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政治ジャーナリスト田崎史郎氏が14日、TBS系「ひるおび」に出演。ラストサンデーを終えた参院選について、自民党が苦戦と解説した。原因は、鶴保庸介参院予算委員長の「運のいいことに能登で地震があった」発言だとした。しかしこの発言は奇異である。
日本の政治は今、戦後最大級の信頼危機に直面している。繰り返される政治とカネの問題、そして裏金問題は、もはや一過性のスキャンダルという枠を超え、日本の民主主義の根幹を揺るがす構造的な病理として国民の前に横たわっている。
最も深刻なのは、自浄努力の完全な欠如である。問題が発覚するたびに「遺憾である」「再発防止に努める」という決まり文句が機械的に繰り返されるが、実効性のある改革は一向に進まない。政治資金規正法の改正も、結局は骨抜きの内容に終わり、抜け道だらけの制度が温存されている。国民はこの終わりなき茶番劇に、もはや完全に嫌気がさしている。
派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金問題では、組織的な不正が明らかになったにもかかわらず、責任の所在は曖昧なまま幕引きが図られた。「秘書が勝手にやった」「知らなかった」という言い訳が通用する政治文化そのものが、国民の政治不信を加速させている。透明性の確保や説明責任という民主主義の基本原則すら守られていない現状は、もはや先進民主主義国家として恥ずべきレベルに達している。
さらに国民生活に追い打ちをかけるのが、減税なき増税一直線の経済政策だ。物価高騰で多くの国民が日々の生活に苦しむ中、政府から聞こえてくるのは増税の話ばかりである。社会保険料の負担増、各種控除の縮小、そして消費税率引き上げの議論まで、国民負担を増やす方向の政策ばかりが検討されている。
一方で、減税による生活支援という選択肢は最初から議論のテーブルにすら上がらない。「財政規律」を錦の御旗に掲げながら、無駄な公共事業や効果の疑わしい政策には湯水のように予算が投じられる。この矛盾に国民は気づいており、政治への失望は深まるばかりだ。
このような状況で有権者が自民党から離れていくのは、至極当然の結果と言えよう。長年の一党優位体制の中で、権力の腐敗と驕りが極限まで進行してしまった。野党の批判に耳を貸さず、メディアの追及をかわし、国民の声を無視し続ける姿勢は、もはや民主主義政党としての体をなしていない。
民主主義において、政権交代は健全なシステムの証である。権力の固定化は必ず腐敗を生む。これは歴史が証明する普遍的な真理だ。自民党は一度下野し、野党として自らを見つめ直す時期に来ている。2009年の政権交代の際も、下野期間中に党改革が進められたが、結局は元の木阿弥に戻ってしまった。今度こそ、より徹底的な改革が必要だ。
権力の座から離れることで初めて見えてくる問題もある。国民の生活実態、社会の変化、時代の要請を、野党の立場から虚心坦懐に見つめ直すことで、真の自浄作用が生まれる可能性がある。それは単なる人事の刷新や表面的な組織改革ではなく、政治文化そのものを変革する根本的な改革でなければならない。
また、政権交代は野党にとっても試練となる。政権担当能力を示し、具体的な政策を実行する責任が生じる。この緊張感こそが、日本の政治全体のレベルを向上させる原動力となるはずだ。
今こそ、日本の政治に真の緊張感と変革が必要な時である。国民は、もはや小手先の改革や表面的な反省では満足しない。政治とカネの問題を根本から断ち切り、国民生活を第一に考える政治への転換を求めている。そのためには、一度既存の権力構造をリセットし、新たな政治文化を構築する必要がある。政権交代は、その第一歩となるだろう。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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