林佳龍・台湾外相のウィーン極秘訪問

オーストリア代表紙「ディ・プレッセ」は19日のオンライン版で、台湾の林佳龍外相(Lin Chia-lung)のウィーン極秘訪問を報じた。予想されたことだが、オーストリア駐在の中国大使館からは厳しい批判の声が出た。

林佳龍・台湾外交部長(外相) 中央社資料写真から

林佳龍外相のウィーン訪問は異例だ。台湾の高官が過去、ウィーンを経由地として、それぞれの目的地へ向かったことがあったが、数十年にわたり、乗り継ぎ以上の訪問はなかった。中国共産党政権は台湾の高官が海外を訪問することに警戒心が強く、訪問国に対しても様々な政治的圧力を行使してきた経緯がある。

台湾政府代表のオーストリア訪問の目的はウィーン楽友協会で開催されたコンサートで演奏する同外相の友人の演奏を鑑賞するためだった。

プレッセ紙によると、「ウィーン楽友協会の優雅なホールは、19日の夕方早くから台湾からの訪問客を前に熱狂に包まれていた。この訪問が中国の怒りを誘発させないように、長らく秘密裏に準備されてきた。台湾の林佳龍外相のウィーン入りは、19日にウィーンで行われた楽友協会のコンサートで友人が演奏するのを鑑賞するためだった。友人は、オーストリア駐在の台湾代表で、かつてウィーンに留学した著名なトロンボーン奏者の劉綜勇(ハンスアンヨン)氏だ」という。

ウィーン楽友協会ブラームスホールのステージで19日夜、5人のトロンボーン奏者(台湾人2人、オーストリア人3人)が演奏した。演奏したのは、ヨーゼフ・ハイドンなどのクラシック音楽と台湾の伝統的な旋律で、この夜のために特別に編曲されたものもあった(プレッセ紙)。

プレッセ紙によると、コンサート前に行われたレセプションでは、林佳龍外相はオーストリアの与党「国民党」やネオス、そして「緑の党」などの国会議員を含む、政界、経済界、文化界の代表者と会談した。日本とチェコ共和国の大使も同席したという。

オーストリア政府と台湾側は「外相のウィーン訪問は完全に私的なもの」との立場を崩していない。実際、同外相はオーストリア政府関係者とは会談しなかった。しかし、同外相のウィーン訪問とコンサート鑑賞は北京政府を刺激するのに十分だった。コンサート開催前から、北京当局はオーストリア政府ばかりか、コンサートの会場「楽友協会」関係者にも圧力を行使し、何とかコンサートを中止させようとしたという。

海外での中国側の攻撃的な「戦狼(せんろう)外交」は良く知られている。最近では、デンマーク紙のベルリングスケは9月14日、在デンマーク日本大使館が今年2月26日に開いた天皇誕生日を祝うレセプションで、中国の王雪峰大使が日本側に対し、台湾の鄭栄俊(ていえいしゅん)駐デンマーク代表(大使に相当)の退席を求めていた、と報じたばかりだ(台湾中央社9月16日)。

オーストリアは台湾と外交関係を結んでいない。台湾はオーストリアにとって最も重要なアジアの貿易相手国の一つであり、2024年の両国間の貿易総額は約18億ユーロに達した。世界で台湾と正式な外交関係を維持しているのはわずか12カ国だ。台北はウィーンに「経済文化弁事処」を設置し、二国間関係の発展に努めている。

なお、林外相はローマからウィーンに到着した。イタリアでは台湾大使館の新事務所を開設し、イタリア代表との会談を行った。ローマ訪問前にはプラハを訪問した。林佳龍外相は20日、約10日間の欧州ツアーを終えて台湾に戻った。

参考までに、林佳龍外相はオーストリアのメディアとのインタビューに応じ、トランプ米大統領が19日、中国の習近平国家主席と電話会談を行った際、米国の台湾への軍事支援に疑問を呈するような発言をしたことについて、「米国の方針転換は予想していない。台湾は米国議会の全面的な支持を得ており、軍事援助は既に米国の予算に組み込まれている。トランプ政権の台湾支持を信頼している」と述べている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。