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この記事では、GDP分配面のうち、家計の事業所得の総額となる営業余剰・混合所得(総)の国際比較をしてみます。
1. 日本の家計の営業余剰・混合所得(総)
稼いだ付加価値のうち、それぞれの主体への分配がどれくらいだったのかを示すのが、国民経済計算(SNA)のうち所得の発生勘定です。
図1 所得の発生勘定 日本
国民経済計算より
GDP分配面のうち、労働者への分配が雇用者報酬となり、政府への分配が生産・輸入品に課される税です。
その残りが、事業者の手元に残る営業余剰・混合所得(総)となります。
事業者とは主に企業(非金融法人企業、金融機関)を示しますが、家計も事業者としての側面があり、雇用者報酬以外にも営業余剰・混合所得を分配されます。
図2 営業余剰・混合所得 家計 日本
国民経済計算より
家計の営業余剰・混合所得は、営業余剰と混合所得の2つに分かれ、その意味は大きく異なります。
家計の営業余剰は、持ち家を自分自身に貸すという不動産業を営む個人事業主として捉え、その所得を表すものです。
家計の混合所得は、個人事業主としての所得です。個人としての収入と事業としての利益が混在していて分離が困難なため、混合所得としてまとめているようです。
本来労働者としての収入も含まれていますので、労働者のうち個人事業主の割合が多いと、混合所得のGDPに占める割合も高くなります。
主要先進国でもイタリアは個人事業主が多いため、GDPに占める雇用者報酬の割合は低く、その代わりに混合所得の割合が高いという特徴があります。
営業余剰・混合所得は減価償却費に相当する固定資本減耗を含む総額の(総)と、固定資本減耗を差し引いた純額の(純)に分けられます。
日本の家計の営業余剰・混合所得(総)は1990年頃をピークにして減少傾向が続いています。
主に混合所得の減少が大きいのですが、これは個人事業主が減っている事と関係しているようです。
図3 労働者数・雇用者数・個人事業主数 日本
OECD Data Explorerより
2. 1人あたりの推移
今回は、日本の家計の営業余剰・混合所得(総)に着目し、その水準が高いのかどうか国際比較をしてみたいと思います。
国際比較の方法は、人口1人あたりのドル換算値(為替レート換算)と、対GDP比について計算してみました。
まずは1人あたりドル換算値の推移から見てみましょう。
図4 営業余剰・混合所得(総) 1人あたり 家計
OECD Data Explorerより
図4が家計の営業余剰・混合所得(総)について人口1人あたりのドル換算値(為替レート換算)です。
日本は1990年代の比較的高い水準から停滞傾向が続き、近年では低下傾向となっています。
2010年代中盤からはOECDの平均値を下回り、先進国の中でも相対的に水準が低下している事が窺えます。
個人事業主の多いイタリアが相対的に高い水準なのが特徴的です。
図5 個人事業主割合
OECD Data Explorerより
各国の労働者全体に占める個人事業主の割合を計算してみると、主要先進国ではイタリアがかなり高い水準である事が確認できます。
日本は高い水準から低下傾向が続き、近年ではイギリスやOECD平均値を下回りフランスと同程度です。
3. 1人あたりの国際比較
続いて、人口1人あたりの水準について、もう少し幅広く国際比較してみましょう。
図6 営業余剰・混合所得(総) 1人あたり 家計 2023年
OECD Data Explorerより
2023年の国際比較をしてみると、日本は3,095ドルでOECD29か国中24位と非常に低い水準になります。
個人事業主は少ない方になるはずですが、同程度のフランスやドイツとは2倍程度の差が開いています。
アメリカやイタリアが高い水準なのも特徴的ですね。
日本は事業主としての家計への分配が少ない特徴があるようです。
詳細は今後少しずつご紹介しますが、持ち家の価値が低い、個人事業主としての所得水準が低いなどの可能性が考えられそうですね。
4. 対GDP比の推移
続いて、対GDP比についても眺めていきましょう。
生産された付加価値の総額であるGDPに対して、事業者としての家計の取り分の割合という意味合いになります。
図7 営業余剰・混合所得(総) 対GDP比 家計
OECD Data Explorerより
対GDP比で見ると、日本は1980年頃は18%くらいでしたが、徐々に低下傾向が続き2023年では9.1%となっています。
他の主要先進国と比べると、1980年代ではアメリカやフランスを上回っていましたが、その後は抜かれて大きく差が開いています。
近年ではOECD平均値やドイツを下回り、先進国の中ではかなり低い水準である事が窺えます。
個人事業主の多いイタリアではかなり高い水準である事も確認できますね。
5. 対GDP比の国際比較
最後に、対GDP比の国際比較を見てみましょう。
図8 営業余剰・混合所得(総) 対GDP比 家計 2023年
OECD Data Explorerより
2023年の対GDP比を見ると、個人事業主の多いギリシャやイタリアなどが上位を占めますが、アメリカも非常に高い水準なのが印象的です。
アメリカの個人事業主は先進国の中でもかなり少ないはずですが、個人で不動産業や金融投資を営む人の所得が極端に高い事等が考えられそうです。
日本は9.1%でOECD29か国中21位で、やはりかなり低い水準となります。
6. 家計の営業余剰・混合所得(総)の特徴
今回は、GDP分配面のうち、事業主としての家計への分配となる家計の営業余剰・混合所得(総)についてご紹介しました。
この指標は個人事業主が多いほど多くなり、主要先進国では特にイタリアでその傾向が顕著な事が確認できました。
一方で、他の主要先進国では個人事業主の割合が低いアメリカでかなり家計の事業所得が多く、逆に個人事業主がやや多い日本では極端に少ないのが印象的です。
日本では持家の価値が低いのか、個人事業主の所得水準がかなり低い事が窺えます。
以降の記事では、家計の固定資本減耗や、営業余剰と混合所得を分けて国際比較していきたいと思いますので、このあたりの詳細も明らかになっていくかもしれません。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年10月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。