ロシアから複数の無人機がポーランド領空を侵犯し、北大西洋条約機構(NATO)戦闘機が無人機を打ち落とす、といった事態が生じた。ポーランドのトゥスク首相は10日、「ロシアの大規模な挑発だ」とし、NATO条約第4条に基づき協議を要請した。今回は「その後」のポーランドを含むNATO側の対応とロシアの反応をまとめた。
欧州東部の防衛態勢を強化する方針を発表するルッテNATO事務総長、2025年9月12日、NATO公式サイトから
外交的対応としては、ポーランドが10日、NATO加盟国に条約第4条に基づく協議を要請し、実施された。また、国連安保理は12日、ポーランドの要請を受け、ロシアの無人機によるポーランド領空侵犯を巡る緊急会合を開いた。会合前には、ポーランドと日米を含む40カ国以上が、「領空侵犯はロシアによる国際法と国連憲章違反」とする共同声明を発表した。ちなみに、ポーランドは「国家安全保障を確保する」ため、12月初旬まで東部国境沿いの航空交通を制限し、ラトビアもベラルーシおよびロシアとの東部国境沿いの空域を1週間閉鎖する措置を取った。
ところで、何機のロシア軍の無人機が9日夜から10日早朝にかけポーランド領空を侵犯したかで、依然、100%確かな数字は発表されていない。NATO側は「少なくとも19機」と見ているが、一部では「21機」という数字も報じられている。また、何機がNATO戦闘機で撃墜され、何機がポーランドの対空防衛システムによって撃ち落されたのかもまだ確かではない。
NATOのルッテ事務総長は12日、ブリュッセルのNATO本部で記者会見し、ロシアのドローンがポーランド領空を侵犯したことを受け、「欧州東部の防衛態勢を強化する方針」を明らかにした。ルッテ氏は「意図的か否かを問わず、無謀な行為だ」とロシアを非難した。
ルッテ事務総長は「NATOの作戦は成功した」と豪語したが、欧州の軍事専門家は「ロシア軍の無人機がポーランド領空に侵入する前になぜNATO軍は対応できなかったのか。NATO側の防空体制が十分でなかったことを示している」と受け取っている。実際、ロシアの無人機はポーランド領空に数百キロメートル侵入している。同国の東部と中部、そしてバルト海沿岸のグダニスクから数十キロメートル離れた地点でも目撃されたという。
次は、ロシア軍の無人機のNATO領空侵犯がロシア側の意図的な行動か、ミスかで意見が分かれている。オーストリアの軍事専門家、マルクス・ライスナー氏は10日夜、同国国営放送とのインタビューで「ドローンは複数の地点から発射されている。ロシア国防省は偶然であり、意図的な行動ではないと主張しているが、複数のオペレーターが同じプログラミングエラーを犯したということは考えにくい。事実は、複数のドローンが同時に組織的に侵攻している」と指摘している。
それでは、ロシア軍の目標は何だったのか。独週刊誌シュピーゲルは、NATOの情報筋として、「ジェシュフ=ヤションカ空港だった可能性がある」と報じた。ポーランド南東部に位置するこの空港は、ウクライナ戦争勃発以来、兵站拠点として利用されており、西側諸国からのウクライナへの武器輸送の大部分を扱っている。ロシア軍はその空港を破壊する狙いがあったというわけだ。
ちなみに、ポーランド側は「19機のドローンのうち4機が撃墜された。これまでに3機のドローンの撃墜を確認している」というが、軍事専門家は「無人機撃墜率はウクライナのほうが高い。キーウは主に自国製の、生産コストの低い迎撃ドローンを使用しているが、その的中率は、高価なNATOのレーダー誘導式空対空ミサイルより高い」という。ウクライナ軍は欧米からの武器と共に、国内で武器生産に積極的に乗り出している。
一方、ロシアと同盟国ベラルーシで12日、両国の合同軍事演習「ザーパド2025」が始まった。兵員約1万2000人が動員されているという。演習は16日まで続きこの期間中、戦術核兵器や新型の極超音速中距離弾道ミサイル「オレシニク」の運用に関する訓練が実施される。
ちなみに、両国は2021年にも大規模な軍事演習を実施し、その数か月後(2022年2月末)、ロシア軍はウクライナに軍事侵攻を行った。「ロシアのプーチン大統領は次はポーランドやリトアニアなどバルト3国に軍事侵攻するのではないか」と警戒する声が聞かれる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。