黒坂岳央です。
今から20年ほど前、「金持ち父さん貧乏父さん」という書籍が社会現象になった。
「お金に働かせろ」「資産と負債を区別せよ」という考えは、多くの人の目を開かせた。怪しいセミナーに使われることもあり、悪印象を持つ人もいるが怪しい人が客寄せで使っただけで、この書籍自体は真っ当な事が書かれている。あれから20年以上経った今、残念ながら社会はほとんど進歩していない。
5分間のスキルアップの勉強や読書はしないのに、5時間ベッドのスマホいじりをやめられない。
割高なお菓子や外食を食べるのに、健康的な野菜や魚は買わない。
自己投資や人生体験に1円も使わないのに、10万円の最新スマホを借金して買う。
上を目指す人は自己投資や資産運用にお金を使う一方、自分の健康を損ない、脳機能を低下させるものにせっせとお金を使う人もいる。
「人生は自分で決めたい」と思っていてもまんまとITテックに思考や行動をハックされ、貴重な資産を吸い取られ続けている構図が見えてくる。
本稿は他罰的な指摘を目的ではなく、一人でも自身の行動を振り返る起点の提供を願って書かれた。
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即時報酬の罠に支配される現代人
そもそも、大多数の人が負債や浪費にお金と時間を費やしてしまうのはなぜか?
結論から言うと、人は「今すぐ快楽を得られるもの」にお金を使いたがるからだ。これは企業側の販売戦略で本能を刺激され、商品サービスに依存症になるように作られている。
特に昨今は高度な情報化でその傾向が強まり、「確実性の高いこと」以外は回避されやすい。「将来の自分を良くする支出」は、脳が“不確実性の痛み”として認識するようになっているのだ。
ドーパミンが出るのは、SNSの通知やコンビニスイーツのような即時報酬であり、英語学習や投資のような長期的報酬ではない。だからこそ、多くの人は「浪費で現状から目を逸らし、投資や未来を恐れる」という価値観や思考を持っている。
このメカニズムが分からないまま、「自己投資が大事」と言われても、人は行動できない。「もしやってみてうまくいかなかったらどうするんですか?」と彼らから反論が返ってくるのは目に見えている。
実際、脳科学的には“努力”よりも“安心”を優先するのが人間の本能である。つまり、行動の欠如は意志の弱さではなく、報酬設計の誤りなのだ。
家計簿は人生の履歴書
自分の人生の履歴書を覗くには、クレカ明細や家計簿を見ればよい。そこにある支出の履歴は、その人の思考と価値観そのものである。
ドーパミンを出すことに出費割合が多い人は即時報酬系を企業に操られていると思った方がいい。実質、自分の人生をグローバル企業に動かされ、せっせと貢ぎ続けている状態である。一方で自己投資や新たなる人生経験に投資する人は常に未来を見ていると言えよう。こちらは本当の意味で人生を自分で舵取りをして生きている。
「自己投資」という言葉は昨今、否定的なトーンで受け取る人が増えてきた。「コスパ悪くないですか?」と。それよりもドーパミンを出すお菓子やスマホへの課金は「約束された快感」という買い物になり得る。こちらこそ出費以上の価値があるとみなすのだろう。
だが、地味な投資は誰にも見えないし、SNSなどでもドーパミンの魔力ほどは積極的に発信されない。だから自分で思い切って飛び込んで見ない限り、永遠に実態が見えない。「自己投資の真の価値」は実際に経験した人にしかわからない世界なのだ。
クレジットカード明細や家計簿を見て「ドーパミン代と自己投資や経験への出費割合」がどうなっているかをチェックする習慣を持とう。そうすることで踏みとどまれるムダな浪費もあるはずだ。
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貧乏人は浪費と負債にお金を使い、成功者は資産と自己投資にお金を使う。これは20年経過してもまったく同じ構図である。
「金持ち父さん」から20年。多くの人があの本を読んだのに、いまだに“父さん”の教えが社会に根づかないのは、行動が伴わないからである。
「知っている」というだけでは人生は変わらない。いや、下手にSNSのエコチェーンバーがあるから慢心から茹でガエルになってしまうだけだ。いつの時代も上へ向かうためにやることはたった1つ、成功する人の真似をすることなのだ。
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