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これまで明確になっていなかったフリーレント期間の取扱い
オフィスビルなどの不動産賃貸借では、契約当初からの一定期間は賃料の支払いを生じさせない「フリーレント」という契約がよく見られます。
フリーレントの期間については、賃料の支払いはありませんが、契約期間は定められており、中途の解約には制限があります。
そうなれば、全体の契約期間での賃料の支払いは決まっていて、単にその支払時期を遅らせたのに過ぎません。
しかし、このフリーレント期間がある賃貸借契約について、税務上どのように処理すべきかについては、これまで国税当局からの明確な指針が示されていませんでした。
そんな中、令和7年度税制改正に係る改正法人税基本通達において、フリーレント期間が定められた契約に係る借手の法人税処理について明確な取扱いが示されました。
そこで、今回は、新たに創設された「フリーレント通達」についてまとめてみようと思います。
これまで実務で多かった処理方法
フリーレント期間がある賃貸借契約について、これまでの実務では主に以下の2つの処理方法が考えられていました。
① 賃料の支払日の属する各事業年度に損金算入する方法
実際に賃料を支払った時点で損金に算入するという考え方です。
フリーレント期間中は賃料の支払いがないため損金算入もせず、賃料の支払いが開始されてから損金算入を開始するということです。
② 賃料総額を賃借期間で按分した金額を賃借期間中の各事業年度に損金算入する方法
契約期間全体でみた賃料総額を契約期間で按分し、フリーレント期間中も含めて毎期一定額を損金算入する方法です。
実務上、中小企業では、①の方法、つまり賃料の支払時に損金算入するケースが多かったとされています。
これは、明確な税務上の取扱いが示されていなかったことから、より保守的な処理方法が選ばれていたと考えられます。
新リース会計基準の影響
令和6年9月、企業会計基準委員会(ASBJ)が新リース会計基準を公表しました。
この中で、貸手のオペレーティング・リースについて重要な定めが置かれています。
その適用指針82では、令和9年4月1日以後に開始される事業年度から、「貸手のリース期間に無償賃貸期間が含まれるときは、貸手は、契約期間における使用料の総額について契約期間にわたり計上する」とされました。
この定めは、会計上はフリーレント期間があっても、契約期間全体で使用料総額を期間按分して収益計上することを求めています。
つまり、会計上は前述の②の方法による処理が求められることになったのです。
税務と会計の調和を図る必要性
会計基準でこのような定めが置かれたことにより、税務上の処理についても会計処理との調和を図る必要が生じました。
会計と税務で処理方法が大きく異なると、申告調整が複雑になり、実務上の負担が増大するからです。
また、新リース会計基準は上場企業等では強制適用となるため、これらの企業においては会計上②の方法による処理が必須となります。
もし、税務上、①の方法しか認められないとすると、毎年両者の差異を埋めるための申告調整が必要になります。
「フリーレント通達」法人税基本通達12の5-3-2の新設
このような状況を受けて、国税庁は法人税基本通達12の5-3-2「無償等賃借期間を含む賃貸借取引に係る支払額の損金算入」を新設しました。
この通達では、フリーレント期間が定められた賃貸借契約について、一定の要件を満たす場合には、損金経理を要件として、賃料総額を賃借期間で按分した金額を各事業年度に損金算入することができると定められています。
ここでいう「損金経理」というのは、会計上も賃料総額を期間按分して費用計上しているということです。
つまり、会計上、このフリーレント期間での家賃の”前倒し計上”をしていないのに、税務申告のみで課税所得の減算はできないということです。
適用要件と除外規定
なお、すべてのフリーレント契約にこの取扱いが適用されるわけではありません。「課税上弊害がある場合」に該当するものは除外されています。
課税上弊害がある場合とは、具体的に以下の2つのケースが定められています。
(1)割引率が過大な場合
フリーレント期間に関する定めがないとした場合の賃料と、実際の契約に基づく賃料総額との差額が、契約賃料総額のおおむね2割を超える場合
これは、フリーレント期間を定めることで、2割以上も賃料が上がるようなケースを指しています。
(2)特定事業年度に偏った無償期間がある場合
賃借期間の開始事業年度終了時点で、無償等賃借期間内のいずれかの事業年度において、当該事業年度の賃借期間のおおむね5割を超える期間が賃料の支払いがない又は通常に比して少額であると見込まれる場合(無償等賃借期間が4月を超える場合に限る)
これは、事業年度の概ね半分以上がフリーレント期間となるような期間がある場合を指しています。
中小企業でもフリーレント期間の前倒し計上は可能
このフリーレント期間の賃料の取扱いについては、新リース会計基準の強制適用対象とならない中小企業等であっても、同基準に準じた会計処理を行っている場合には、その税務申告が認められるようになりました。
これにより、中小企業においても、フリーレント期間のある契約について、より合理的な期間按分による処理を選択することが可能となったのです。
適用開始時期
この新たな取扱いは、令和7年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税から適用されます。
3月決算法人の場合、令和8年3月期から適用開始となります。
既に締結されている賃貸借契約についても、適用開始事業年度以後は新たな取扱いを適用することができます。
今回の改正により、フリーレント期間での賃料の前倒し計上が認められることが明文化されました。
支出より先行しての損金算入は、もはや貸倒引当金くらいしか認められていません。
特に節税になるようなものではありませんが、できるだけ早期の損金算入を求めるのであれば、積極的にフリーレント期間での賃料の前倒し計上を検討してもよいのではないでしょうか。
編集部より:この記事は、税理士の吉澤大氏のブログ「あなたのファイナンス用心棒」(2025年8月21日エントリー)より転載させていただきました。