株高・不動産高を「昭和バブル」と同一視する愚かさ

日本国内でも株価と都心部のマンションを中心とした不動産価格の上昇が続いています。価格の上昇と共に過去の価格との比較から価格が上がり過ぎて「バブル」ではないかとの懸念を示す人たちも出てきています。

今や昭和のバブルをリアルに知る人も段々減ってきましたが50代以上の人たちであれば、クリアに記憶しているはずです。

私も社会人になったのが1986年で、日経平均の当時の最高値となった昭和バブルのピークが1989年の大納会(年末)ですから、昭和バブルの異常さはよく覚えています。

株式に関しては割高・割安の尺度として PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が使われます。

昭和バブル期のピーク時には東証1部の株式の平均PERは60倍以上に達していました。しかし現在の東証プライム市場のPERは16〜20倍程度で推移しています。

PBRについても同様です。昭和バブル期のピーク時の東証1部の平均PBRは5倍以上ありました。しかし現在の東証プライム市場のPBRは1倍台前半です。

どちらも昭和バブルから見れば過熱とは言い難い状況になります。今後の企業業績や金利・景気動向によって株価は変動することになりますが、現状の株価が危険な水準であると言うのは過去との比較からすれば無理があります。

不動産に関しても株式と似た分析が可能です。

昭和バブルの頃は不動産価格が全体的に上昇し、東京から地方に波及していましたが、現状では「高騰」と言えるのは東京23区のマンション価格が中心になり特に都心6区だけが突出しています(図表の出所は日本経済新聞電子版)。

国内の価格推移だけを見ると割高と捉えることもできますが、世界の先進国の主要都市のコンドミニアム価格と比較すると必ずしも割高ではありません。

また昭和バブルの頃のような過剰な不動産向け融資の兆候もありません。

賃貸利回りと金利水準の差であるイールドギャップを見ても、昭和バブルの頃は借入金利が6%近いのに賃貸利回りが2%以下という完全な逆ザヤでした。値上がりによるキャピタルゲインが無ければ正当化できない状態です。

これに対し、現状は金利差が小さくなってきているとはいえ、賃貸利回りの方が借入金利を上回る順ザヤ状態です。

日銀の政策金利の引上げでイールドギャップがさらに小さくなることはあっても、昭和バブルのような逆ザヤになることは考えにくいと思います。

これらの数字からの結論は現在の株高・不動産高を「昭和バブル」と単純に同一視するのは愚かだということです。

逆に言えば、そのような過剰な警戒心を持っている投資家がいる限り、まだまだ価格上昇が続くと見ることもできると思います。

MarsYu/iStock


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年9月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。