逆に貧乏になる「間違った節約術」

黒坂岳央です。

世は空前の「節約ブーム」である。ネットでもリアルでも「安く済ませるワザ」みたいな話をよく見聞きする。記事や動画はどこも盛況だ。また、子供の学校の保護者会で集まっても必ずといっていいほど「マイ節約術」みたいな話で盛り上がる。

だが現実には、その節約こそが「逆に貧乏になる」原因となっているケースも多いと感じる。確かに目先の10円、100円は確かに安くなるが人生そのものが小さくなる大きなリスクを含むと思うのだ。本稿では筆者独自の視点で考察する。

mapo/iStock

誤解1:コンビニは割高だから使うな

「コンビニは割高だから使うな」という意見は節約論者の常套句である。たしかに、商品単価だけを見ればドラッグストアやスーパーのほうが安いだろう。

だが問題はそこではない。ドラッグストアまで歩いて往復20分かかるとしたら、そこで節約できる金額はせいぜい100円、200円だ。これをその20分でできていたであろう仕事に置き換えるとほぼ、すべての人で「時給負け」する。

いや、時給だけではない。炎天下や真冬の移動で体力を削られ、その後の仕事のパフォーマンスが落ちれば、ムダな移動に使う体力や意欲は完全な機会ロスと言える。

具体的にいえば、時給1000円で働く人が1時間働けば、このムダな移動3回分を稼げることになる。「残業代」として働くなら、割増時給でさらに効率が良くなる。

コンビニは速くて近い。最低限の買い物で済ませるなら「時間と体力を買う場所」と割り切って合理的に活用するべきだ。

誤解2:セールで賢く買い物をしろ

セールのチラシやアプリに目を通し、「今日はこれが安い」「○○%オフだから買っておこう」と行動を決める人は多い。特に「ブラックフライデーセール」などで一気に財布の紐がゆるくなりがちだ。だがこれは典型的な“支出を前提にした行動”である。

そもそも、本当に必要な必需品ならセール情報など見なくても自発的に購入する。それなのにセールを見ると、「この中から何か買うべきものはないか?」というモードに脳が切り替わってしまい、「不要な支出をゼロにする」という発想が消える。人間は与えられた選択肢の中から選ぼうとする機能性を持ち、「取引をしない」という第3の選択肢を忘れがちだ。

そのため、「セール情報を見る」という行動自体が、消費脳を刺激して本来買わなくていいものまで買ってしまう。真の節約とは、「必要なもの以外は買わない」であるべきだろう。どれだけ安売りでも0円には勝てない。

誤解3:光熱費の節約

「エアコンの設定温度を上げる」「照明は最小限」「シャワーの時間は5分以内」など、水道光熱費を徹底的に節約しようとする人がいる。しかし、これは本当に費用対効果に見合っているのか?

たとえば、エアコンを我慢して真夏に汗だくで作業すれば、集中力は落ち、ミスが増え、仕事の質が下がる。いや、そもそも「仕事や勉強を頑張ろう」という意欲が蒸発する。

しかもそれで浮くのはせいぜい月に1,000円〜2,000円程度。それに対して、快適な環境で高い集中力を維持できれば、その10倍、20倍の収入を生み出せる可能性がある。

正直、水道光熱費の節約は努力にリターンがまったく見合わない。特に在宅で仕事をしている人なら、「節約は一切しない。その代わりに仕事を頑張って稼ぐ」と仕事に励むほうがはるかに合理的である。

つまり、「水道光熱費の節約」は貧乏を防ぐための行動のように見えて、収入を削る“貧乏化スイッチ”になってしまうのだ。

誤解4:自炊はかえって割高

「自炊は逆に割高」「時間の無駄」という声も依然として根強い。だがこれは、自炊スキルが低い状態での意見に過ぎないといつも思う。自炊スキルを高めれば誰しも違った見え方になるとおもっている。

自炊は、慣れればまとめて調理→冷凍→無駄ゼロの状態にできる。さらに、栄養バランス・添加物・味の調整など、健康・集中力・長期的パフォーマンスを支える「全方位型の投資」になりえる。

筆者は子供がいるのもあって、料理を毎日する。3台のガスコンロを使って一気に料理するので、短時間で大量の食事を作ることができる。上手に冷凍保存すれば、わずかな調理時間でトータルパフォーマンスは非常に高くなる。そして今いった活動には特別な才能など一切要らない。自分程度の水準なら、毎日することで手順が洗練されて誰でもできるようになる。

一方で外食は、店舗までの移動、並ぶ時間、栄養の偏り、混雑による精神的疲労など、目に見えないコストがかかる。特に最近は人手不足なのか、先日昼食に牛丼チェーンに入ったら、注文して運ばれてくるまで15分以上待った。もちろん、それで店員さんを責めることなどはしないが、「やっぱり自炊の方がいい」と改めて思った次第だ。結局、牛丼屋に出かけて昼食をとって戻るまでの時間は自炊より倍はかかった。

自炊レベルを上げれば、お金・時間・健康を同時に最適化できるのである。

誤解5:家賃をケチる

正直、家賃は生活費で最も大きな割合になることが多い支出だ。「家賃は安いに越したことはない」と考える人は多く、筆者も20代の頃は選べる中で最安の物件を選んだのでえらそうなことはいえないが、これも危うい節約術である。

家賃は単なる「住むためのコスト」ではない。騒音・空気・住人層(民度)・通勤時間・生活の快適さなど、日常すべてに直結する“生活インフラ”そのものである。実際、家賃を1万円ケチって騒音トラブルや空気の悪さに悩まされ、睡眠の質が落ち、仕事の生産性が下がるようでは本末転倒である。

筆者が東京で住んだ物件は、目の前が首都高で24時間トラックの走る騒音や振動がうるさかった。それでいて日当たりは最悪で、庭に洗濯をするとジメジメで服にカビが生えたこともあった。周囲の治安も非常に悪く、引っ越しをして出ていった後、本当に筆者の住んでいた「部屋」で殺人事件が起きた(大島てるに載っている)。今の自分なら絶対に選ぶことはない物件だが、当時は本当に経済的に困窮して選択肢がなかった。

「安い家賃には、それなりの理由がある」と知っておくべきである。

節約とは、本来「お金を活かすための選択」であるべきだ。だが、節約することが目的化すると、トータルでは損失が拡大する「悪い投資」になりかねない。もちろん、ムダな出費は削るべきだが、常に「これはトータルだと本当に得なのか?」という視点を忘れてはならないだろう。

 

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