21歳の時だったと思いますが、東京からアエロフロートでモスクワのシェレメーチェボ国際空港で乗り換えて東ベルリン空港に向かった際、厳冬のモスクワの空港が見えてきて、持っていたカメラで何枚か写真を撮りました。それが禁止行為だと私は知っていました。知っていたからこそ、キャビンアテンダントが廻ってこない着陸直前に写真を撮ったのです。それが何、と言われれば何の価値もないのですが、ダメと言われるとやりたくなるのが人の常であります。
そのくせ、東ベルリン空港で東ドイツのビザがないために入国拒否され、バスで西ドイツ、西ベルリン国境まで強制送還された際はビビって写真を撮る余裕すらありませんでした。(強制送還されることは事前にわかっていたのでサプライズではありませんでしたが言葉がわからず、雪が降る山林の中、バスが何処に向かうのかもわからず、単身旅行の身となればそりゃ心配でした。)
禁止行為は目的意識を持ってやる場合と上記の話のように物心でやる場合がありますが、中国やロシアなど監視が厳しい国でやると一発アウトになります。アステラス製薬社員が帰国間際の北京空港で捕まり、先般、裁判で有罪判決が出ました。3年6か月の刑期は司法取引をしたこともあり、短いと思います。私も好きで様々なスパイものの実話や小説を読み続けてきましたが、戦時中なら死刑は当たり前でした。もちろん、死刑になるようなスパイは本物の訓練を受けた人たちでアステラスの社員の方は「協力者」でありました。
公安調査庁が設置される中央合同庁舎第6号館A棟
では誰に協力していたのか、そこをメディアはあまり報じなかったのですが、日経がようやく「公安調査庁」だと報じました。私は以前から気がついていました。同氏が捕まったのち、そのような暗示もこのブログでしたと記憶しています。暗示に留めたのは間違っていたら大変なことになるからですが、間違いはほぼないと99%の確信は持っていました。
なぜわかったのか。こんなのは簡単です。まず、日本には正式な諜報組織はありません。ただ、一部の政府部門がその内部にそれを部署として持っています。内閣調査室を中心に外務省、警察、自衛隊、法務省です。そして法務省の傘下に公安調査庁があるのです。なのでここから消去法で類推すると分かってしまうのです。
内調(内閣調査室の略称)は基本的に情報の吸い上げ機関です。極端な話をすると内調が会議を招集すると外務省、警察、防衛省、法務省から担当が集まり、情報カードの出し合いをします。当然、各組織は自分こそ良い情報、誰も知らぬ情報を提示したいと考えます。では情報源はどこにあるのか、です。
警察は基本的に国内の事件絡みが多く、また諸外国の諜報組織(CIAやモサド、MI6など)との連携もあります。海外事情は一部の海外公館に出向者を派遣して現地警察やしかるべき現地組織と連携し、直接情報を取ります。表向きの目的は邦人の安全確保ですが、当然、それ以外の情報収集もします。自衛隊は戦備や社会情勢、局地的な戦争など具体的対象がある情報が主力です。外務省は外交官が世界各地にいるわけですから邦人の安全確保のために当然情報収集活動はします。基本は外交官、自らがやりますが、外交官も数年で交代するので現地で人を囲うことはありますし、そういうケースも知っています。ただケースは少ないと思います。
問題は法務省です。彼らはまず十分な組織がないのです。公安調査庁に配属になっている国家公務員が国内の様々な怪しいイベントに侵入潜伏調査しています。ただ、捕まえたりする公権がないのです。情報だけで公権を持つ誰かと協力する必要があり、公安調査庁は過去、存続の危機に立たされたこともあるのです。ただ、オウム真理教問題で公安が活躍したこともあり、現状、国内の右翼左翼を含めた思想犯に注力しています。その状況下、海外においては人材がいないので協力者を求めるのです。
協力者に何を期待するか、といえば具体的な事象について「調べてほしい」という依頼が来るのです。イベントの状況であったり、特定個人の動きであったりそれはケースバイケース。日経の記事によるとアステラスの社員は報酬をもらっていたとあります。その報酬が定常的だったのか、スポットだったのかはわかりませんが、報酬をもらうとなればかなり本格的に活動していたと察します。アステラスの社員の件はニュースでは話題になりますが、メディアは「誰のために」という部分をずっと伏せてきたのですが、このあたりが注目点になります。
ところで参政党が日本国内に跋扈する世界の様々なスパイが放し飼い状態になっていることに深い懸念を示しています。これはその通り。そして日本には取り締まる法律がないのです。罰則なければやりたい放題、とも言えます。幸か不幸か、日本は近年起きている戦争や国際紛争の当該国ではないため、スパイが死に物狂いで活動する必要はあまりないとも言えます。
ご記憶にある通り、イスラエルとイランの戦いではモサドが送り込んだイラン内の協力者網のおかげでほぼ全てのイランのトップシークレットが筒抜けになっていました。つまりスパイを放置するととんでもないことが起きるのは必然とも言えるのです。ハニートラップなんていうのも古典的手法で日本でもそれに引っかかった男性は結構いらっしゃるわけです。会社の機密情報の漏洩がその好例であります。
一方、スパイの世界には「ダブルスパイ(二重スパイ)」も結構あり、自分の協力者だと思ったら相手側の協力者でもあり、いいとこ取りの場合もあります。つまりスパイそのものも怪しいケースもあるわけです。
個人的には人間が諜報活動をするHumint(ヒューミント)よりもハイテク機器を使った諜報が今後、幅を利かせてくるとみていますが高度な監視体制を敷いた内部情報はHumintでないと諜報するのは難しく、Humintが無くなることもないでしょう。
日本は今、海外のスパイに対する防衛、防止策レベルの議論ですが、将来的に上述の5機関が身内で小手先の情報収集で留めるのか、本格的な諜報機関を改めて日本に作るのか、そろそろ議論をする時期にあるかと思います。日本の本格的諜報機関はご承知の通り、戦前あった陸軍中野学校であり、その存在は一時、世界に名を轟かせたほどの能力を持っていました。当時のスパイ学校で何をどう教えていたかその指導内容を見ると驚くほど興味深いものがあります。
情報社会故に裏の情報に飢えているともいえ、スパイが日本の社会で喫緊の課題になることは十分ありえます。スパイ反対派は個人情報云々というのですが、皆さんの個人情報は基本的に抜くことがほぼ可能で相手がその情報に興味があるかどうかだけの問題であります。よって個人的には個人情報保護の観点故に反対というのは時代錯誤ではないかと感じています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年7月28日の記事より転載させていただきました。