「みんなで大家さん」が「みんなでデベさん」を始めるとどうなるか?

ヤフーニュースによれば個人投資家から資金を集めて不動産を共同で所有して利益を得る「みんなで大家さん」という投資商品の分配金の支払い遅延が発生しているそうです。

支払い遅延が発生しているのは投資対象の1つである「ゲートウェイ成田」(写真)と呼ばれるプロジェクトです。成田空港近くの東京ドーム10個分の広い敷地にホテルなどを備えた複合巨大施設を建設するというプロジェクトです。

このプロジェクトは6年前に開始したそうですが、現地に行くとまだ建物は建っておらず開発計画が大幅に遅延していることがわかります。

「みんなで大家さん」に出資した投資家は本件を含むすべてのプロジェクトでこれまでに3万7000人と膨大です。調達した資金は総額で2000億円に上るということです。今回の成田のプロジェクトには1500億円近くの資金が集まったとされています。

分配金の遅延が生じると不安に感じる投資家が解約をするようになりより資金が不足します。不動産購入に充当された投資資金は現金化することが難しく、運営会社の資金繰りを圧迫します。メディア報道によって解約が殺到すれば、更にプロジェクトがとん挫する可能性が高まります。

みんなで大家さんはその名の通り不動産の物件を購入して、大家さんとして得られる賃貸収入を投資家に分配する仕組みで成長してきました。

ところがこのゲートウェイ成田では「大家さん」ではなく更地に物件をゼロから建設する「デベロッパー」の立ち位置になっています。デベロッパーとは森ビルや三菱地所のような企業で、長期間に渡り極めて大きなリスクを取って土地の付加価値を高めていくビジネスです。

個人投資家の資金を使って高い分配金を謳いながら、収益化するまでに時間がかかるデベロッパー事業を始めてしまった。これはもう「みんなで大家さん」ではなく「みんなでデベ(デベロッパー)さん」の世界です。

大家さんとデベロッパーは同じ不動産ビジネスでも必要な能力やリスクは大きく異なります。デベさんは大家さんができても、大家さんはデベさんは簡単にはできません。

今回の報道で思い出すのは個人投資家を巻き込んだ数年前の「かぼちゃの馬車」というシェアハウス投資詐欺です。

かぼちゃの馬車はそもそも実現不可能な超長期の利回り保証をして破たんした不動産投資詐欺です。今回のみんなで大家さんは投資詐欺には思えませんが「デベさん」に手を出してしまったのは経営判断の大きな誤りだと思います。

今後の成田の開発が果たしてどうなるのか?当事者ではないのでメディアの報道以上の詳細な情報はわかりませんが、近いうちに結果が出るのではないかと推測します。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年8月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。