ロシアによるNATO加盟国への領空侵犯が止まらない。ポーランド、ルーマニアに続き、ついにエストニアの上空にロシアの戦闘機が侵入した。もちろんNATOは即座に反応したが、これが本当に抑止力として機能しているのかは怪しい。
NATO加盟国を標的としたロシアの「軍事力なき実力行使」は今に始まったことではない。サイバー攻撃や海底ケーブルの損傷など、明確なエビデンスを残さない「グレーゾーン戦術」で欧州の神経を逆なでする──その目的は明確で、NATOの結束が本物かどうかを試しているのである。
プーチン大統領 クレムリンHPより
“自立できない同盟”が安全保障を壊す
NATOの防衛の根幹は、実質的にアメリカ一国に依存している。外交評論家ロバート・ケーガンは、アメリカが今回のような挑発に無反応を貫くなら、「ヨーロッパ人はアメリカ人が自分たちのために存在していないという現実を直視するべきだ」と述べた。まさにその通りである。
ポーランドへの無人機進入について、トランプ前大統領は「事故かもしれない」と発言。ルビオ氏は「ドローンは意図的に発射された」としつつも、ロシアがポーランドを明確に標的にしたかどうかが問題だと述べ、事実関係と同盟国との協議を優先すべきと慎重な姿勢を見せた。アメリカ国内にすら、ロシアに対して過剰に反応することを避けようとする空気がある。
“自立できない同盟”が安全保障を壊す
にもかかわらず、NATOの防衛は、まるで冷戦時代のようにアメリカ頼みである。この構造はもはや限界だ。冷静に考えれば当然だが、アメリカにとってバルト三国や東欧は「戦略的に不可欠」などではない。いざというとき、米国の大統領がバルト海沿岸の小国のために自国兵士の命を投げ出す決断をする保証など、どこにもない。
欧州諸国は「アメリカが来てくれるかどうか」などというメンタリティをいい加減に捨てるべきだ。安全保障は究極的には国家の「自助努力」であり、「NATOに加盟しているから大丈夫」などという発想こそが最大のリスクである。
この問題、日本にもまったく他人事ではない
ウクライナ戦争を受けて日本国内でも防衛力強化の議論が高まっているが、「アメリカが守ってくれるから」式の発想は依然として根強い。だがロシアのやり方は、明らかに次はどこが弱いかを見極めて順番に押している。ウクライナ、ポーランド、エストニア──その次が台湾や日本にならない保証などどこにもない。
ロシアの圧力が続く限り、NATOは試され続けるだろう。そして問われているのは、アメリカではない。「アメリカ以外のNATO諸国」がどこまで本気なのかという点だ。
悲しいことに、その答えは今のところあまり期待できそうにない。