習近平国家主席に何か起きているのか?:健康不安説・失脚説と広がる憶測

私が中国の動きが明らかにおかしいと思ったのはトランプ氏との関税交渉で中国が英国に次いでいち早く交渉を終えてしまったことであります。実際には事務レベルでの暫定合意を最終確認するためにトランプ氏と習金平氏の最終的なセレモニアルな直接合意が見込まれていますが、これがなぜか行われていません。(米中関税交渉の期限は一応8月12日)事務レベルでの合意は6月12日頃でしたから既にひと月以上経て、アメリカの関税政策で最も重要な相手国である中国との最終合意をしていないというのは奇妙といえば奇妙であります。

習近平国家主席 中国共産党新聞より

習近平氏を取り巻く最近の「不思議」は数多く指摘されています。7月6日にブラジルで開催されたBRICSのサミットに欠席、李強首相が出席しています。習近平氏が同会議を欠席するのは初めてです。

2つ目に日中戦争のきっかけとされる盧溝橋事件の抗日記念日である7月7日のイベントにも欠席しました。かつては7人の政治局員全員が出席することもあったほど重視されている行事です。同日、習氏は何立峰副首相を連れてやはり抗日の象徴とされる百団大戦記念館というところで献花をしています。なぜ、メインイベントに欠席し、ややサイドラインにあるイベントに少人数で参加したのか疑問視されています。

3つめは毎月開催されるはずの政治局会議が5月に開催されなかったのであります。6月は開催されていますがその内容がよくわからないのであります。つまり、翌日の人民日報の記事からは会議が極めて形式的でほとんど無意味な議論で終わっているようで記事にもならない取るに足らないものであったのです。

習氏を取り巻く噂には2つあります。1つは健康不安説、もう1つは失脚説であります。どちらにしても8月上旬に行われる北戴河会議を経て様子がもう少しわかってくるかと思います。この会議は長老などが集まり個別の会談をいくつもこなすもので重要案件や人事などが盛り込まれるとされます。中国のトップ人事を含めた国内政治最大のパワーゲームであり、その内容は一切公開されません。ただし、その会議を経た後の動きから様々な憶測を生むことになります。

健康不安説は最近に始まったわけではなく、肝臓腫瘍、膵臓癌、脳梗塞…といった噂はずっとあり、上記のBRICS欠席理由を「航空機による長い移動の負担が大きい」といえば確かに健康不安説に頷きやすい気がします。ただ、習氏は政治活動をしており、公の場から長いこと消えたわけではありません。ただ、行動が淡白になった気がするのです。

例えば日本と現在関係改善が進んでいます。この解釈についてはトランプ氏が大統領になった時点で中国は日本を取り込むだろうとされていました。私もそう意見しました。その中で石破政権のベクトルが中国と組みしやすいとみられるため、加速度がついているというのが私の見方です。では習氏の本心はどこにあるのか、といえばアメリカともっと敵対し、「目には目を、歯には歯を」の激しい抵抗をするはずなのに中国外務省の報道官もかなり控えめなスタンスに見えるのです。

とすれば私は健康不安説ではなく、失脚説のほうが正しいのではないかという気がするのです。特に7月7日の抗日イベントの行動は明らかにおかしいのです。BRICSを欠席する理由が抗日イベントと日程的に重なるからだとすればサイドラインの場所にひっそりと献花しに行く理由は見いだせないのです。

失脚説の根拠は軍部を中心としたさまざまな不正疑惑と幹部の解任や「行方不明」で一部では既に人民解放軍の主導権を失った可能性も指摘されています。もう一つの可能性は経済の長期にわたる低迷でイデオロギーだけでは14億人の民を押さえられないという反発が内部から出ている可能性はあるでしょう。もちろん、トランプ氏に押されまくっている状況も反習近平派からすれば付け入るスキを与えていると言えましょう。

仮に習氏が何らかの形でトップを降りるとします。そのパワーゲームの変化は想像の域を飛び越えてしまいます。習近平氏の独裁型が崩れるなら再び中国国内政治の戦国時代がやってくるわけで混とんとするでしょう。当然、外交にも影響します。最大の注目はアメリカとロシア、及び台湾問題であろうと思います。そのアメリカと目先の関税問題を形式上やってつけてしまったのであとはロシア政策でしょうか。いずれにせよ中国が抱える国内外の問題は奥深く、非常に読みにくい訳で展開次第では激震が走る可能性はあります。

もちろん、これは震度1か2の地震で先々大地震が起きるぞ、と言っているようなもので根拠は薄弱でありますが、中国共産党の習近平氏絡みの報道にやや神経質な感じもあるようですので何らかの兆候はあるのかもしれません。仮に健康不安説であればその健康が回復すればまた状況は変わります。同じような健康不安説はプーチン氏にも流れたことがありますが、今はそのような話が全くなくなり「何だったのだろう、あの話は」ということになります。

中国はロシアの様な個人崇拝的で暴力的な権力確保というより共産党内の権力闘争が常に渦巻く国家であり、組織間の綱引きが非常に強くまた、関与する人も多いので日々の政治は停滞することなく粛々と進むものの高い次元で何らかの変調があるように見え、気になるといえば気になるところです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年7月15日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。