資産運用より「人生のポートフォリオ」こそ最重要

黒坂岳央です。

資産運用の世界では「ポートフォリオの重要性」は常識となっている。1つのハイリスク商品に集中投資するのではなく、銘柄、時間、地域を分散することでリスクコントロールするというマネジメントのことだ。

この考え方は、投資だけでなく人生そのものにも適用可能だ。いや、むしろ株や債券ばかりに熱中せず、仕事や、趣味、人間関係、家族や健康といった様々な変数を「人生のポートフォリオ」として管理する発想が重要である。

なぜなら資産運用の最大化は必ずしも、人生のポートフォリオの最大化と同じベクトルではないからだ。

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10代と20代は学歴と仕事

人生の「資産」の重要性は年代や立場で大きく異なる。

10代の資産は何と言っても「勉強」だ。学力が高ければクラスメイトにおけるヒエラルキーも上位を獲得することができ、良い学友に恵まれ、良い学校、素晴らしい学習環境や様々な体験機会を得ることができる。

20代の資産は「仕事とお金」だ。筆者も20代の頃は脳内を仕事とお金の事以外何もなく、とにかく正社員で大企業に入って年収を増やしたいという考えが脳内を100%埋め尽くしていた。

そして有り金はすべて自己投資に使った。筆者は東京で働いている時期も土日に会計スクールで国際会計基準(IFRS)の勉強をしたり、MBAに挑戦したりと、とにかく持っているお金のすべてを自己投資した。今でも覚えているが、20代後半、貯金は常に10万円を下回っていた。

中年からは重要な資産が変化する

ところが、30代後半、40代以降の中年になると痛感するのが「健康」の重要性である。

確かに中年もお金と仕事も重要だが、もはや20代前半のように「多少寝不足でも栄養不足でも、いつでもパフォーマンス最大」とはならない。意識して健康的な食事、十分な睡眠、運動習慣を作らなければ、あっという間に仕事に響く。「健康はあって当たり前ではなく、自らの努力で作る」という感覚に変わるのだ。

さらに重要なのが人間関係だ。筆者は20代まではまったく人間関係にむとんちゃくで、友達はいなくはなかったが、自分が脇目もふらずに勉強と仕事にコミットしてしまったのでドンドン自分の元から人がいなくなった。

そして40代ともなると「自分の幸福だけを目指す人生」は砂を噛むような虚しさに襲われる。どれだけ高級体験をしても面白くないし、慣れてくる。思い切って一泊20万円超のホテル、一食10万円のレストランにも挑戦したが、一人でこれをやっても何も楽しくない。だが、家族一緒だとワイワイいいながらイオンのフードコートでたこ焼きを分け合い、クレープを食べるのでもものすごく楽しいと感じる。家族といれば、まるで中学生のような過ごし方で十分楽しいのだ。

また、自分がいい思いをするより、自分の取引先や顧客から吉報をもらうほうがはるかに嬉しいという感覚になる。人とのつながり、人間関係の質が自分の人生の幸福度を大きく左右する。

40代からは健康と人間関係のポートフォリオの充実へと比重が変わると感じるのだ。

仕事におけるコア・サテライト戦略

資産運用では「コア・サテライト戦略」という手法がある。安定的に運用する中核(コア)部分と、高い成長可能性を狙う周辺(サテライト)部分に分ける考え方である。

この発想はキャリア形成にも応用できる。例えば、生活を支える盤石な本業を「コア」とし、新規事業や副業、起業などの挑戦を「サテライト」とする。こうすることで安定と成長の両立を図れる。コアだけでは変化に弱く、サテライトだけでは不安定になる。両者を組み合わせることで、持続的かつ戦略的なキャリア形成が可能となる。

実際、筆者は東京で会社員をやっている時期、本業の外資系企業勤務がコア資産で、副業で挑戦していた記事を書くライターの仕事やフルーツギフトビジネスがサテライト資産だった。徐々にサテライトからの収益が増えていき、脱サラをして今がある。

最初の方がサテライトからの収益は微々たるものであり、「こんなの時給負けするからバカバカしい」と放りだしていたら独立できなかった。資産運用と同じく、仕事におけるコア・サテライト戦略には夢があると思うのだ。

リバランスの発想を人生に取り入れる

資産運用では定期的なリバランスが欠かせない。株価の上昇で株式比率が増えすぎたら売却し、債券などに振り分けてリスクを調整する。

人生においても同様である。仕事に注力しすぎて健康を損なえば、運動や休養への投資割合を増やす必要がある。家庭を顧みずにキャリアを優先しすぎれば、人間関係資産が毀損する。

人生の資産配分を見直し、適切にリバランスしていくことで、長期的に安定した幸福と成果を実現できる。

筆者はすでに仕事は30代の時のように、一日全ての時間を使って仕事に挑戦、というのをやめて、家族との思い出づくりとバランスを取っている。仕事をやりすぎたら旅行へ行き、遊び過ぎたらそろそろ仕事も頑張りたくなる、という感じでちょくちょくリバランスをしているのだ。

人間心理は面白いもので、仕事ばかりしていると旅に出たくなるし、旅が長期化すると仕事がしたくてたまらなくなる。そこを行ったり来たりすることはとても楽しい。仕事、遊びどちらも上手にバランスを取ると人生は充実化するという実感がある。

資産運用の基本原則である「分散」「コア・サテライト戦略」「リバランス」は、人生にもそのまま適用できる。お金だけでなく、健康、人間関係、学び、時間といった多様な資産を管理し、ライフステージごとに適切に再配分することが重要である。

 

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