LDH今市隆二氏のトラブルに学ぶ、正しい謝罪リリースの書き方。(中嶋 よしふみ)

今年の4月、LDHの人気グループ「三代目 J SOUL BROTHERS」のメンバーである今市隆二氏が、タクシー運転手に暴行、脅迫を加えた疑いで書類送検された。

これが発覚した7月末、LDHはトラブルについて謝罪する公式見解(謝罪リリース)を公表したが※、むしろ火に油を注ぐ形となった。タクシー会社、タクシー運転手とも和解は成立したと報じられているが、今もなお批判の声はやまない。

※三代目J SOUL BROTHERS 今市隆二に関するご報告 2025.07.31

炎上やトラブルで企業が謝罪リリースを出すことは珍しくない。以前は犯罪レベルのトラブルでもなければ謝罪リリースを出すことはなかったが、最近ではSNSの影響力が極端に大きくなったことから、炎上を抑えるためにリリースが出されることは珍しくない。

そして本来は沈静化が目的の謝罪リリースが原因で更に批判を呼び、炎上に燃料を投下することも珍しくない。

広報や弁護士、場合によっては謝罪会見などを執り行うPR会社などが関与しているはずなのに謝罪リリースで解決どころか火に油を注ぐ理由はどこにあるのか?

端的に言えば余計なこと、書かなくていいことが書いてあるからだ。

筆者の目から見るとわざと炎上させてるのか?と思うような酷いリリースは多い。

ダメなリリースを見ていると、どれも書いた人、あるいは書かせた人の「感情」が重要なポイントであることが分かる。

LDHの謝罪リリースも一見すると形にはなっているが、トラブルを大きくする典型的なミスが多数含まれている。

そこで文章表現のプロであるウェブメディア編集長として、芸能人や芸能事務所という個別の事情は全て排除し、そしてLDHの謝罪リリースのテキストと客観的な事実だけをベースに、芸能ネタではなく企業のリスクマネジメントの視点から解説をしたい。

謝罪リリースで書くべきこと。

今回のトラブルでは、リリースを書いて公表したのは事務所のLDHであり、言うまでもなく当事者である今市氏本人ではない。感情的な判断で余計な事を書いてしまうリスクは本来ならば無いはずだ。

しかしリリースを読むとそこには過剰なほど感情が溢れている。明らかに謝りたくない、大した問題ではない、誤魔化したい、という意図が透けて見える。本来ならばそれを隠して謝罪に徹するべきにも関わらず。

そしてそれが誤解ではない証拠に、その感情通りの行動を事務所は行っている。

筆者から見るとだから炎上するのに、ということになるが、おそらく感情が文章から漏れていることが分からないのだろう。

謝罪のリリースで伝えるべきは、まずは謝罪、そして不利なことも含めて事実関係を正確かつ分かりやすく説明すること。それだけだ。

なぜ起きたのか? 何が起きたのか? 本当に謝罪しているのか?

この三点に絞って謝罪リリースをとことんまでつきつめて読み解きたい。

なぜ起きたのか? why

まずは事実関係の正しい説明だが、LDHの謝罪リリースはそれが全く出来ていない。文章の基本である5W1Hの説明が全く書けていないからだ。

リリースで「なぜ」に関する説明は以下の箇所だけだ。

>当該行為は、本人が同乗者との間で感情的になったことに起因しておりますが、

まず、これを読んでなぜトラブルが起きたのか理解できる人はいるだろうか?

筆者は当初、タクシー運転手とケンカをして感情的になった、だから暴言を口にした、と誤読してしまった。それならば良い悪いを別にすれば話の辻褄は合う。

しかしこれは同乗者、つまり一緒にタクシーに乗った友人知人とケンカをしていたら無関係の運転手に飛び火した、という事で全くわけがわからない。

運転手の代理人弁護士のレイ法律事務所のリリースでは運転手が道を間違えるなど何かしらのミスはなかった事も明言している。

これだけ短い文章にもかかわらず、話が繋がっていない、意味がわからない、わけがわからない、となればそれを読む側が理解出来るはずもない。

「起因」という謎ワード。

事務所が本人に事情を聞いても不可解な言動で、酒に酔っていたために因果関係の繋がらないおかしな行動を取った、ということであれば、それも含めて分かりやすく書けばいい。

この場合であれば「同乗者と感情的になりケンカをした際に全く無関係の運転手にも矛先を向けてしまった」といったところか。

酔って意味不明な行動をしたという説明なら、本人の言動の辻褄は合っていないが、文章として意味は通っている。

しかしリリースの文章には酒に酔っておかしな行動をした、意味不明な行動をした、という説明がない。それどころか「起因」という言葉で、まるで因果関係があった、つまりは合理的な行動を取っているかのような表現を使っているため、意味不明さに拍車をかけている。

もし筆者が添削をするとしたら、このリリースの書き手に対して……

この起因というワードは全く意図が分からないんだけど、あなたも分かって書いてる? 分かってないんじゃない? 本人の話をちゃんと聞いたの? 本人が酔って記憶が曖昧と言ってるの? それともあなたの文章がおかしいの? どっち?

