世界に14億人以上の信者を誇る最大のキリスト教派、ローマ・カトリック教会では聖職者による未成年者への性的虐待が多発し、その被害者への賠償金の支給額は既に天文学的な数字となっている。賠償金を支払えず、破産に追い込まれる教会も出てきている。
米国のカトリック教会は過去20年間、聖職者の性的虐待事件に関連して約50億㌦(約7500億円)の賠償金を支払ってきた。ジョージタウン大学の「応用使徒職研究センター(CARA)」が発表した研究結果によるものだ。CARAの研究によれば、2004年から2023年の調査期間中、合計15,000件の信憑性のある告発が報告された。被害者の5人に4人は少年であり、被害を受けた当時の年齢は半数以上が10歳から14歳だった。
ドイツのカトリック教会でも聖職者への性犯罪は過去、頻繁に発生し、教会側によって隠蔽されたケースも少なくなかった。
ドイツのカトリック教会での性犯罪を調査してきた認知給付独立委員会(UKA)が7月29日にウエブサイトで公表したところによると、虐待被害者は、2021年初頭から2025年6月末までに、計4504件の申請を提出した。この中には、初回申請と追加申請の2,992件が含まれている。
UKAは、カトリック教会の聖職者における虐待被害者にいくらの賠償金を支払うかを決定する役割を担っている。UKAは、教区または修道会の担当者を通じて被害者からの申請を受け付け、給付額を決定し、被害者への支払いを承認する。ドイツ司教団が採択した規則に基づいている。
UKAの年次報告書によると、UKAは2021年初頭から2024年末までに、カトリック教会における虐待の被害者に対し、約7,666万5,300ユーロ(約131億円)の支払いを承認した。そのうち12%のケースで5万ユーロを超え、31件では25万ユーロを超えた。
例えば、2023年、ケルン地方裁判所は、祭壇奉仕中に虐待を受けた男性に、苦痛に対する補償として30万ユーロを支払うよう命じた。先月、マインツのカトリック教区はマインツ地方裁判所での和解で性的暴力の被害者に34万ユーロを支払うことに同意している。
UKAの年次報告書によると、2024年の申請件数ではトリーア教区(82件)がトップ、ミュンスター教区(71件)、アーヘン教区(66件)と続く。2021年初頭から提出された申請件数では、ミュンスター教区が428件でトップと、ケルン教区(297件)、フライブルク教区(295件)と続く。
聖職者の性犯罪の犠牲者にとって、裁判で争って賠償金を得るためには、教会側の隠蔽、告解の守秘義務(Seal of Confession)、そして時効の壁といったように、多くのハードルがある。もちろん、教会側の事件の全容解明への協力が欠かせられない。
ちなみに、カトリック通信が3月27日報じたところによると、国際的な児童虐待被害者団体「SNAP」は、バチカンに対し、6人の著名な枢機卿を告発した。理由は、聖職者や教会職員による性的虐待を隠蔽したり、教会法上の十分な措置を取らなかったことだ。SNAPは「Survivors Network of those Abused by Priests(聖職者による虐待の被害者ネットワーク)」の略称で、1989年にアメリカで設立され、現在では世界規模のネットワークを持つ組織だ。なお、告発された6人の枢機卿の中には、現教皇レオ14世(本名ロバート・プレボスト枢機卿)の名前も入っていたことを付け加えておく。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。