145カ国で最も仕事のやる気がない日本人

黒坂岳央です。

米ギャラップの「グローバル職場環境調査」によると、仕事への熱意や職場への愛着を示す社員の割合が、日本は145カ国中ビリとなっていることが明らかになった。なんと、仕事に情熱を持っている人はわずか「5%」なのである。

これは世界平均23%と比べても極端に低く、4年連続で最下位という状況は注目に値する。単純に「日本人はダメになった」「経営者が悪い」と解像度荒く片づけるだけでは何も得られない。

あまりに多くの要因が絡み合っているこの問題を筆者の視点で考察する。

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インセンティブ構造の差

1つ目にあげられるのは、昇給やボーナス、雇用維持といったインセンティブの有無だろう。これがそのまま、仕事への真剣度に直結する。

米国や新興国の一部では、成果が報酬や雇用継続に直結し、エンゲージメントは生きるための手段として高まりやすい。これに対し、日本企業の多くは年功序列的な昇給や雇用安定を前提とする構造が根強く、成果と報酬の連動が弱い。

この話をすると「海外は素晴らしい、それに引き換え日本は」といい面しか見ない人が多いが、実際はこの話は「良くも悪くも」と解釈するべきだ。たとえば、米国ではパフォーマンスの悪かったり、不景気では容赦なく切られる。そのため、「生き残るために」本気で仕事をせざるを得ないという意味合いだ。

「海外では頑張りが報われる」という話は、「自分が海外にいけば報われる側に立てる」という前提であり、凡庸な結果を出す側だと切られる側に行くことになる。

雇用流動性の低さ

2つ目に雇用流動性が低いことだ。

日本は長期的に見ると就職氷河期もあったが、近年の若年層は比較的売り手市場を経験している。そのため「いざとなれば次がある」という労働市場への安心感が、意識のうちに働くモチベーションに影響している可能性がある。これは個人の怠慢というより、社会全体の雇用安定感が生む心理的な緩みと言える。

他国に目を移すとまったく違った状況だ。たとえば中国では現在、歴史的に類を見ない就職氷河期となっており、欧米や国内のトップ校を出たエリート層がノンスキルワークへ応募をしても落ちてしまう状況が続いている。熾烈な競争の勝ち組でも就職できない極めて厳しい状況だ。

これは以前の記事でも取り上げたことがあったが、ある中国の富裕層は日本に家族ごと移住する理由について「日本は競争がイージーだから人間らしい生活を送れる」と述べた。

実際、自分の子供たちは国立、私大のトップ校の医学部や法学部を出て日本でハイクラスの仕事に就職している。彼らは「日本でのんびり生活を楽しむ」といいながら、平均的な日本人の数倍努力をしていることは明らかだった。努力の基準値がまったく違うのだろう。

やりたいことの欠如

3つ目、本当にやりたいことや自己実現の目標を持つ人間が減ったのだろうと思う。

仕事が自分ごとになれば、やりがいの有無にかかわらず自分事として全力を尽くす。筆者は独立を決めてから、お正月や平日週末関係なく空き時間のすべてをビジネスに捧げ、そして脱サラした。会社員でも昇進やキャリアデザインを真剣に考えている人は喜んで働く。

これは日本人が「やりたいことがない」ということなのだろうか?否、筆者は日本の雇用制度に理由があると思っている。日本では長きにわたり、とりあえず大学へいき、みんな同じタイミングで就職をする。いざ就職をすると「こんなはずではなかった」とミスマッチで早期退職ということが起き得る。

最近だと「頑張らない働き方」があたかも存在するような認識が広がっており、静かな退職などの動きにつながっている。だが、この現象はもって数年だろう。国際競争やAIの台頭、法規制の変更が起きれば一夜にして状況は一変するからだ。

また程度の差こそあれ、どの国でも似たようなことは起こりやすいものの、違った状況の国家も存在する。国の中では大学入学時点で強く就職を意識して専攻を選び、インターンシップを「長い面接」のような感覚で応募し、職場とのミスマッチ回避に努めて就職をするというところがある。大学の専攻科目の時点で就職する分野に直結するため、彼らは自分でキャリアデザインをし、人生がかかっているのでとても真剣だ。

「やりたいことに出会えない」もしくは「やりたいことがそもそもない」という事情が絡み合ってかのような低いエンゲージメントにつながっている可能性は否定できない。

日本の「仕事への情熱の低さ」は、単に個人の怠慢だけでなく、雇用安定性、キャリア形成機会、文化的価値観など複数の要素が絡み合った構造的な問題なのである。そしてチャンスは常に大衆の逆張りにあるのだから「みんなやる気ないから自分も」ではなく「大衆が眠っている間に努力して追い越したい」という発想が重要ではないだろうか。

 

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著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。