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面白いことに気づきました。どっちのブログでも同じ記事がやたらとアクセス良い。なんでこんなに読まれるのか、正直よくわからない。ただ、その記事、ざっくりとしか書いてなくて、「もうちょっとちゃんと説明した方がいいかな」と思い、今回きっちり書くことにしました。
ちなみに、ブログは2つ開設しています。
日常に潜む日本語の謎
「置いておいて」という表現について、皆さんはどのように感じられるでしょうか。この言葉を口にするとき、何となく違和感を覚えたことはありませんか?
「置いて置いて」「置いといて」「置いとって」など、様々な書き方や言い方を耳にすることがあります。
実は、この表現は日本語学習者だけでなく、日本語を母語とする私たちにとっても、なかなか理解が難しい表現の一つなのです。今回は、この「置いておいて」について、文法的な観点から詳しく解説していきたいと思います。
結論:「置いておいて」が正解です
まず結論から申し上げますと、「置いておいて」が正しい表記です。
しかし、この表現が同じ音を繰り返すため、多くの方が「これで本当に正しいのだろうか?」と疑問に思われるのも無理はありません。実際に、私のもとにも「誤用ではないか」というお問い合わせをいただくことが少なくありません。
文法的解析:なぜ「置いておいて」なのか
1. 動詞の活用形を理解する
「置いておいて」を文法的に分解してみましょう。
- 「置く」:動作を表す基本動詞
- 「~ておく」:補助動詞(準備や予備的動作を表す)
- 「~て」:連用形(命令や依頼を表す)
つまり、「置いて」+「おいて」という構造になっています。
2. 「~ておく」の意味と機能
「~ておく」という表現は、日本語において非常に重要な補助動詞です。この表現には主に以下のような意味があります:
- a) 準備・予備的動作
「後で必要になるために、あらかじめ~しておく」 例:「資料を用意しておく」「予約を取っておく」 - b) 状態の維持
「ある状態を保持する」 例:「電気をつけておく」「窓を開けておく」 - c) 放置・そのまま
「そのままの状態にしておく」 例:「そっとしておく」「考えさせておく」 - 「置いておく」の特殊性
「置く」という動詞は、それ自体に「あるところに物を据える」という意味がありますが、「置いておく」となると、「置いた状態を保持する」「置いたままにする」という意味が加わります。
例文で比較してみましょう:
- 「本を机の上に置く」→ 単純に物を配置する動作
- 「本を机の上に置いておく」→ 置いて、その状態を維持する
この微妙な違いが、日本語の豊かな表現力を物語っています。
なぜ違和感を感じるのか:同音反復の心理的影響
1. 音韻的な重複感
「置いておいて」を発音すると、「おいて」が二回続くように聞こえます:
- 置いておいて
この音韻的な重複が、聞き手に「何か変だ」という印象を与えてしまうのです。
2. 視覚的な違和感
文字で書いた場合も同様です。「置いておいて」という表記を見ると、同じような文字の組み合わせが続いているように見えるため、「間違いではないか」と感じてしまうのは自然な反応といえるでしょう。
3. 語彙の重複感
「置く」という動詞自体が「置いておく」的な意味を含んでいるのに、さらに「~ておく」を付けるのは重複しているのではないか、という感覚も違和感の原因です。
他の表現方法とその特徴
違和感を避けるために、以下のような表現方法があります:
1. 「置いといて」(関西弁・口語的)
関西地方でよく使われる表現で、「おいて」が「おいとい」に変化したものです。音韻的な重複感が軽減され、親しみやすい印象を与えます。
2. 「置いとって」(関西弁)
さらに関西弁らしい表現で、「置いておいて」の縮約形です。関西圏以外でも、親近感のある表現として使われることがあります。
3. 「置いておく」(断定形)
「置いておいてください」を「置いておきます」や「置いておこう」などに変更する方法です。
4. 「そこに置く」「そのまま置く」
文脈によっては、よりシンプルな表現に置き換えることも可能です。
漢字表記の問題:「置いて置いて」は適切か?
「置いて置いて」という漢字表記を見かけることがありますが、これは推奨されません。
理由1:視覚的な煩雑さ
同じ漢字が連続することで、読みにくく、美しくない印象を与えます。
理由2:文法的な混乱
どこで語幹が切れ、どこから補助動詞が始まるのかが分かりにくくなります。
理由3:一般的でない
正しい表記法:
- ○ 「置いておいて」
- × 「置いて置いて」
正しい日本語を使うということ
言葉は時代とともに変化するものですが、一定の規範や標準は必要です。「置いておいて」のような表現について正しく理解することは、豊かな日本語表現力の基礎となります。
一方で、方言や口語的表現も日本語の重要な一部です。状況に応じて適切に使い分けることが、真の日本語力と言えるでしょう。
「置いておいて」は確かに正しい日本語表現ですが、同音反復による違和感を避けたい場合は、他の表現方法を選択することも可能です。重要なのは、その場の状況や相手、媒体に応じて最適な表現を選ぶことです。
現代社会では、デジタル化の進展により、文字を書く機会が激増していますが、同時に「意味不明な言葉」や「非礼な文章」も増加しているように感じられます。この機会に、私たち一人一人が「大人にふさわしい文章力」を身に付け、美しい日本語を次世代に継承していきたいものです。
言葉は私たちの思考を形作り、コミュニケーションの質を決定します。「置いておいて」という小さな表現一つをとっても、そこには日本語の深い歴史と文化が息づいているのです。
日本語の豊かさを大切にし、正しく美しい表現を心がけていきましょう。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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