……と激詰めするだろう。

酔っておかしな行動をした事を明確にしたくないために、あえて曖昧な表現にした可能性もあるが、少なくとも酔っぱらった挙げ句の行動であることはすでに知られている。そんな書き方をするメリットはゼロだ。

リリースの中でも短い一文だが、なぜ?という極めて重要な論点が曖昧であること、それが謝罪リリースで炎上した一つ目の原因だ。

何をしたのか? what

なぜの次は「何を」だ。

アクリル板を殴り、殺すと暴言をしたことについては以下のようにある。

>本年4月上旬、本人が酒に酔った状態でタクシーに乗車した際、同乗していた友人との間で口論となり、その結果、車内外において乱暴な言動をとるという、誠に不適切かつ社会的に看過できない行動があったことが判明いたしました。

リリースを出した時点ですでにタクシー運転手に対して何かしらの被害を与えたことは報じられている。後に運転手との示談ではアクリル板を殴り、殺すと発言したことも謝罪をしている。そうであれば、事実関係を感情を一切交えず明確に書けばいい。

それにも関わらず「車内外で乱暴な言動」と腰を抜かすほどあやふやな表現をしている。この文章からは誤魔化す気が満々である意図しか伝わってこない。

徹底的に隠し通してそれが可能ならば誤魔化すことも(到底許されないものの)作戦の一つかもしれないが、ドライブレコーダーでしっかり録画されて動画もあるためそんなことは不可能だ。

トラブルが起きてからリリースが出るまで4ヶ月ほど時間があいていて、その間に今市氏はドームツアーに出演していた。示談交渉でトラブルの存在を公開出来ないなど、何かしらの事情があったとしてもその間に活動自粛も出来たはずだ。

理由は体調不良などと嘘をついてもこの場合は許されるだろう。それをやらずに報道があるまで対応をしなかった事と、事実関係を誤魔化す文面からは、報道が出てもまだ隠したい、誤魔化したい、という意図が明確に透けて見える。

事実関係を直視しないどころか隠そうとしている、これが謝罪リリースで炎上した二つ目の理由だ。

本当に謝罪しているのか?

そして三つ目、これが最大の炎上原因となった。

>本件につきましては、4月中に本人よりタクシー会社様へ謝罪と示談の申し入れを行い、現在、当該会社様との間では既に示談が成立しております。
>なお、乗務員様に対しても、本人から真摯な気持ちで謝罪と和解の申し入れを行っており、今後も誠意ある対応を続けてまいります。

示談の成立について当初の報道があった際に、レイ法律事務所はタクシー運転手と示談は成立していないとコメントを出した。

これはSNSでも話題になり、筆者もどっちが嘘をついているのか?と不可解に思っていたら、これはタクシー会社と示談は成立したが運転手とはまだ成立していないという事だった。

改めて読み返すとそのようにも読めるが、今回のトラブルの炎上に最も拍車をかけた部分でもある。

これは誤読を狙っていると言っても過言では無いほど文章表現が分かりにくい。そして、「既に」示談が成立した、という表現からは、極めて強く事務所側の感情が伝わる。

この場合「既に」は無くても意味は伝わる。それにも関わらず、なぜ示談成立を強調するこのワードをあえて入れたのか。

「既に」というワードをなぜ入れたのか?

意識してか無意識かは分からないが、この話はもう終わりかけの話なんです、解決寸前の話なんです、だから大袈裟に騒がないで下さい、という事務所側の認識、意図、感情がダダ漏れと言って良いほど透けて見えてしまう。

これは「乱暴な言動」と誤魔化した表現と、悪い意味で首尾一貫しており、完璧と言っていいほどに整合性がある。

更に補足するならば、真摯、誠実というワードも使い方は間違っていないものの、この文脈では「ちゃんと謝ってます」「頭を下げてます」という余計なアピールにしかなっていないため書かなくていい。

事実関係として謝罪をしているのであればそれだけを書いて感情を込める必要はない。かえって込めなくていい感情まで文章に含まれてしまうからだ。

当事者ではないというメリットを捨てているリリース。

文章表現として見ても、ここまで文面と真逆の感情が込められたものは滅多に見ないほどに酷い。

誰もチェックしなかったのか?と思ってしまうが、おそらくチェックをしても、見せるべきではない感情がダダ漏れであることに気付かなかったのだろう。

冒頭に書いた通り謝罪リリースは第三者が書いていることが大きなメリットだ。本人は謝りたくない、悪いことをしたと分かっていても素直に謝れない、人間なのだからそんなことはいくらでもあるだろう。

しかしそれでは済まないから、今回のケースであればマネジメント側である事務所が冷静な謝罪リリースを出す必要がある。

もちろん事務所のマネージャーも経営者も人間なので腹を立てることもあるだろう。

今回のケースであればマネージャーや経営陣はトラブルを起こした今市氏に腹を立てているかもしれないし、仕事場以外でのトラブルなんぞ知るか!とブチキレているかもしれない。もしかしたらタクシー運転手に対しても腹を立てているのかもしれない。

しかしそういった話は内輪で解消して、外部に向けては冷静に謝罪をするのがマネジメントの仕事、芸能に限らず他者の言動を監理して責任を取ることがマネジメントの仕事、ということになる。

こういった見せる必要の無い感情に溢れたリリースは珍しくもないが、それをやらないテクニックは決して難しくはない。

すでに書いた通り5W1Hで事実関係を正確かつ丁寧に、そして分かりやすく書くだけ、そしてそれ以外の余計な事、無くても意図が伝わるワード、無くても意図が伝わる話を削るだけだ。

ある日突然、謝罪リリースを出す事になった企業は参考にしていただければと思う。

中嶋 よしふみ  FP シェアーズカフェ・オンライン編集長
保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・ITmediaビジネスオンライン・日経DUAL等多数のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演、取材協力多数。士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインの編集長、ビジネスライティング勉強会の講師を務める。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」
公式サイト https://sharescafe.com
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2025年9月30日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。