黒坂岳央です。
令和の日本は2つの国で出来ている。すなわち、東京圏とそれ以外だ。
それぞれの地域に住んでいる者同士、厳密には同じ日本語、日本文化で育った日本人のはずなのだが、外国人に近いほどその感覚は異なる。「どちらが上でどちらが下」といった浅い二元論を展開するつもりはないが、この違いを理解して人生戦略を立てることは、明確に優位性の差になって現れる。
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まるで外国ほどの違いがある
東京23区内と地方で決定的に異なる点がいくつもある。
分かりやすいのが物価だ。東京では1億円ではマンション購入が難しく、昨今の円安とインフレによって年収1000万円くらいでは「高収入」とは言えなくなった。その一方、たとえば筆者が住んでいる地方では2000万円で広い新築の戸建てが手に入り、年収500万円が「高収入」と認定される場所も存在する。
また、キャリアや学歴の意味も全く違う。筆者が住んでいるエリアにおける「勝ち組キャリア」をざっくりいうと、地元の国立大卒、県庁勤務といったイメージである。一方、東京には無数に著名な大学があり、「勝ち組感」も人それぞれ感覚が大きく違う。国を動かす官僚、誰もが知る大企業、勢いのあるベンチャー、医師、IPOを期待できる会社など、三者三様という感じだ。
そして子供の教育にも大きな違いがある。関東で育児をする保護者と会話すると度々驚かされるのが教育熱である。親戚に東京で育児をしている人がいるのだが、子供は週6日ペースで、習い事や塾に通わせている。実質的な休日は週1日、夜まで毎日勉強で子供の頃から勉強漬けという印象だ。
そしてこうした家庭は珍しくない。自分のいる場所だと、まずそもそも塾がないので、習い事となるとスイミング、野球、サッカー、ピアノくらいなもので、筆者の家庭は自分が子供の勉強を見ている。
東京と地方の感覚の違いをあらかじめ理解しなければ、両者は交わることが決してないと言えるほどである。そして令和に入ってこの差はますます拡大したように感じる。
「東京の給料で地方に住む」という戦略
「地方では仕事がない、給料が安い」という問題は今でも存在する問題だ。しかし、リモートワークと資産運用により、スキルさえあれば「地方の仕事問題」は解消することが可能だ。
筆者は会社に通勤せず、東京や海外の会社から仕事を頂いている。都内の出版社やテレビ局、新聞社、さらには海外のアプリ会社から直接案件を受注している。筆者以外でもエンジニア、メディア、デザイナーといった職種に限らず、インターネット環境さえあれば、場所を選ばずに東京や世界の高水準の給与を稼ぐことが可能となった。実際、そうしている人もいる。
これは、かつて「日本で稼ぎ、物価の安い他国で暮らす」ことが最適解とされた国際間格差の利用を、日本国内で再現しているに他ならない。地方は「東京の給与を稼ぐ新しい富裕層に対して、圧倒的な生活の豊かさと資金効率を提供する居住地」へと役割を変えつつある。
東京では「余裕ある生活は年収3000万、資産3億円以上から」というオーダー感だが、地方ではその3分の1あれば豊かで余裕のある生活ができる。そして地方に住みながら東京の仕事をして資産運用でいいとこ取りが出来るというわけだ。
依然として東京に住む合理性
しかし、すべての経済活動や個人にとって、「地方移住」が最適解というわけではない。東京圏には、その立地や構造がもたらす、地方では代替不可能な競争優位性が存在する。
1つ目は東京ならではの仕事だ。東京にはグローバルビジネスを展開する巨大企業の本社機能が集中している。会社員という立場を通じて、起業せずとも、そのような大企業のダイナミックな意思決定や世界市場と直接結びついたプロジェクトに携わることが可能となる。
これは、個人事業主や地方の中小企業では得られないキャリア上の大きな合理性である。筆者は会社員の頃、高学歴、ハイキャリアの多国籍人材と英語で仕事をしていた。非常に忙しく、大変なことも多かったが、こうしたダイナミックな国際的なキャリアや仕事の経験は東京に身を置かなければ難しいだろう。
2つ目はスタートアップ企業や高度な技術開発を行う組織にとって、東京圏の一流大学出身者やハイスキルワーカーとの偶発的な出会いこそが最大の武器となる。
企業が東京にオフィスを構えるのは、単に「通勤のため」ではなく、「ハイスキル人材の採用と、質の高いネットワーキング」を確保するためであり、ここに身を置くこと自体が個人の市場価値を押し上げることにつながる。
3つ目は情報のシャワーだ。外食やイベント、エンタメが「たまの休日」の消費ではなく、仕事に直結するクリエイターやメディア関係者にとって、東京は情報と刺激のシャワーを浴びるための必然的な居住地となる。
最新のトレンド、技術、文化が常に更新される現場にいることは、地方でのリモートワークでは得られない、仕事の本質に関わる合理性である。
◇
日本全体としては、東京が「稼ぐ場所」として非代替的な競争優位性を維持し、地方が「静かで豊かに暮らす場所」として生活の質を向上させる棲み分けとなっているように思える。若い頃は東京でバリバリ働き、キャリアと資産形成後は地方でのんびり暮らす、というのは令和式の人生戦略の一つだろう。
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