ドイツ西部に位置し、16の連邦州の中で最大人口(約1800万人)を抱えるノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW)で14日、市議会、区議会、市長、区長の各選挙の投開票が行われた。地方選挙だが、今年5月に発足したメルツ政権への最初のテストケースとしてその結果が注目されていた。
投票結果を喜ぶヴュスト州首相、WDR公式サイトから、2025年9月15日
投票結果によると、ヴュスト州首相が率いる与党「キリスト教民主党」(CDU)は得票率約33.3%で前回選挙(2020年)比で1%減少したが、第1党を維持した。一方、連邦レベルでメルツ連立政権のパートナー政党、社会民主党(SPD)は約22.1%で第2党に入ったが、5年前の前回比で2.2%減に終わった。
また、「緑の党」が13.5%で前回比で6.5%減と大きく得票率を落とした一方、AfDは14.5%と前回比のほぼ3倍の得票率を確保した。その結果、AfDは同州では「緑の党」を抜いて第3党に躍進した。そのほか、左翼党が5.6%、自由民主党は3.7%に留まった。投票率は56.8%で、過去30年間で最高を記録した。
ヴュスト州首相(CDU)はAfDの大幅な議席獲得に懸念を表明し、「私たちに考えさせるべき結果となった。安眠など許されない」と述べた。
今回の地方選(有権者数約1370万人、任期5年)では、396の市町村議会、31の区議会、そしてルール地方連合のルール議会で投票が行われた。市長選挙では過半数を獲得した候補者が出なかったところが多く、アーヘン、ボン、ボーフム、ビーレフェルト、デュッセルドルフ、ドルトムント、デュースブルク、エッセン、ケルン、ミュンスターなどの都市で2週間後、上位2人の候補者の間で決選投票が行われる。
NRW州最大の都市ケルンでは、「緑の党」の州議会副議長であるベリヴァン・アイマズ氏とSPDのトルステン・ブルメスター氏による決選投票が行われる。州都デュッセルドルフでは、CDUの現職のシュテファン・ケラー氏がリード、「緑の党」候補のクララ・ゲルラッハ氏と決選投票を行う。また、ゲルゼンキルヒェン、デュースブルク、ハーゲンでは、AfDの候補者が決選投票に進出している。
選挙結果について、CDU/CSUのシュパーン院内総務は「今回の選挙結果が連邦レベルでのCDU/CSU-SPD連立政権を強化するものだ」と評価。一方、SPDのクリングバイル党首は、今回の選挙結果に失望を表明しつつも、「決して悲惨な結果ではない」と強調した。
一方、AfDのクルパラ共同党首は、NRW州地方選挙における党の成果を成功と評し、「我々は国民政党であり、我々全員がドイツに対して大きな責任を負っている。」と主張した。
【解説】
メルツ首相のCDUは得票率で前回比で1%減だったが、第2党以下を大きく引き離しして第1党の地位を維持したことで、メルツ首相は就任最初のハードルをクリアできた。一方、SPDは本来は労働者の州のNRWでも得票率を落とした。欧州の代表的工業地帯のルール地方は昔はSPDの支持基盤だったが、AfDに労働者層の支持を奪われてきた。ショルツ前政権時代から続く党勢の低迷から抜け出すことが出来ずに苦戦している。CDUとSPDの党勢の差が拡大することで、メルツ連立政権下でのSPDの影響力が今後、低下することが予想される。
NRW州地方選での最大のハイライトは、AfDの躍進だ。同党は単に旧東独に強い政党ではなく、旧西独にもその支持基盤を拡大した。クルパラ党首は「AfDは国民政党だ」と豪語したが、AfD支持者はもはや抗議票ではなく、同党の政治信条に共鳴している。来年は5州で議会選が行われる。AfDは今後もドイツ政界に旋風を呼び起こすことが必至だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。