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今回紹介する本の著者は福祉の仕事を30年以上やってきた。これだけは確信しているそうだ。「穏やかな老後」を夢見る人ほど、介護が早く来る。
なぜか? 動かなくなるから。考えなくなるから。人に会わなくなるから。
それだけだ。
「介護されない未来を自分の手で作る」(上野利惠子 著)青志社
散歩する人、しない人——決定的な差
午前中、近所を30分ほど散歩する。顔なじみのご近所さんと挨拶を交わし、季節の花を眺めながら。
ここで話を変える(いや、変えないんだけど)。
つい先週、別の80代の男性と面談した。「先生、最近足が痛くて外に出られないんです」という相談。でも、カルテを見返すと、半年前から「最近あまり外に出てない」と書いてある。つまり、足が痛くなったのは「結果」で、「原因」は外に出なくなったことだ。
でも、それを指摘すると怒られる。「足が痛いから出られないって言ってるでしょう!」——わかってる、わかってるんだけど、でも違うんだよな、と心の中で思う。
週に一度のカラオケ教室。これがまた、いい。
「笑ってたら、気持ちが明るくなるのよ」「歌うと、何だか若返った気がするわ」——私が見てるのは別のところだ。カラオケ教室に「行く」ってこと。つまり、着替えて、化粧して、バスに乗って、人に会う。このプロセス全部が刺激なんだ。
月に一度の食事会。昔の職場の仲間と。←ここ、重要。
若い頃より今が楽しい
最初に聞いたとき、「そりゃ社交辞令でしょ」と思った。でも、何度か会ってるうちに、本気だと気づいた。いや、本気というか——若い頃は子育てや仕事で必死だったから、今の方が自分の時間があって楽しい、という意味らしい。
私たちの体と心は、”使わなければ衰える”——これ、誰でも知ってる。知ってるけど、信じてない。だって実感がないから。
筋肉は使わなければ萎縮する。脳は刺激がなければ機能が低下する。社会性も同じで、人との関わりがなくなれば、コミュニケーション能力も意欲も失われる——全部、教科書に書いてあることだ。
でも、教科書には書いてないことがある。
それは「いつから」衰えるのか、だ。
答えは「今日から」。今日、動かなければ、今日から衰える。そんな単純な話。
話をまとめよう(まとまるか?)。
「小さな刺激」——これに尽きる。
朝の散歩でもいい。友人への電話でもいい。YouTubeでもいいし、塗り絵でもいい。カラオケでもいいし、読書でもいい。料理でもいいし、ガーデニングでもいい。
要は、「今日と明日が同じじゃない」状態を作ること。
老後は「人生の第二章」
そのためには、動くしかない。考えるしかない。人と会うしかない。
のんびりすること自体は悪くない。休息は必要だ。でも、のんびり「しすぎる」のは危険だ。気づいたときには、もう戻れない。
あなたの老後が、ワクワクに満ちたものになりますように——なんて綺麗にまとめたいところだけど、そんな簡単な話じゃない。
ただ一つ言えるのは、「今日から」始められるってこと。
窓を開けて深呼吸する。近所を10分歩く。友人に電話する。新しいことを一つ調べる。たったそれだけで、10年後が変わる。
信じるか信じないかは、あなた次第。
尾藤 克之(コラムニスト、著述家)
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22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)