黒坂岳央です。
「一度上げた生活レベルは二度と下げられない」という意見をよく見る。特に節約志向やFIREを志す人にとっては、まるで絶対法則のように言われる。筆者自身もかつて、この言葉を盲信してキャリアアップとともに収入が増えても生活レベルは上げないようにしていた。
だが結論的に、これは多くの人にとって当てはまらない話だと思っている。生活レベルが下げられない最大の理由は、人間の心理が「基準に慣れる」ヘドニック適応にある。ただし、それは主に固定費で起きる現象であり、変動費に限定すればすぐ戻せる。
つまり「生活レベルは一度上げたら戻せない」ではなく、「固定費は一度上げたら戻せない」が正しいと思うのだ。
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固定費と可変費の違い
生活レベルを考える上で固定費と可変費の違いを理解する必要がある。
家賃・住宅ローン・子どもの学費・車の維持費といった固定費は、一度上げると短期的に戻すのが難しい。自分の意思だけでなく、契約といった法的拘束力も関係するからだ。
これがよく言われる「生活水準が下げられない」という意味合いである。そのため、投資で入ってきた資金や独立して間もないなど、安定しない収入をあてにしてマイホームを買うのは勧められない。
一方で、家事外注、交通手段、外食頻度、旅行などの可変費は、必要に応じて即座に調整可能である。そもそも、贅沢費とは収入の多寡で変動することが多いのではないだろうか。
可変費は「テスト→効果測定→固定費化」という段階設計ができる。効果が高いと判明したものだけをサブスク化・設備投資化すればよい。
筆者はビジネスの売上で旅行を決めている。たとえば「努力して目標達成したら、家族旅行とは別に一人旅をしてもいい」みたいにちょっとしたご褒美を用意しておくのだ。
当然、仕事が思い通りにいかねば悠長に旅行や娯楽などという気になれず、仕事の結果が出るまでコミットするので「一時的に高まった生活レベル」は自然にもとに戻る仕組みとなっている。
最高の節約とは、勉強や仕事に打ち込むことだ。お金を使うより増やす活動を頑張れば出費は自然に落ち着く。
生活レベルは人生の幸福度を上げる
一般論として「生活レベルを安易に上げるな」と言われる理由は「身の丈に合わない、承認欲求を満たすための出費」として解釈される事が多いからだろう。背伸びしてタワマンに住んだり、高級車を買って見せびらかすといったものだ。
だが本来、生活レベルとは生産性や幸福感を高める行為である。人生は与えられた寿命分しか生きられず、誰一人若返ることなど不可能なのでできるだけ若い時期にストレスの少ない、充実した時間を送ることは人生の幸福度に直結する。生活レベルを高めることはあまり否定的に考えるべきではないだろう。
たとえば筆者は騒音に敏感であるため、住居選びでは防音性能を人並み以上に重視してきた。仕事や学習の集中を阻害する騒音に悩むなら、防音室を作るのも一案だ。防音室にいる間は外界の音から解放され、集中力と生産性が劇的に向上する。これは一度作ってしまえば一生モノの資産であり、費用対効果は高い。
また、田舎に住めば住居費も安い。そのため、なるべく広い家に住むことで仕事部屋と運動部屋を分け、ジム通いにかかる時間を削減して本来かかる移動時間を仕事にあてている。
さらに、子育て期には庭付きの広い家で子どもが外遊びを日常的にできる環境を意識した。毎日、ドッジボール、サッカーやバドミントン、かくれんぼといった遊びに付き合っているが、これは子どもの身体的発達だけでなく、親子の関係性にも大きなプラスをもたらしたと実感している。
これらの固定費は一度投資すると永久にリターンを取り出し続けることができる「一回だけの支出」であり、想像するよりお金もかからない。
ストレスに耐えながら「ストレス解消の出費」という出血の伴う生活するくらいなら、思い切って自分の価値観にあう環境に投資することは大いに価値が高い「生活レベルの引き上げ」と考える。
ただし、上げる対象は「回収可能性が高いもの」に限定するべきであることは言うまでもない。
◇
生活レベルの引き上げは、贅沢そのものを楽しむ行為ではなく、自分や家族の幸福度・生産性を最大化するための手段である。重要なのは「何を上げるか」と「上げるのはまず変動費から」という2点だ。
生活レベルを上げることを過度に恐れる必要はない。むしろ、適切に設計されたQOL向上は、仕事にも人生にもプラスのリターンをもたらす。それは、将来の自分への最大の投資である。
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