「誰が言ったか」で判断する人は一生騙され続ける

黒坂岳央です。

有名な起業家や人気のインフルエンサーが何かを発信すると、あたかも絶対法則のように拡散されることがよくある。いわゆる「何を言うかより誰が言うか」で判断しているということだ。

だがそのような姿勢でいる限り、一生他人の一挙手一投足に振り回され続けるし、フェイクニュースに騙されてしまうだろう。その逆に「自分だけは絶対騙されないぞ!」と過剰に疑心暗鬼になると、一周回って陰謀論に振り回される。では一体、どうすればいいのか?

筆者からの提案は「信じず、まず検証せよ」である。

SIphotography/iStock

人間は必ず間違える

まず理解すべき前提は、どんなに著名な人物でも、優秀な人でも必ず間違えるという事実だ。

過去には著名な人が推奨した投資法に飛びつき、そのバブル崩壊で大きな損失を被った人も少なくない。また有名な健康法を盲信し、自分に合わない方法を続けて健康を損ねるケースもある。

たとえば「酒は百薬の長」はすでに誤りと知られているが、高齢者の中には「テレビの芸能人がいっていたから、えらい先生がいっていたから」を根拠に強く信じて「健康効果」を期待して飲み続ける人は少なくない。

もちろん、間違える事自体は責められない。問題は他人の判断ミスを「誰が言ったか」という理由で無批判に受け入れる限り、自分自身の教訓にはならず、結局また別の有力者を探し続ける悪循環に陥ってしまうことにある。他人を盲信する限り、せっかくの痛い経験をしても教訓として自分の人生に反映出来ないのだ。

そもそも発信者が提供できるのは「最大公約数的な解」であり、個人に完全に適したピンポイントの解決策ではない。「いいね数」や「バズ」といった指標は大衆の関心や感情を示すものに過ぎず、それが自分にとっての正解である保証はどこにもない。

たとえば、「結婚は墓場、子供は負債」とか「会社員は搾取されているかわいそうな存在、資本家こそ最強」といった投稿はよくウケるテーマだが、筆者という1サンプルについていえば、こうしたよくウケる提案はまったく当てはまらなかった。

結局、ピンポイントで自分に当てはまるものは自分で見つけるしかないのだ。

今後はAIを鵜呑みにする人が増える

「誰が言うか」に頼ることは、次に「AIが言うこと」に無批判に従う危険性につながる。いや、現在進行系で進んでいるかもしれない。

AIは非常に便利で強力なツールである一方、使い方を誤ると簡単にミスリードを起こす。筆者自身、AIをツールとして活用しているが、途中までイケイケドンドンで肯定していたのに、最後の最後でどんでん返しでこれまでの話の真逆の結論に覆された経験が数え切れないくらいあった。

具体的にいうと、デスクトップPCの全パーツのデータを入力し、そしてAIにおすすめされるインターフェースカードを買った。「大丈夫、使えます」と言われ続けたが、結局、買った後に接続する段になって使えないことが判明。「接続出来ませんがどうしたらいい?」と確認するとこのタイミングで「この機種には接続出来ません」と返って来る。事前にマザーボードの写真も撮った上で「写真を分析しましたが、絶対使えます!大丈夫」と言われたが結局、買ったパーツは無駄になった。そして反省した。自分の頭で考えず、判断を任せてしまったことを。

今ではこうしたリスクを踏まえてAIを使っているし、検証には使っても決断をさせようとは思わない。だが、現在インフルエンサーを鵜呑みにしてしまうような人たちの一部はAIを人生の大きな決断に実践してしまう危うさがある。

AIを使う際は「何を聞くのか」「どのように聞くのか」というプロンプト設計が非常に重要であり、また学習内容に誤りがあったりハルシネーションリスクも有る。そのため、最終的な判断と検証は少なくとも現時点では人間が行わなくてはならない。

「検証」こそが情報処理における最重要スキル

大切なのは、「誰が言ったか」よりも、その情報が本当に正しいか、自分自身に当てはまるかを検証する力を身につけることだ。

もちろん、「誰が言うか」ということを初期フィルターとして利用するのは決して悪いことではない。たとえば医師の意見をネットの素人の意見より重視するのは自然であり合理的だ。しかし、そこで思考を停止させず、「本当にそうなのか?」「自分の状況に合うのか?」と一歩立ち止まって考える姿勢が重要だ。

この話で検証を使うとすれば、セカンドオピニオンである。実際、専門家の間でも意見が分かれることは少なくない。健康情報は医師の間でも議論がわかれ、税務については税務調査官や税理士の間でも見解が分かれることがある。そんな時、一人の言う事を鵜呑みにせず、複数人の見解を分析し、「自分にとって」必要な意見が何かを検証するというわけだ。

今ならAIが活用できる。筆者は専門家から意見や提案があった場合、自分が真に深く理解できるまでしつこく検証する。「なんでもかんでも疑ってかかれ」とは言わないが、ろくに理解していないのに「先生の言うことだから…」と無批判に受け入れるのは問題だ。

最低限、専門家の意見や提案をしっかり理解でき、反証を想定しても納得の行くところまで理解度を高める努力は必要だろう。AIはまさにそのような検証作業で大きな力を発揮する。

情報過多の現代において、最も重要なスキルは「検証する力」である。この力を持てば、有名人でもAIでも、「これは正しいが、自分には当てはまらない」「こちらの情報は信頼できる」と正しく選別できるようになる。情報に振り回されず、自分にとって最良の選択を下すためには、誰かに頼り切るのではなく、自分自身で考える習慣を身につけることが何よりも重要なのだ。

 

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