医療費の窓口負担について、厚労省は専門家部会で見直しを始めた。これは自民党と維新の連立合意書で、医療費窓口負担の「年齢によらない真に公平な応能負担の実現」をうたったことを受けたものだ。この「応能負担」というのは、厚労省しか使わない役所用語である。
Q. 応能負担とは何ですか?
医療費の「応能負担」とは、所得(=能力)に応じて自己負担額を決める仕組みのことです。つまり所得が高い人は多く負担し、所得が低い人は少なく負担するという考え方です。これに対して、所得に関係なく一律に負担する仕組みを「応益負担」といいます。
Q. 後期高齢者医療制度の応能負担とは?
後期高齢者医療制度(対象75歳以上)は、全国の都道府県単位で運営されており、患者が払う治療費の窓口負担に応能負担が導入されています。高齢者の自己負担は、70~74歳は原則2割、75歳以上は原則1割ですが、一定の所得がある人は2割、現役並み所得のある人は3割負担です。
Q.「現役並み所得」とは何ですか?
現役並みの判定基準は、課税所得が145万円以上で年収383万円以上の人です。後期高齢者の場合、被保険者1815万人のうち、3割負担が130万人ですから約7%です(2022年)。
Q. 高額療養費制度にも応能負担がありますね?
はい。高額療養費制度では、次の表のように所得が高い人ほど上限額が高く、所得が低い人ほど上限額が低く設定されています。
所得区分と自己負担上限(70歳以上の場合)2024年度基準・1か月あたり
| 所得区分 | 上限額(月) |
| 課税所得690万円以上 | 約25万2600円 |
| 課税所得380〜690万円 | 約16万7400円 |
| 課税所得145〜380万円 | 約8万1000円 |
| 課税所得145万円未満 | 約1万8,000円 |
| 住民税非課税世帯 | 約8000円 |
Q. 応能負担の基準は課税所得だから、資産が何十億円あっても所得税を払ってない人は、月8000円で無限に多くの医療を受けられますね?
鋭い指摘です。まさにその通りで、高額療養費制度の「応能負担」は課税所得を基準にしており、資産(ストック)や貯蓄額(フロー外)は一切考慮されません。そのため
- いくら資産を持っていても、課税所得がゼロなら「非課税世帯」扱い
- 法人を赤字にして役員報酬を抑えている人も、所得が低ければ低所得扱い
- 公的年金控除・配偶者控除・医療費控除などが多い人も課税所得が小さくなる
結果的には実際の生活水準や資産額と無関係に、医療費の上限は8,000円になるケースがある。これは生活保護のように審査もないので、大きな抜け穴になっている。
応能負担というのは厚労省が医療費の不公平をごまかすために使うまやかしで、実際には税金を払っていない人が得するしくみである。今度の厚労省の窓口負担見直しも「現役並み」の基準をゆるめて10%ぐらいにするものと思われるが、これでは税金を払っていない大富豪の負担は増えない。
保険は「応益負担」が原則である。火災保険の保険金を貧乏人がたくさん受け取ることはない。医療費の窓口負担も一律3割負担とし、高額療養費制度の応能負担もやめるべきだ。負担額が払えない人には税額控除するなど、所得分配の問題は所得税で解決するのが筋である。