組織と個のリデザイン:歯車から契約へ

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あなたは歯車なのか

組織のなかで自分を歯車のように感じる瞬間はないだろうか。

ここでは、組織と個人がどのような距離であれば、互いに利益をもたらす関係を築けるのかを論じる。

組織は代替可能、個人は非代替

組織はメンバーが入れ替わっても、名前と仕組みさえ残れば動き続ける。一方、個人や家族は唯一無二の存在であり、失われれば取り替えが利かない。この根本的な違いを踏まえるなら、組織と個人はお互いを利用し合う対等な契約関係として理解するのが自然である。

なぜ対等な契約関係になるのか。その理由は以下の3つである。

1つ目は、転職や副業の普及で移籍コストが大幅に下がったこと、2つ目は専門性が個人に蓄積・携行できるようになったこと、3つ目は社会における価値創出の主役が物的資産から人的資本へ移ったことが挙げられる。

もはや組織も個人も相手を選び直せる時代であり、協働するなら対等なパートナーとして向き合うほうが双方にとって合理的である。

Win-Winを成立させる条件

働き方改革によって、会社と労働者の終身的な主従関係離れが加速し、成果と報酬のバランスで結び付くようになった。会社が人材を活用するなら、個人も会社を学習と収入の場として利用する。この対称性がWin–Winである。

会社から得る機会や報酬が自分の成長と釣り合う限り、双方にメリットがあるため両者の均衡が保たれる間は協力関係が続くことになる。しかし、均衡が崩れたら移動が合理的となり、労働者は転職や副業などを選択することになる。会社にとっても人材の流動化は知識と技術が混ざり合う場として新たな価値創出が期待できる。

強い個人としてWin‐Winな関係を築くために必要なこと

1つ目は、どこでも通用するスキルと継続的な学習習慣によって携行可能な専門性を持つことである。2つ目は、強い繋がりだけでなく、弱い繋がりからもチャンスを得られる人間関係を持つことである。3つ目は、 頼る・頼られるの双方向を意識した倫理観と責任感のある行動基準を持つことである。

これらを備えた個人が増えれば、企業も人を一方的に利用できず、対等なパートナーとして尊重せざるを得ない。その結果、多様な働き方とイノベーションの循環が社会を活性化させる。

さいごに

日本には「困ったときは助け合う」という互助の精神が深く根付いており、とりわけ災害時には強力なセーフティーネットとして機能してきた。しかし公助や相互扶助が強調され過ぎると、自助努力を怠るフリーライダー問題が生まれ、責任の所在が曖昧になる。最終的な責任主体は唯一無二である個人と家族であり、社会的支援はあくまで補完的に位置づけるのが健全である。

もっとも、職種・産業・地域によって労働市場の流動性に差があることは事実である。それでも、組織と個人の関係を固定的な上下から柔軟な契約へと再編し、代替可能性を前提に互恵性を追求する姿勢は、多くの分野で現状を打破する契機となり得る。

強い個人が増え、Win–Winの関係が広がることで、多様な働き方とイノベーションの循環が社会を活性化させるだろう。