賃貸VS持ち家論争は不毛とこのブログでは結論付けています。長短それぞれであり、その人のライフスタイル次第で決める事柄だと思います。それぞれの言い分はもっともで特に持ち家派の主張である「退職後も賃貸でもよいのか?」という意見は確かに耳を傾けるに十分な説得力はあります。特に退職してから平均余命が25年近くあることを考えると収入がない人にアパートを貸してくれる奇特な大家さんはいるのか、という損得問題以前に、現実問題が生じてきます。
日経に「遠のく夢のマイホーム マンションは年収の10倍、持ち家政策に転換期」と題する記事があります。趣旨は住宅価格の年収倍率が10倍を超え、東京都においては18倍と現実離れした状況では欲しくてももはやどうにもならないという状況にあるとも言えそうです。
持ち家は今後、夢になるのでしょうか?私の見立てではありえると見ています。日本の持ち家比率は60%強で表面的比率は変わっていません。ただし、若年層の持ち家比率が近年、10%ポイントほど下がってきているとの調査もあり、今は高齢者が支える持ち家比率となっている公算があります。
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欧米の例を見ても持ち家比率はだいたい60%程度で同じ水準。では賃貸の人たちで収入が十分にない人はどうしているのかという質問ですが、カナダでは低所得者住宅がかなりの勢いで建築されています。どうやって低所得者住宅を建築しているかといえば住宅デベロッパーへの強制寄付(義務工事)と地方自治体や政府機関による強い推進力が大きく機能しています。カナダでは開発申請の費用にそのコストの一部が盛り込まれることもあるし、大規模開発では概ね総戸数の20%分の低所得者住宅建築の義務がついてきます。日本ではそういう政策がないので住宅デベロッパーは儲け放題とも言えます。
さて、東京に来ると私は商売柄どうしても不動産が気になります。そしてよく歩くのが路地裏。地元の人しか通らない狭い路地を歩くと「マジ?こんな家ありなの?」という物件はごろごろあります。ボロ家で夜、電気がつかず、廃墟同然の家もあります。しかし、この物件が将来、陽の目をみることはゼロであります。理由は前面道路が4M以下で再建築不可なのです。路地の入口を見ると両端には立派な建物が立っています。つまり、どうやっても前面4メートル道路につながらないのです。これは旗竿物件より問題で、不動産物件価値はゼロと言っても過言ではありません。もちろん無理やり全面改築という手法を取ることは可能ですが一般的ではありません。
何を言いたいかというと、実は大都市の住宅密集地では区画の再整理さえすれば住宅に適する不動産は今の倍ぐらい生み出せるのです。多くの人には前面道路が4メートル以上あるところしか通らないので気がつかないのですが、四角い1つの区画で前面道路に面していない中側は今までは細い路地などでアクセスがあることで建物を建てていたわけです。ところが防災上、それが活用できないのが今のルールなのです。仮にそれら死んだ不動産が活用できる仕組みができれば住宅供給を一気に増やすことができるのです。
もう一つ、建築費高騰が住宅取得の難題になっています。もしも古家をゼロから新築にせず、全面改築という手法を取ると建築費は概ね3割は下がります。理由は許可取得前提の住宅だと様々な基準をクリアしなくてはいけないのですが、既存住宅の改築なら許可がいらないからです。だからと言って違法住宅は今の時代、設計士も建設会社も「それは出来ません」と突っぱねるので変な住宅ができるわけではないのです。ちゃんと火災保険に入れる住宅であります。
つまり土地代と建築費を合わせた住宅費を下げることはテクニカルには可能です。また若い人も富裕層もマンションにしか目がいかないのですが、マンションは取得コストと維持費に対して実質残存価値はどうなのだろうと思います。例えば天災で壊れた場合、誰がどうやって再建築しますか?皆さんの共有であるゆえに自由度がないリスクは頭に置いておいた方が良いでしょう。コストパフォーマンスだけでみるならば旗竿物件をリノベすれば年収の8倍ぐらいで取得、改築できる物件はいくらでもあります。問題はローンがほぼつかない点でこれを解決すれば世の中の不動産事情は大きく変わるはずです。
最近は老後は都会の喧騒を離れて暮らしたいという方もいます。庭いじりしたいという人もいるでしょう。とすれば冒頭の持ち家VS賃貸に新たに第三の案を提示するとすれば「働いている時は賃貸、そして定年になって終の棲家を見つけ、それをオール現金で購入する」という方法もあるかと思います。
私は外務省の方とのお付き合いも多いのですが、彼らは国内と海外をほぼ交互に赴任するため、持ち家比率は低そうだという印象です。なので退官後に家を購入している方もいるようです。同様に各省庁の国家公務員も2-3年単位で国内転勤の連続で積極的に持ち家にする理由がないような職業の方も多いのです。そのような方々の中は逆に老後には「〇〇に住みたい」という明白な目標を掲げる方も多く、その理由は社会人人生の間の任地での思い出が一つのトリガーになっているようです。
今は手が届かない不動産ですが、買えるようにする方法はかなり多く、それができれば不動産市場の神話などいくらでも変わるのであります。役所も業界もわかっていてやらないのですよね、ある意味確信犯とも言えます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年10月2日の記事より転載させていただきました。