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たかが中年男性の婚活談が、まさかこんなに読まれるとは。
『椀の気持ちよさ』で検索上位に来てしまって、正直恥ずかしい。でも、せっかくなのでもっとヤバい話を追加で書いてみる。
600対100対10という残酷な現実
2020年から2022年まで、コロナ禍のど真ん中で私は婚活していた。50歳、バツイチ。客観的に見れば「売れ残り」と言われても仕方ない状況だった。
数字を公開しよう。2年間で申し込みが約600件。お見合いしたのが100件。仮交際に進んだのが10件。私からは1件も申し込んでいない。
なぜ申し込まなかったか? 戦略である。申し込まれた側が場所を決められるからだ。新宿に事務所があったから、近くのホテルのラウンジやカフェを使えた。遠方から来る方の負担を考えてのことだったが…これが後に大問題になる。
ちなみに、一番忙しい日は1日5件のお見合いをこなした。11時半新宿、13時渋谷、15時品川、17時東京、19時新宿。電車の乗り継ぎ時間まで計算してスケジューリングしていた。
また、私の場合、一般的なサラリーマンよりハイスペックに見えたらしい。印税収入が反映された時期のデータだったから、年収がそれなりの数字になってた。「作家」「ベストセラー多数」「20冊以上著書」「大学客員研究員」「障害者支援団体運営」…確かにこう並べれば悪くない。
いや、ウソは書いてない。でも盛ってる。いや、盛ってない。
業界では「写真3割増し」が常識らしいが、これ主に女性の話。男性の場合、写真を盛ろうものなら会った瞬間「詐欺だ」と言われる。実際、待ち合わせ場所で相手を見つけられないことが何度もあった。プロフィール写真と実物が違いすぎて。
女性擁護システムの現実
ここからが本当の話。
結婚相談所は基本的に「女性擁護」のスタンスを貫いている。仮交際でトラブルがあっても、女性は100%免責。男性がお金を貸した? 高額プレゼントをした? 毎回デート代を払った? すべて男性の責任。女性に落ち度はない、という理屈だ。
そして最も恐ろしいのが、男性から終了フラグを立てた場合のストーカー化。私の場合、異常にストーカー率が高かった。
事務所に押し寄せる女性。講演の前席に毎回陣取って、休憩時間になると「サインください」と列に並ぶ。げんなりしてちょっと冷たい態度を取ろうものなら、「尾藤先生ひどい! 結婚相談所ではあんなに優しかったのに!」「あの素敵な夜を忘れたんですか!」と大声で騒ぐ。
セミナーの主催者が「どうかされましたか?」と心配してくること何度もあった。いや、こっちが心配だよ。
極めつけは障害者支援のイベントに赤いドレス(背中がガッツリ開いてるやつ)で現れた女性。来賓に政治家も来てるのに、シャレにならない。
これがトラウマになって、今でも個人的なセミナーはやってない。というか、やれない。
お見合いという名の演技大会
お見合いで早めに結論を出そうとすると、相談所から「NG」と言われる。「女性の尊厳を傷つける」らしい。
だから私は演技をした。話を避けて、無言の時間を作って、「話が合わない」ように装った。仮交際終了の場合は完全スルー。先方の相談所から問い合わせが来るまで放置。
これ、正直者がバカを見るシステムだ。
そういえば、100人も会ってると、いろんな裏事情を教えてもらえる。「お互いの家に行っちゃダメ」「夜を過ごしちゃダメ」なんて建前だけらしい。実際は…まあ、想像にお任せする。
女性から旅行に誘われたこともあったが、お断りした。好き嫌いの問題じゃない。リスクを考えてしまう。相談所からは「何かあったら裁判になります」と脅されてたし、私の場合、名前をググればいろいろ出てくる。「結婚相談所で女性トラブルで裁判」なんて記事が出たら、その後の仕事に響く。
成婚退会を届けない「隠れカップル」もいる。相談所的には終了にして、内緒で関係を続ける。結婚すればバレるが、「他のパーティで再会」「友人の紹介」と言えば追及できない。賢いといえば賢い。
そういえば、IBJの代表と面識があって、相談所開設を勧められたことがある。通常200万の開設費を100万でいいと言われたが、集客からマッチングまでやるマンパワーがない。泣く泣く諦めた。
でも今思えば、やらなくて正解だったかも。この業界、人の不幸でメシを食ってるようなもんだから。
でも、全否定はしない
ここまで散々書いたが、全部が悪いわけじゃない。婚活してる人たちは真剣だ。その気持ちだけは本物。
期待していい。でも期待しすぎちゃダメ。これが2年間で学んだこと。
結局のところ、結婚も恋愛も「ご縁」だ。システムがどんなに理不尽でも、運命の人に会えるかもしれない。会えないかもしれない。それが人生ってもんだろう。
夏が終わると婚活パーティーが盛況になる、と相談所経営の知人が言ってた。夏に出会いがなかった人たちが駆け込む。病院の救急外来みたいだと。
でも、その真摯な気持ちに報いるためにも、業界はもうちょっとまともになってほしい。せめて男女平等に、ね。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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