家電量販で業界第3位のノジマの野島広司社長がM&A資金で5000億円ぐらい出せると豪語しています。この会社も最近M&Aで急成長している企業の一つで、かつてはインターネットのニフティ、直近では元ソニーのVAIOなども買収しています。
ノジマHPより
そのノジマ、家電大戦争の池袋でしっかりビジネスをしています。それはメディアが大戦争は西武百貨店内にできるヨドバシに対して池袋東口に集中するヤマダ、ビックカメラへの挑戦状だと受け止めているからです。ところがノジマが数年前、ひっそりとオープンしたのは駅の西側にある東武百貨店の中。店舗のサイズはそこまで大きいわけではないのですが、着実に客層のハートを掴んでいるように見えます。私がいつも繰り返してみている限りの直感ですが、お年寄りが行きやすい店の感じがします。東武百貨店がお年寄りに人気の百貨店なので客層とノジマの丁寧な対応がマッチしたのでしょう。
ヤマダ、ビック、ヨドバシは皆商売のスタンスが似ているのです。売れればよい、です。ノジマはしっかりとご納得いただける売り方をする、そんなイメージを持っています。
日経によると野島社長は宇宙人と称されているらしくアイディアが豊富で個性的と書かれています。なるほど、私に似ているかも、と思ったりしています。池袋家電大戦争が報じられてもノジマの名前が出てくることはあまりないのです。つまり戦争に加わらず独立独歩とも言えます。これは凄いことです。
さて、会社はひたすら大きくすべきか、適度なサイズで質を高めるべきか、悩ましいところであります。私は年齢的なこともあり、拡大志向から質の重視に転換しています。それは創業者のバトンタッチが異様に難しいことがわかっているからです。(とはいえ、今年カナダでまた一つ法人を作ったし、日本での新しい案件にエネルギーを投じていますが。)
あるカリスマ創業者が極めて巨大な世界的企業に発展させたとします。問題は引く時です。「この人なら任せられる」という方は概ね自分のDNAと似ており、業務を滞りなく引き継げるという意識で判断されると思います。が、それでは後継者は創業者の半分ぐらいしか満たせないと思います。
創業者のような長期的に一貫したポリシーを持つ方だと様々な交渉時において難攻不落となりやすいのですが、司令塔である社長が交代した時は新社長が個性を出したい部分もあるし、ライバルや取引先は我慢してきたこともあるので一気にそれが噴出しやすくなり、攻略しやすくなるのです。
例えば豊臣秀吉は全国統一のち、朝鮮出兵の頃に病となるもひたすら隠しました。理由は戦意が落ちることもありましたが、クーデターを恐れたこともあるでしょう。幸いにして亡くなるまではそれは起きませんでしたが、亡くなった後、つまり豊臣家の顔が変わった後、徳川家康が「わしはそのために長生きして待っていたのだ」と言わんばかりの攻め方をし、大坂の陣で豊臣家をギブアップさせます。
世の中には豊臣と徳川の関係を再現したようなケースはいくらでもあるのです。例えばニデックは牧野フライスのTOBで失敗をし、最近では海外子会社の不正経理問題も噴出しましたが、創業者の永守重信氏がサイドラインに立つようになり失敗が急速に目立ってきたのはテンションが張っていた永守時代の終焉でひずみができているからだと見ています。
創業者というのは極めて高いカリスマ性があり、全従業員のみならず、顧客や取引先への目に見えないパワーと接点を築いているのです。(創業者企業にお勤めの全ての方は創業者に採用されたという一定の意識があるので一般企業に比べて派閥も出来にくく、ベクトルが一点に向きやすいともいえるでしょう。)
創業者のビジネス展開には3パターンあると思います。1つが柳井正氏のように本業のビジネスを極め、規模の拡大にまい進するタイプ、もう1つはノジマ、ニデックのような買収を通じた成長型、3つ目が孫正義氏やウォレン バフェット氏のような実業を伴わない投資による収益拡大であります。
私の場合は買収は少ないですが、本業や派生ビジネスを増やしてきた点では柳井氏のスタイルに近いと思います。ですが、このところ、投資収益の追求に一定程度シフトしているのは事実です。もちろん、私のような弱小資本家では第三者企業の過半数の株式を取得というわけにはいかないので、上場株式を通じた投資収益の追及になります。
理由の1つに世の中があまりにも複雑になり、事業を立ち上げるのが容易ではなくなってきたことがあります。つまりひと昔前の良き時代のような「数千万円突っ込んで事業を運営しています」というお手軽起業の時代ではないのです。
もう1つは借金。全額手持ち資金で勝負するなら良いですが、外部資金を導入した場合、私が永遠に司令塔として君臨するわけではないので債務を「始末できるか」という観点からリスクを抑えたいという気持ちがあるのです。
本題に戻りまとめると、いわゆる企業買収は今後、破竹の勢いで伸びていくと思います。以前から申し上げているように日本には上場企業数が多すぎるのと小粒で一芸に秀でている企業が成長できずもがいているところも多く見受けられます。これがアメリカならそのような企業は瞬く間に買収されるか、生き残れなくなるかのどちらかです。日本はまるで農家が水を引く時に協力しあうように共存共栄という発想が強く残っていますが、いずれこの発想も時代と共に崩れると見ています。
自分で事業を立ち上げるのは日本でも難しくなったと思います。ノウハウもさることながら時代の先を読み込むのが容易ではなく、どうしても「流行っているモノを見つけ、物まねする」スタイルが多くなってしまいます。残念ではありますが、時代の趨勢なのかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年10月23日の記事より転載させていただきました。