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この本には、「ひとりビジネス」の専門家による、ビジネスを成功に導くための具体的なケースが盛り込まれている。本日はその一部を紹介する。
『稼げるようになる「ひとりビジネス」成功の教科書』(高橋貴子 著)日本実業出版社
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あれは、忘れもしないコロナ禍ことだ。売上が30%近く落ち込んだ時、私は本当に酷い判断をした。
資金繰りが苦しくなると、人間の脳は「今すぐ何かしなきゃ」という叫びで埋め尽くされる。もう、それは切実だ。給与を払う日付が目に入る。銀行の残高を見ては心臓が痛む。その時、冷静な判断なんて、どこかへ消える。
私は何をしたか。派手なキャンペーンをぶち上げた。予算も限られているのに、一度に3つの新商品をぶっ込んだ。SNSに毎日投稿した。正直に言えば、闇雲だった。戦略? 何それ、という状態。焦りが視野を奪うって、こういうことなんだ。
ここが大事なところなんだが——結果は散々だった。予想通り。いや、予想より悪かった。新商品は売れず、毎日のSNS投稿も反応薄く、むしろ「この企業、どうしたんだ」という空気になった。資金繰りはさらに悪化。負のスパイラル。ジェットコースター。
コンサルタントに相談した時、彼はこう言った。「今、あなたが見えている世界は、焦りでフィルタリングされてます。本当に必要なことが見えていない」と。
ムッとしたね。「で、どうするんですか?」と聞いたら、返ってきた言葉は意外とシンプルだった。「まず、焦りを手放してください。心をリセットする期間を作ってください」と。
俺は思った。そんなことで直るのか。給与日はもう目の前だぞ、と。でも、やるしかなかった。
で、実際にやってみた。不安を紙に書き出した。支払い期限、現金不足、商品企画の停滞……すべてを。書き出すだけで、不思議と心が落ち着くんだ。
これ、なんでだろう。頭の中でぐるぐる回ってたモノが、一度外に出ると、「あ、これって後回しでもいいかも」とか「これはとりあえず放置」とか、優先順位がついたんだ。
次に、最悪のシナリオを考えた。本当に資金が尽きたらどうするか。正直に家族に相談しようと決めた。ひとまずアルバイト探そうか、くらいまで考えた。
すると、逆説的だが、心が楽になった。「これなら生き残れるな」と思えたわけだ。最悪の場合の逃げ道が見えると、焦燥感は不思議と薄れる。
それから2週間。心が落ち着くと、本当に見える世界が変わった。実は、うちの商品の中で、ひとつだけ食いつきのいいカテゴリーがあったことに気づいた。
焦っている時は、すべての商品を等しく売ろうとしてた。バカだ。そのひとつに絞って、戦略を立て直した。SNS投稿も減らして、質を上げた。
3ヶ月後、その商品の月商が軌道の戻った。すべてが解決したわけじゃないが、少なくとも呼吸ができるようになった。
焦りってのはね、短期的な成果を求める心理に直結する。だからこそ、「今やったら売れそう」「派手にやったら目立つ」という浅い判断に陥るんだ。本当に必要なことは、地味で、時間がかかる。でも、それしかない。
焦りが視野を狭くする——これ、ビジネス本でよく書いてある。でも、言葉で分かるのと、実感するのは別物だ。本当に自分の肌で感じるのは、絶望的な時だ。その時、心をリセットするかしないかで、その後の人生が変わる。大げさじゃなく。
今、もし読んでいるあなたが、焦りでいっぱいなら、まず紙を用意してほしい。書き出すだけでいい。そこからだ。
※ ここでは、本編のエピソードをコラムの形で編集し直しています。
尾藤 克之(コラムニスト、著述家)
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22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)