チェコで3日と4日の両日、議会選挙(下院200議席、任期4年)が実施される。複数の世論調査によると、実業家で資産家のアンドレイ・バビシュ前首相が率いる右派ポピュリスト政党「ANO2011」が支持率で大きくリードし、同党の政権復帰が現実味を帯びてきている。
チェコでは投票は、3日午後2時から同日午後10時まで、翌日4日午前8時から再開され、同日午後2時まで行われる。投票の大勢は4日夜には判明する予定だ。選挙には26政党、選挙連合、グループが参加しているが、議会で議席獲得に必要な得票率5%をクリアする政党は7政党に留まるものと予想されている。
日本を訪問して石破茂首相と会談するチェコのペトル・パヴェル大統領 2025年7月25日 首相官邸公式サイトから
同国からの情報によると、ANOは支持率30%から33%とトップを走り、ペトル・フィアラ首相が率いる現政権の連立同盟を10%以上リードしている。ただし、バビシュ氏のANOが勝利したたとしても、1党で過半数を獲得するのは難しく、他政党との連立が不可欠となる。
ANOの連立相手としては、実業家トミオ・オカムラ氏が率いる右派ポピュリスト政党「自由と直接民主主義」(SPD)が挙げられている。SPDは政権外に留まり、ANOの少数与党内閣を容認する可能性も考えられる。問題は、ANOとSPDの両党で過半数を獲得できなかった時だ。その場合、初めて議会選挙に立候補する右派政党「モトリスト」が挙げられる。選挙戦終盤に入り支持率を伸ばしてきた「モトリスト」は、「バビシュ氏を支援する」と公言している。
前回の総選挙(2021年10月)では、バビシュ首相が率いる「ANO2011」は反バビシュで結束したリベラル・保守政党の野党連合(Spolu)と左翼のリベラルの政党「海賊党」と「無所属および首長連合」(STAN)の選挙同盟に僅差ながら敗北し、野党連合のフィアラ首相を中心とした5党から成る連立政権が昨年12月17日、発足した。
いずれにしても、欧州連合(EU)懐疑派のバビシュ氏が政権を握った場合、フィアラ現政権の親EU路線に修正が出てくるだろう。また、ウクライナ支援政策の見直しも避けられなくなると受け取られている。
ウクライナ支援問題は選挙では争点の一つだ。チェコは「有志連合」のメンバーであり、ウクライナへの武器供与、兵士の訓練などをしてきた。ウクライナ戦争が始まって以降、チェコはウクライナに2000点以上の重装備、火砲、戦車、ミサイル発射装置などを供与してきた。その一方、国民の間に支援疲れが出てきている。
一方、チェコの国民経済は新型コロナウイルス危機からようやく回復してきた。旧ソ連・東欧諸国の経済分析で有名な「ウィーン比較経済研究所」(WIIW)によると、「チェコ経済は2025年第1四半期も回復を続け、GDPは前期比0.8%増、前年比2.2%増となった。実質所得の向上と低インフレが支出を支え、成長は主に家計消費によって牽引された。労働市場の状況は引き続き良好。雇用は、サービス業と建設業の雇用増加に支えられ、前四半期比0.7%増、前年比1.1%増となった。平均粗賃金は名目ベースで前年比6.7%増、実質ベースで3.9%増となり、家計購買力の回復を後押しした。インフレは2025年初頭も引き続き緩和し、国内外のコスト圧力の好ましい傾向を反映している。。第1四半期の実績と国内需要の基調的な動向を踏まえ、2025年のGDP成長率は2.0%」という。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年10月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。