黒坂岳央です。
現在、日本社会はインフレと円安の影響を強く受けている。特に顕著なのは東京都心部の住宅価格だ。新築マンションの平均価格は一億円を超えることも珍しくなく、20代の若者が社会人になってすぐに一人暮らしを始めるというこれまでの「常識」は崩壊しつつある。
かつては、大学進学や就職を機に東京で一人暮らしをすることが大人への通過儀礼のようだったが、今後はそれが変わっていくだろう。筆者は「20超えて実家ぐらしはヤバい」から「実家ぐらしは勝ち組」に変わる世界もあり得ると思っている。
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実家暮らしのイメージの変化
これまでは「20代で実家暮らし」というと「自立心がない」「やばい」といったネガティブな評価が付きまとった。だが、実家暮らしが可能であるということは、まず親子関係が破綻していないことの証である。
さらに親の立場から見れば、子供が家にいることは寂しさを和らげ、家族の時間を増やすという意味でも歓迎されるだろう。子供にとっては家賃が不要で生活費が圧倒的に安く済む。このメリットはインフレ時代において極めて大きい。
子供ができて家を買うとわかるのだが、「せっかく大枚はたいて家を買っても最大でわずか18年しか子供たちと住めないのだ」と思うのと寂しい気がしなくもない。だだっ広い家に夫婦二人だと家ががらんとしてしまうだろう。
しかし、もしも社会全体で「実家ぐらし」を許容するムーブメントとなれば家購入の合理性はこれまでより高まる。視点を広く持てば、決して悪いことばかりではないはずだ。
実家暮らしに必要な「生活力」
しかし、実家暮らしの全員が勝ち組になるわけではない。単に親に依存するだけでは、市場価値は大きく下がる。
かつては「男性は稼ぐこと」が最大の価値とされてきたが、現代は女性の社会進出も進み、共働きが前提となっている。そのため、男性も「稼ぐ力」に加え、「家事・育児ができる力」が付加価値になる時代である。
したがって、実家暮らしをしながらも料理・洗濯・掃除といったスキルを身につけ、自立した生活力を確立することが不可欠である。特に真価が問われるのが産後である。この時は男性が食事の準備や掃除・洗濯をすべて担うメインプレーヤーになる、くらいの想定は必須である。
依存と合理性は矛盾しない
もちろん「実家暮らしは甘えではないか」という批判は根強い。だが一方で実家ぐらしは強烈な経済合理性は存在する。そしてこの2つはトレードオフではなく、共存が可能だ。
実際、家賃や生活費を大幅に節約できることで、若いうちから自己投資、資産運用へ資金を回せるなら、それは将来のキャリアを盤石にする合理的な判断である。
そして見方を変えれば「合法的な節税」とも言える。親から子供へそのまま資産を渡すと贈与として課税されるが、常識的な範囲なら生活費に課税されない。子供が余剰資金を資産運用すれば、一族繁栄という観点では非常にメリットが大きい。
トータルで考えると、奨学金の返済や家計を圧迫しながら無理に一人暮らしを続けるよりも、経済合理性に基づいた選択といえる。将来的に結婚したらその時に実家を出ればいいのだ。
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特に今はリモートワークや地方でも強い企業も生まれているので、無理に東京に就職先を選ぶ合理性はない。多少給料が高くてもバカ高い住居費を払うか、超過密電車に毎日乗る苦痛を考えるなら、年収が違っても実家から生活する方がメリットはある。
結局、東京に住んでもハイスキルがなければインフレ負けしてジリ貧になるので、それなら地方で余裕を持った生活をしながらスキルアップをして収入を増やす方が良いだろう。
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