どこに向かうイーロン・マスク氏:テスラ社に再び本腰を入れることはない

イーロンマスク氏を見ていて思うのは「何にでも手を出したがるタイプ」。そういう方は時折いらっしゃいます。せいぜい、2つ、3つぐらいならまだしもあれもこれも全部口出しをしたくなるタイプですが、彼の場合、お金があるので違う次元のレベルでそれが許されてしまうところに歪みが生じているように見えます。何にでも手を出すタイプは頭脳のレベルとは関係なく、単なる性格の問題だろうと思います。氏がアスペルガー症候群だと自ら述べていますが、強いこだわりを持つようになるその症状も影響しているのでしょう。

マスク氏がテスラを立ち上げ、スペースXの事業を軌道に乗せたところまでは苦労しながらもベクトルの向きは正方向でした。X(旧ツィッター)を買収した際にはメディア業界はマスク氏には似合わないと思ったのですが、引き下がることはありませんでした。その後も数々の話題をさらっていったのはご承知の通りです。

そんな中、XのCEOであるリンダ ヤッカリーノ氏が退任すると発表されました。Xを買収してマスク氏支配の下で登用されたヤッカリーノ氏ですが、マスク氏の下、調整役に徹する業務であり、氏が求めていた真の意味でのソーシャルメディアの育成というより、広告主を集めてくることを求められ、マスク氏の使い走りになっていた可能性があります。退任理由は明白にしていませんが、マスク氏とヤッカリーノ氏の間に微妙な空気のずれがあった公算はあるでしょうし、マスク氏が一時政権に関与した際のDOGEでの振る舞いや行動は激しい批判の対象となり、さらに退任後、トランプ氏と対峙し始めてからはXが守勢に回ることも多く、ヤッカリーノ氏には「やりきれない思い」があったのではないかと推察します。

マスク氏はXをxAI社傘下に置く組織変更をしました。xAI社はグロックという対話型チャットポッドで利用者がxAIのシステムにあるビッグデータにアクセスすることでやり取りをすることを事業の柱としています。この手の開発は各方面で現在かなり盛んで、私の知り合いもチャットポッドで1時間ぐらい会話することができるベータ版を作っています。問題はこのデータに思想的偏りがある場合、得られる情報も当然偏向型になりやすく、結果として聞き手はバランス感覚に欠ける情報に洗脳されやすいという弱点があります。

マスク氏の言動を見ると自らの思想への賛同者をより集めようとする姿勢が顕著であり、この歯車の変化にマスク氏が関与する事業者たちが果たして我慢し続けられるのか不安を感じます。

その中でも特に注目されるのがテスラ社であります。テスラの先行きについてはネガティブとみるアナリストが多いのですが、株価は現状、思った以上には下げていません。ただ、何年も前に申し上げたことがあるPER(株価収益率)が相変わらず新興企業並みで現在でも160倍程度になっています。同社が世界のリーダーとして独走していた時期ならともかく、今や中国勢に押され、それ以外の日欧米中韓のメーカーもEVのラインアップを増やしている中でテスラがone of themになっていることは否めません。

マスク氏は自らが圧倒的な独創性の中でディファクト スタンダードを作り出す男として君臨することに最大の快感を覚えている中でテスラ社は既にその域にはないとみています。幸か不幸か北米では中国のEVが輸入されていないので「灯台下暗し」の状態かもしれませんが、テスラがアップルのように長期にわたり世界で一定の存在感を示し続けることができるかは個人的には疑問視しています。ロボタクシーに対する期待感もありますが、現状、助手席に安全管理員が座らなくてはいけない状況ではグーグルのウェイモや潜在的に中国勢には後れを取っていると思います。

ここに来てマスク氏はアメリカ党なる第三極を立ち上げると表明しました。コメンテーターの意見は辛辣です。政治家の素養という点では彼にあるのはカネだけだ、と切り捨てる評論家もいます。世論調査で不人気のトランプ氏(ロイター調査の支持率42%)よりももっと不人気のマスク氏(同36%)が政党という人を束ねる組織を作れるのでしょうか?私に言わせればヒューマノイド型のロボットを候補者として擁立すると言い出しかねない気がします。「人間の判断はあいまいで稚拙だが、AIに管理されたヒューマノイドこそ、人類が待ち望んだ最も公明正大で有権者のために24時間働く新たなる指導者たちになる」と本気でいう気がします。(但し、私がヒューマノイド政治家を完全否定する気はなく、人類の衰退とともにいつかはそうせざるを得ない時が来るだろうとみています。)

マスク氏はもがいている、そう見えます。テスラ社に再び本腰を入れることはないと思います。理由は彼は後ろは向かないから。テスラもスペースXもXも彼には「戦歴」であり、次のターゲットを目指すことしか頭にないはずです。彼が今後、再び盛り返すのか、時の人で終わるのか、xAIのチャットポッドですら答えを引き出すことはできないでしょう。

では今日はこのぐらいで。

マスク氏 ホワイトハウスHPより


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年7月14日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。