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参議院選挙まで2週間を切ったところで、党首の神谷宗幣氏の過激な発言が目立つ参政党の支持率が急上昇していることが話題のようだ。ただ、その他の新興の政党も支持率を上げ気味だ。基調は、自民党の支持率が低下の一途をたどっていることである。それに加えて、20世紀から存在している老舗の政党が、伸び悩んでいる様子だ。
これは日本社会全体に蔓延している閉塞感がもたらしている状況だと思われる。年代別の世論調査を見ると、自民党、立憲民主党、公明党、共産党などの老舗の諸政党は、高齢者層で、それぞれの平均支持率より高い支持を得ている。つまりこれらの老舗の諸政党は、若年層での低支持率にあえいでいる。日本の現状への不満あるいは不安が、若年層に根深く存在している。そこに過激な発言を駆使した新興の政党が、食い込んでいる構図だ。
これはかなり構造的な事情で発生している現象だと言える。若年層は、日本の総人口における人口比率が小さい。したがって影響力を行使する範囲には限界がある。他方で、基本的には現在の若年層の総人口における比率は高まっていくしかないわけなので、老舗の諸政党の未来は暗い。
もっとも新興の諸政党も、党首のイメージに依存して支持を広げている傾向が強いように思われる。たとえば参政党の場合には、若い女性の候補者を前面に出す戦術をとっているところなど、神谷氏の下で統一的なイメージ戦略が作られていることが目立つ。必ずしも持続可能性のある政策体系が練られているという印象を与えているわけではない。
日本の政治は、このまま本格的に流動性の高い時代に突入していくのではないか、という印象だ。
もともと自民党の長期一党独裁体制は、冷戦時代の特異な時代環境の中で生まれたものだった。一つは親米、もう一つは反共の路線で、安定感のある政党の代表として支持基盤を作った。
そのため冷戦終焉直後に、自民党には大きな試練が訪れた。1993年の総選挙で、新生党や日本新党といった新興の政党に票が流れ、自民党は過半数割れして下野した。背景には、冷戦が終わり、資本主義と共産主義の対決の構図にも決着がついたからには、逆にもう自民党でなくてもいい(社会党や共産党が第一党になる可能性はない)、という時代の感覚があった。
自民党は、早くも1994年に、既存政党同士の連立を社会党との間で形成して、選挙をへず政権を奪還した。その後もしばらく政権を維持するが、単独で過半数を獲得することが困難であるため、連立を組み続けるのを常態とするようになった。政党支持率は3割前後が通常であった。
社会党の村山内閣に続いた橋本内閣は、日米同盟の再定義を進め、自民党の伝統である親米政党としての安心感を前面に出す戦略をとった。これがさらに奏功したのは、「自民党をぶっ壊す」と主張しながら、2001年から2005年までの首相在任中に目に見えた自民党の支持率の向上を成し遂げた小泉純一郎氏である。
「対テロ戦争」の踏み込んだ対外政策をとるアメリカのブッシュ政権に対する全面的な支持を掲げ、「対テロ特措法」「イラク特措法」などに代表される路線をとった。その一方で、行き詰まり感のある国内政策の面では、「改革」を掲げて、既存の自民党の政策を改変するのは、むしろ自分であるという主張を繰り返した。
しかし小泉氏が退陣すると、自民党の支持率は下降傾向に入り、2009年には民主党に政権を譲って、下野した。しかし民主党がアメリカとの関係維持に苦慮して支持率を下げると、2012年の総選挙で自民党が勝利し、安倍晋三氏が首相に就任した。
安倍氏は、平和安全法制の成立に代表される日米同盟の堅実化に着手した。繰り返し祖父の岸信介氏が新安保条約の成立を主導した事例を参照することによって、冷戦時代の構図の再生を図り、結果的には、日米同盟の強化を、高い支持率を維持する長期政権の基盤とした。国内的には、小泉氏にならって、自民党の既存の政策を改革する「アベノミクス」路線を前面に出した。
しかし安倍氏の退陣とともに、自民との支持率はあらためて下降傾向に入る。岸田文雄前首相は、安倍政権で長く外相を務めた経験も活かし、親米路線を新たに再確認する姿勢をとった。しかし現実には、その政策は、ウクライナ支援と、欧州諸国が多数を占めるNATOへの接近といった形でしか表現されなかった。「今日の欧州は、明日の東アジア」というレトリックは、必ずしも否定されたわけではなかったとしても、仮説に基づく抽象度の高い命題で、岸田内閣の支持率の向上にはつながらなかった。
ウクライナ情勢を見て、国家財政の負担を度外視して(体系的な経済政策もないまま)日本の防衛費を倍増させるという姿勢は、小泉氏や安倍氏の日米同盟強化と国内経済改革を組み合わせる路線とは、似て非なるものだったと言わざるを得ない。
このようにして見ると、冷戦終焉以降、自民党の支持率は3割未満であるのが基調であり、しかも冷戦時代からの支持者の高齢化とともにさらに減少していくのが、基本傾向であると言うことができる。
支持率を復活させたカンフル剤的な効果を持った、小泉氏と安倍氏の内閣の時代が、むしろ例外的だったとも言える。二人に共通するパターンは、日米同盟の強化を通じた外交政策の「安心感」に、停滞する国内社会を「改革」するという路線の組み合わせだった。
現在、前者は非常に厳しい。アメリカは、大々的な対テロ戦争を行っているわけでも、日本の法制度に大きな不満を持っているわけでもない。また、アメリカの相対的国力が低下しており、余裕がない。ところが日本にも余裕がない。アメリカから見た日本の魅力も低下した。同盟関係の強化は、積み上げる余地があまりないと言える。
防衛費の対GDP比を2倍にする、3.5倍にする、5倍にするといった政策を続けていくとして、国力の増強が図られるわけではなく、支持率が向上するはずもない。せいぜいやむをえず、どこかで本当に有事を作り出して危機を演出して、積み上げた防衛費で政権担当者の支持率回復を狙う、という不健康な未来図があるくらいだろう。
国内社会の「改革」についても、手詰まり感が大きい。あらゆる問題が肥大化して累積している。天才政治家が、わかりやすい政策の導入を通じて、画期的な政策を出すことを約束できるような状況ではないことは、皆わかっている。とはいえ老舗の政党の(高齢者に配慮した)小手先の政策を続けていても、未来が切り開かれないだろうことも確かだと思われる。やむをえず、イメージ先行であっても閉塞感の打破を誰かに期待せざるを得ない。
今の日本人にまず必要なのは、閉塞感の中で、なお政治の流動化に耐えていく心構えであると思われる。
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