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この記事では、政府の財産所得の国際比較をご紹介します。
1. 日本の政府の財産所得
今回は、政府の財産所得についてフォーカスしてみたいと思います。
日本の政府は負債が嵩んでいる事が不安視されています。
負債(国債)が多いほどその利払いが増え、財産所得はその分マイナスになりやすいはずですね。
日本の状況がどのようなものなのか、まずは国内データから確認してみましょう。
図1 財産所得 日本 一般政府
国民経済計算より
図1が日本の一般政府の財産所得です。
受取側がプラス、支払側がマイナスとなっています。
どちらも大きな割合を占めるのが利子です。
2000年頃にかけて受取も支払も増えていますが、2000年代入って急激に縮小します。
2010年代からは、受取側で法人企業の分配所得が増えて受取総額が押し上げられている一方で、支払側はやや減少しています。
差引の正味額は増加傾向となり、2022年には若干のプラスとなっています。
日本政府の負債残高は増加していますが、財産所得による正味の支払額は目減りしている事になりますね。
念のため、日本政府の負債額についても確認しておきましょう。
図2 日本 一般政府 金融資産・負債残高
日本銀行 資金循環より
図2は日本の政府の金融資産(プラス側)と負債(マイナス側)をグラフ化したものです。
負債のうちほとんどは債務証券(国債)となり、増え続けてきた事がわかります。
2024年は若干縮小しています。
金融資産も増加傾向でしたが、差引の金融資産・負債残高は近年横ばい傾向です。
2023年、2024年は縮小していることが確認できます。
一般的に財産所得は金融資産残高(負債残高)が増えるほど拡大すると思いますが、日本政府の財産所得の支払はむしろ減少しているのが特徴的です。
国債の金利が低下している事が大きく影響していそうですね。
今回は、このような政府の財産所得が国際的に見て状況なのかを、国際比較する事で確認していきたいと思います。
2. 1人あたりの推移
まずは政府の財産所得(正味)について、人口1人あたりのドル換算値から見てみましょう。
図3 1人あたり財産所得(正味) 一般政府
OECD Data Explorerより
図3が人口1人あたりの政府の財産所得(正味)の推移です。
日本は1980年代からアメリカやカナダと比べると比較的低い水準で推移していた事がわかります。
とりわけ近年はマイナス水準が小さく、拡大傾向の続くアメリカとは対照的です。
元々の水準が大きいイタリアは、アップダウンしつつもやや縮小していたり、イギリスは近年大きく拡大傾向など国によって傾向が異なります。
3. 1人あたりの国際比較
つづいて、もっと広い範囲で国際比較をしてみましょう。
図4 1人あたり財産所得(正味) 一般政府 2023年
OECD Data Explorerより
図4がOECD各国の政府の1人あたり財産所得(正味)の国際比較です。
ノルウェーが圧倒的な水準となっていますが、フィンランド、デンマーク、スウェーデンなどの北欧諸国や、ルクセンブルク、スイスなど所得水準の高い国が上位となっています。
韓国、日本も先進国の中では政府の財産所得がプラスの上位グループとなっています。
最も財産所得の支払が多いのがアメリカで、イギリス、イタリア、フランスもマイナス額が大きい国となっています。
国債残高が極端に多いと言われる割に、日本の政府は利払いが少ないという特徴があるのかもしれません。
4. 対GDP比の推移
もう一つの比較方法として、財産所得(正味)の対GDP比についても見ていきましょう。
図5 財産所得(正味) 対GDP比 一般政府
OECD Data Explorerより
図5は主要先進国の政府の財産所得(正味)対GDP比の推移をグラフ化したものです。
日本はやはりかなりマイナス水準の低い状態で推移していて、どちらかと言えば縮小傾向である事がわかります。
ドイツやカナダ、イタリアも縮小傾向です。
韓国はプラス側で推移しているのが興味深いですね。
北欧諸国だけでなく、政府の財産所得は必ずしもマイナスというわけではないという事になると思います。
5. 対GDP比の国際比較
最後に対GDP比の国際比較をしてみましょう。
図6 財産所得(正味) 対GDP比 一般政府 2023年
OECD Data Explorerより
図6がOECD各国の政府の財産所得(正味)対GDP比の国際比較です。
ノルウェーが16.4%で圧倒的な受け取り超過なのが印象的です。
これだけの財産所得が得られるのは羨ましい限りですね。
上位はフィンランド、デンマーク、スウェーデンなど北欧諸国、バルト三国、ルクセンブルク、スイスの高所得国が占めます。
チリがプラスなのが意外かもしれません。
日本は韓国と共にプラスで、先進国の中では上位となっています。
アメリカ、イタリアはマイナス水準がかなり大きく、政府の財産所得が支払い超過になっている事になります。
図7 金融資産・負債残高 対GDP比 一般政府 2021年
OECD.Statより
図7は、主要先進国の政府の金融資産・負債残高 対GDP比を比較したものです。
日本は負債水準が最も高く、正味の金融資産・負債差額で見てもイタリアに次いでマイナス水準の高い国です。
同様に金融資産・負債差額のマイナス維水準の高いアメリカは、イタリアと共に政府の財産所得が大きくマイナスとなっています。
一方で、この2国と同程度の金融資産・負債差額水準の日本は、財産所得で見ればむしろプラスで、大きく傾向が異なります。
6. 政府の財産所得の特徴
今回は政府の財産所得についてご紹介しました。
日本は負債残高、金融資産・負債残高で見ればアメリカやイタリアと近い水準で、かなりマイナス額が大きい国です。
一般的には負債残高に応じて財産所得の支払額も大きくなるはずですが、日本の場合はかなり少なく抑えられています。
アメリカ、イタリアが正味の財産所得が大きくマイナスなのに対して、日本はプラスですらあるのが大変興味深い傾向ですね。
参考までに2025年4月時点での、各国の10年国債の利回りは次の通りです。
1.32% 日本
2.47% ドイツ
3.19% フランス
3.57% イタリア
4.24% アメリカ
4.48% イギリス
国債の金利が低い影響が大きいと思いますが、それ以外にも金融投資により配当金などの受取が多い事も寄与していそうです。
「国の借金」と騒がれている割に、今のところ利払いが少なく、財産所得の正味はむしろプラスである点は覚えておいても良いかもしれません。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年8月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。