世の中が先鋭化してきた、これについては異論は少ないと思います。2つの戦争もそうだし、フランスの国を二分する政治状況もそうだし、週末のモルドバという国の選挙で露骨なロシアの選挙干渉失敗という話もありました。ドイツの徴兵制復活への道というのも気になります。
日本に目を向ければ小泉陣営からのステルスマーケティングがあったことが判明、思った以上に尾を引いています。ただ、正直、今回の総裁選についてはメディアや一部インフルエンサーから露骨な小泉氏への批判がほかの4候補に比べて圧倒的に多いことも事実です。私から見れば小泉陣営のステマと同じぐらいインフルエンサーの声が作り出す選挙干渉は悪質だと思うのです。
小泉進次郎氏インスタグラムより
私がなるべく中立的な立ち位置で考える限り、一種の「推し活」状態が一般庶民レベルまで降りてきているのだろうと思います。「押し活」は一種のファンクラブをもっと掘り下げるマーケティングの一種で、それに影響を受けた人が強力なファンになる効果は相当なものであります。選挙の場合、「逆推し活」、つまり嫌だと思う人を批判する、弱点を突く、相対的に低めの評価を行うことで、インフルエンサーの手法では様々な不利な情報や噂、週刊誌的ニュースをベースに悪口三昧にするわけです。
ところで、世の中、ある事象に対して判断を下す時、賛成、反対と共に意見留保、つまりよくわからないという層が3-4割、時としてそれ以上あるのが世の常です。ステマや推し活、選挙干渉、インフルエンサーのボイスなどはそれら意見留保の人に対して強く訴えかけ、形勢逆転をしたり、コトを有利に運んだりするわけです。
人々がある人に好感や悪意を示す時、どの程度、相手を理解しているのかは千差万別ですが、政治のレベルになるとかなり狭い範囲での理解となるのが世の常です。私が選挙戦で外交は二の次、三の次というのは有権者が見るのは外国との関係よりも今日や明日のご飯であり、身近な話題が主になるからです。
ただ割と多くの人はそこを理解する以前に単なる「見てくれ」で判断することも多いのです。フィリピンで捕まったルフィー、「怖そう―な顔」あるいは「あの人、有名人でしょ、私知っている」といった具合です。東京都知事選挙は知名度がないと当選しないとされますが、それぐらい有権者の判断材料は浅いとも言えるのです。
とすればステマや選挙干渉は思った以上に選挙結果を左右するとも言えるわけで、それら発信者はより強烈な言葉でそれを発信し、繰り返すことで人々に印象付けをすることになります。例えば〇〇候補は性格が悪い、いつも孤独だ、判断力がない、行動力を伴わない…といったことを何度も繰り返し発信すれば人々はその人と話をしたこともないのにあたかも知人の如く「あの人はね、性格悪いよー」と人に言ってみたりするのです。
人々が先鋭化するというのはこういうことなのでしょう。結局そこにもたらされるのは明白な意志を持たない人への誤った判断の誘導といえます。
アメリカで銃乱射事件があり、教会が炎に包まれました。これなども極端に先鋭化した犯人の思想が常軌を逸した行動となったのですが、同じような事件はアメリカに限らず、世界で日常茶飯事とも言える状況になっています。
私は昔から判断するにあたり、長短を考えるようにしています。そしてあまり極端な主張もしないように心がけています。そのためには些細なことはあまり気に留めません。細かいことに気を囚われると大局を見失うからです。人によってはそれが気になる方もいると思います。ただ、80億人の人類において完璧な人間は一人もいないのです。非常に頭が良い方でも家の片づけができないとか、高名な学者なのに計算ができないとか、政治は出来るけれど料理は出来ないといった具合で常に人は各自のユニークネスがあることを忘れてはいけないのです。よってなるべく強みを見ることでどれだけプラスの効果が期待できるか、というスタンスに立つべきなのでしょう。
先鋭化の一原因であるSNSについて今さら批判しても仕方がないでしょう。SNSや情報過多の時代から30年前に戻れ、といえば世界は大混乱となります。世の中からSNSをなくしたらどうなるか、ネパールの暴動はその端的な例でした。
先鋭化は止まらないのかもしれません。そしてそれは国家間の争いに留まらず、国内も足並みが揃わず、二分化し、それがより小さな組織である会社や学校のクラス、町内会やマンションの管理組合…といったレベルに下がってくるでしょう。当然ながら社会問題も発生するはずです。ですが、人は残念ながら賢くないのです。荒れて荒れて荒れ放題になった時、ようやく気がつくはずです。我々はアホやったなぁ、と。それがきっと学びということなのでしょう。代償は高そうですね。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年9月30日の記事より転載させていただきました。