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これまでにも述べてきた通り、日本では離婚後の子どもの親権は両親のどちらかしかない「単独親権制」による弊害で、一方的に子どもを連れ去り、もう一方の親に会わせない事案が多発している。
ひどい場合は、実際にはDVの事実がないにもかかわらず、「DVの被害に遭った」と噓の申告をしてDV支援措置制度を悪用し、子どもの居場所を秘匿し、何年も会わせず、婚費や養育費、損害賠償といった金銭だけをひたすら要求するケースもある。また、これを弁護士が「このようなやり方をしたほうが良い」と「教唆」する場合もあり、私はこのようなケースを「実子誘拐」と呼んでいる。
ただ、来年に共同親権への法改正を控え、裁判所や行政の運用も、このような「実子誘拐」を問題ととらえ、離婚後も父母による共同養育を促す方向へと舵を切る兆しが見えてきた。
今回は、子の連れ去りを教唆した弁護士が書類送検となった事例をご紹介したい。
山梨県で自営業を営むAさんは、2018年に結婚した妻と2人の子どもをもうけた。子どもはかわいく、順調な暮らしに見えたが、昨年5月、Aさんが外出している隙に、妻子がいなくなった。「別れる決心をしました」などと書かれた手紙が置かれ、本棚や衣装ケース、子ども用の椅子やベビーベッド、おもちゃ箱などに加え、子ども2人分の通帳も持ち出されていた。
Aさんの場合は、連れ去られた先の居場所はわかっており、はじめのうちは子どもとのビデオ通話などもできていたという。今は月に2、3回会えるが、面会交流の時間には義母に遮られて予定通りの時間で交流できないなど、子どもと十分な交流ができているとはとても言い難い状況だ。
Aさんは、この状況はおかしいとSNSなどでも情報を集め、今年4月、告訴の専門家の力を借り、未成年者拐取罪の教唆犯として妻側の弁護士である山梨県弁護士会所属の齋藤祐次郎弁護士を刑事告訴した。告訴は受理され、7月には書類送検となった。
Aさんの告訴の「決め手」となったのは、妻が弁護士について「家を出た方がいいって、(中略)そういう風にアドバイスをもらったから、そういう風に実行に移しただけ」と発言した録音資料があったことだ。
山梨県弁護士会は、Aさんの問い合わせに対し、告訴の結果が出ていない段階から、齋藤弁護士について「処分しない」と回答している。刑事側の判断を待たずに行われた弁護士会の拙速な回答は、「身内に甘い」と批判されても仕方ないだろう。Aさんのケースに限らず、実子誘拐を教唆する弁護士について、その違法性が認められる社会になることを望みたい。
さて、子どもの連れ去り問題においてはこれまで、はじめに連れ去った側は罪に問われず、連れ戻しをしたら逮捕されるというおかしな慣習がまかり通っていた。また、一度連れ去って住居の拠点を築き子どもとの生活を始めてしまえば、たとえ問題のある同居親であっても「継続性の原則」として、親権・監護権が認められるケースが大半だった。
その裁判所の慣習も、共同親権への法改正に向けて変わってきているようだ。親子の権利について詳しい岡山県の作花知志弁護士のブログによると、両親と子が同居している状態から最初に子を連れ去った親が逮捕される事件があったという。
また、子を連れ去られた側の親が、判決で親権者に指定されたケースや子を連れ去り面会を拒否している親でなく、自由面会を保障する親に監護者指定がされる例が登場している。
着実に、現場の慣習は変わってきていると言えるだろう。ただ、これまでに何十万件と言われている子の連れ去りによって、今もまったく会えない、会えたとしてもごく限られた時間や環境下での面会交流のみという親子が失った時間は誰が補償するのだろうか。これからもそうした状態が続くであろう親子が安心して交流できる場を、誰が責任をもって作るのだろうか。
まだまだ解決すべき課題は山積みだ。今も新たな被害が増え続けている。司法、立法、行政、いずれの立場からも、当事者意識を持った早急な解決策が提示されることを求めたい。