黒坂岳央です。
人生の半ばを過ぎたビジネスパーソン、特に中年層に差し掛かると、新たなる強い欲求が芽生える。それが「アドバイス欲」だ。
自分の経験や知識を誰かに教え、感謝され、その成長をリードしたいという本能的な衝動である。この欲求は、時に三大欲求にも匹敵するほどの凄まじさをもって、人々を突き動かす。
これ自体は悪い欲ではない。一般的に上司が部下を指導したり、子育てで愛情をかけ健全な育児をする上で上手に消化される事が多い。だが、この欲求が現代社会では「アドバイス」ではなく「クソバイス」として暴走することもある。持論を展開したい。
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中年になるとアドバイスをしたくなる
人に教え、リードしたいという欲求は、単なる中年のエゴではない。その根源には、人類が進化の過程で培ってきた「継承本能」で説明が可能だ。
育児において、親が子を教え、導く過程でこの欲求は健全に満たされる。また、会社の上司が新人の部下を指導する場面でも消化される。人類は、長年かけて得た知恵や経験を次世代に伝えることで発展してきたのであり、「アドバイス欲」は、世代間のスムーズなエスカレーションに使われてきた。
だが、現代社会ではこの健全な欲求が消化されにくい構造となっている。核家族化が進み、企業における終身雇用の前提が崩れ、世代間の縦のつながりが希薄になった結果、経験をぶつけるべき「消化の場」を失ってしまったのだ。
消化先を失ったアドバイス欲は、時に暴走し「クソバイス」として社会に悪影響を及ぼす。聞いてもいないのにジムで器具の使い方を指導する者、SNSで経験者ではないにもかかわらずプロを相手に上から目線で意見する者が後を絶たない。これは中年以降に芽生えるアドバイス欲が暴走した結果なのだ。
アドバイス欲を健全に消化せよ
この強大な「アドバイス欲」を抑え込む必要はない。むしろ、人類の発展に役立つ欲求として、建設的に生かすべきである。鍵となるのは、「誰に、何を、どう伝えるか」という三点の明確化である。
筆者自身、特にここ数年でアドバイス欲が強まったと感じる。子供が生まれた直後はそうでもなかったのだが、少しずつ大きくなるにつれてどんどん愛情深くなり、仕事と同じくらい、時にそれ以上に育児の楽しさにハマりにハマっている。特に指導を求められる場面は楽しい。
また、学校では英語を教える出張授業を依頼されることもあり、入念に準備をして楽しくやらせてもらっている。子供たちからたくさんの手が上がって質問を受けるのは大変楽しい。
さらに記事や動画発信だ。自分が学んだり経験したこと、技術を得たノウハウなどを発信する。これは非常に楽しい活動だ。仕事というより、楽しさに突き動かされてやっている。これも一つのアドバイス欲なのだろう。
上手なアドバイス欲の消化方法
アドバイス欲の消化方法は、概ね筆者が実践しているようなものが良いだろう。すなわち、育児か仕事で消化するのだ。
その際、迷惑にならない上手な解消法を考えたい。鍵は、「誰に、何を、どう伝えるか」という三点の明確化である。湧き上がる欲求をただ撒き散らすだけでは聞いている側も迷惑になる。そのため、単なる自己満足に終わらせず、社会的な価値ある知恵へと昇華させるための原則は、ビジネスにおける顧客への価値提供と全く同じである。
クソバイスの最大の原因は、需要のない相手に押し付けることにある。なのでアドバイス欲を健全に消化するためには、求められる相手に求められることをするのだ。年下を見ると片っ端から武勇伝を語るのではなく、聞かれたら答える、仕事なら仕事に関係あることのみに留めるのだ。
また、記事や動画などを発信するなら、別に超一流プロレベルでなくても良い。等身大でたとえば自分の仕事の専門分野について発信をすれば、それを求める誰かの役に立つ。
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中年期に芽生える「アドバイス欲」は、自身の存在意義を再確認し、社会に貢献したいという健全なエネルギーである。これを「クソバイス」という形で暴走させ、老害化のリスクを負うか、それとも「価値ある知恵」として次世代に継承し、自身の充実につなげるかは、消化の場と方法の選択にかかっている。
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