いま、世界の金融市場において、静かに、しかし確実に過去最大級の構造転換が進んでいる。それが「RWA(Real World Asset)」のオンチェーン化、すなわち実資産のトークン化である。すでにオンチェーン上のRWA残高は過去3年間で約5倍の240億ドルに達しており、さらに2034年にはその規模が3兆ドルになると試算されている。株式市場は世界全体で百兆ドル超の巨大市場であり、その一部でもトークン化されてオンチェーン取引が可能になれば、資本市場に与えるインパクトは計り知れない。RWAは24時間リアルタイム決済を可能にし、かつてない流動性と資本効率を実現する。もはやこれは暗号資産の文脈を超え、既存金融の中枢機能に取って代わる動きである。
RWAでいま最も注目すべきは「株式のトークン化」である。たとえばスイスのSIX Digital Exchangeは米銀シティと提携し、ユニコーン企業の株式を分散台帳技術(DLT)上で直接発行する体制を整えた。このDLTはR3の「Corda」を基盤とし、既存の証券集中保管機関(いわゆる”ほふり”)と連携することで、株式に関わる清算・保管・議決・配当等の全プロセスを統合した画期的な仕組みとなっている。何十年も変わらなかった保管・決済インフラが、DLTと接続されたという事実は、あまりにも象徴的だ。さらにRobinhoodをはじめ、Coinbase、Kraken、Bybit、Geminiといった米国主要取引所が、6月に相次いで株式トークン化事業への参入を発表したことでますます注目を浴びている。
こうした動きの本質はどこにあるのか?それは「リアルタイム性」と「DeFi(分散型金融)との融合」だろう。従来、株式は決済完了まで2営業日必要だったが、株式トークンは「一瞬で・誰とでも・どこからでも」取引可能だ。小口化された株式を安い手数料で即時売買できるとなれば、投資家の裾野は一気に拡大する。トークン化された株式はDeFiプロトコルを活用した収益獲得も可能で、新たな金融イノベーションにも繋がるだろう。
もちろん、既存の金融インフラとの相互運用性が不十分なままでは、市場が分断されるリスクがある。加えて、ハッキングへの耐性やブロックチェーンのガバナンス設計といった技術的・運用上の懸念も解消が必要だろう。さらに、規制の地域差もクロスボーダー取引の障壁となる。トークン化の価値を最大化するには制度・技術・市場の三位一体の進化が不可欠であり、日本がこの分野で世界をリードするチャンスでもある。
経営者にとってトークン化はもはや資本政策、国際展開、M&A、ESG対応、人材マネジメントまでを包含する「経営の中核戦略」そのものである。これはすべてが「即時・分割・グローバル」に再編成される中、単なる技術導入ではなく資本設計の再構築であり、経営の未来地図そのものなのだ。ちょうど本日からWebXが開幕する。ここでRWAに関してより深く話す予定だ。ぜひ会場でお会いしましょう。
編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2025年8月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。