツの制作、没入型技術の活用、高度なデジタル資金調達ツールの活用まで、その範囲は多岐にわたる。プロパガンダやヘイトスピーチの作成・拡散を目的とした生成AIの利用は、特に右翼シーンにおいて前例のないレベルに達している。暗号通貨はテロ資金調達に引き続き利用されており、伝統的なハワラ・システム(Hawala非公式金融網)をデジタル化した「デジタル・ハワラ」においても重要な役割を果たしている。
オランダ、ハーグにあるユーロポール本部 Wikipediaより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年7月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。