19日、日本銀行は金融政策決定会合で、これまでの異次元緩和政策で積み上がった上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(J-REIT)の売却を決定した。政策金利は据え置かれたものの、株式市場は一時的に大きく動揺し、日経平均株価は一時800円超下落する場面もあった。日銀が超長期にわたる金融政策の正常化に踏み出した背景と市場への影響を整理する。
会見する植田日銀総裁
1. 金融政策の概要
- 政策金利は0.5%程度に5会合連続で据え置き。
- 米国トランプ前大統領による高関税政策の影響を見極める必要から追加利上げを見送り。
- ただし審議委員2名が0.75%への利上げを提案(否決)し、市場にタカ派的な印象を与えた。
2. ETF・J-REITの売却決定
- ETFは簿価年間3300億円(時価6200億円)ペース、J-REITは年間50億円程度の売却を開始。
- 日銀保有額は簿価37兆円、時価約70兆円に上る。
- 植田総裁は「完了には100年以上かかる」と明言し、市場へのかく乱を回避する超長期かつ緩やかな処分を基本方針とした。
3. 株式市場の反応と影響
- 発表を受けて日経平均は一時800円超下落、1日の変動幅は1300円超。
- 終値は257円安の4万5045円81銭。
- 東証プライムの売買代金は約8.7兆円と2022年以降で最大規模。
- 特に日経平均の構成比率が大きい銘柄(ファーストリテイリング、SMC、TDK、ソニーグループ、第一三共など)への売り圧力が警戒される。
4. ETF買い入れの背景と課題
- 2010年に白川日銀が開始、2013年以降の黒田日銀下で大規模化。
- 年間買い入れ額は最大12兆円規模まで拡大し、日銀は日本株全体の7~8%を保有する異常な状況に。
- 「官製相場」や企業統治(コーポレートガバナンス)歪曲への批判が長年続いた。
- 2024年3月には新規買い入れを停止し、正常化の一環として今回の売却に踏み切った。
5. 政治情勢と今後の展望
- 石破首相退陣と自民党総裁選(10月4日)など、政治の不透明さが決定を早めた可能性。
- 植田総裁はETF再購入は現状考えていないと明言。
- 経済・物価情勢の改善に応じ、政策金利の引き上げを検討する方針を継続。
- 市場が不安定化した場合は、売却ペースの調整・停止も視野に入れている。
今回の日銀の決定は、異次元緩和の副産物となった巨額ETF保有の解消に向けた歴史的転換点といえる。売却完了には100年以上を要する超長期戦略で、短期的な市場への衝撃は限定的と見られるものの、今後も政策金利の引き上げや世界経済の不確実性が株式市場に影響を与える可能性は残る。日銀が掲げる「市場のかく乱回避」と「金融正常化」の両立が、今後の最大の課題となる。