日本国内の移動手段、その主なものは航空、鉄道、自動車であります。私企業の理論が入れば当然、そこから利潤を生みだしたいわけでその事業者は必死に攻め、守っていると言えます。他方、企業は常に成長を求めるため、拡大路線になりやすいともいえますが、適正利潤を得ながら拡大し続けるということは人口が増える前提がないとできないはずです。
そこから考えると移動手段の拡大路線はどこかで破綻するのかもしれません。このあたりを考えてみたいと思います。
まず航空機。驚きだったのが26年3月期にJALとANAは国内線事業が赤字になることが見込まれているという報道です。理由は複合的ですが、基本的には新幹線や同業他社との競合で割引が増える一方、コストは高止まりしていることがあります。ましてや国内専業の航空会社、ソラシドは赤字、エアドゥも利益が急減するなど経営環境は厳しさを増しています。
一方、航空会社が無くなる訳にもいかず、ここは早めに再編などを図るしかないのだとみています。例えばカナダのように国土が広く、移動手段の選択肢がさほど多くない国ですら主たる航空会社は2つしかなく、あと若干のリージョナルエアーとチャーター航空会社がある程度です。とすれば日本の航空会社は多すぎるなかでリージョナル会社がより成長しようとし、大手と割引という流血戦を続けているという構図とも言えます。
次に鉄道です。新幹線と都市部の鉄道だけを見ていると「儲かっている」と思います。25年の鉄道会社売り上げランクを見ると1位からJR東、東海、西日本ですが、そのあとは路線網の長い近鉄や東急、阪急阪神となり、それ以外のJR各社はぐっと落ちてしまいます。利益も多少順番が違いますが、ほぼ似たようなものです。利益率1位のJR東海は新幹線で持っているようなものであります。
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現在リニア新幹線を建設中でたぶん3-4年後に開通するのだと思います。これについては着工当時、私は事業として本当に必要なのかという疑問符はつけましたが、災害時の代替という発想からインフラであればやむを得ないと考えています。
一方、日本の鉄道は都市間移動の超特急という発想と共に中速鉄道という時速130㌔から260㌔程度で走る鉄道網の整備にシフトしそうな気配があります。日本でいわゆる中速鉄道はたしか京成スカイライナーの時速160㌔だけだったと思います。同路線も街中は線路がカーブだらけでスピードは出ませんが、郊外に出ると高架が完備され更に線路が広軌であることでその速度が実現できたのかと思います。
欧州は鉄道網が非常に発達しており、隣国程度なら航空機ではなく鉄道で移動するケースが多いと思います。これは欧州が面上の地形で大都市が数多く散らばっており、スケールメリットとビジネスの用途が多いからだと理解しています。故にTGVやそれに準ずる鉄道は300-320㌔で運転されるわけです。日本はそこまで国土が広くないので高速と中速鉄道という組み合わせは正しいのではないかと思います。
私が気にしているのはこれ以上インフラを拡大してもそれを維持できなくなるという懸念であります。人口あってのインフラであり、移動手段です。また人が移動する必要がどんどんなくなってきている事実には着目すべきでしょう。例えば6Gの時代がくれば今以上に自分のオフィスから様々な作業ができるようになります。一方、鉄道会社はそのインフラを維持するだけで膨大な資金を投じ続けなくてはいけないことになり、間尺に合わなくなると考えています。つまり技術が進化すればするほど鉄道事業は厳しくなるとも言えないでしょうか?
最後に自動車による移動です。私は70年代、80年代の都心のクルマ事情を肌身で見てきた中でそれから50年すると道路はこんなにガラガラになるのか、と驚きなのであります。これもいろいろな背景の組み合わせだと思います。さほど遠くないうちに乗り合いの自動運転のバン型タクシーが生まれれば地方の足として圧倒的に利便性が上がるのでしょう。移動の効率化も進むわけで移動時間の改善はより進むと思われます。
しかし、道路も舗装を含め、維持管理が必要です。幸いにして日本は財政が健全なのか、アスファルトが割れて道路に穴が開いているところなど少ないと思います。ここカナダにしろアメリカにしろ、英国にしろ道路はボコボコでパンクしたというクレームは普通です。それを受けて役所は時折、穴にアスファルト入れてパッチ修理する程度です。日本もいつかはそうならないとは限らないわけです。
個人的には人々の移動回数の減少トレンドは変わらないとみています。その中で航空、鉄道、自動車の移動の選択肢においてスピードと快適さの競争は結局、移動手段の生き残り戦争ともいえますが、今後は国の都市整備計画を含めより持続可能な移動基盤のインフラ整備にシフトすべきだろうと思います。私企業の独自の論理というわけにはいかなくなると思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年9月22日の記事より転載させていただきました。