今年は2か月余りを残すのみとなった。11月に入ると、人々はいよいよ冬を迎える準備をする。2022年2月末のロシア軍の侵攻以来、ウクライナは4回目の冬を迎える。
エネルギー分野の代表者に国家栄誉賞を授与するゼレンスキー大統領、2025年10月28日、ウクライナ大統領府公式サイトから
冬の訪れが押し迫ってくると、ロシア軍は決まってウクライナのエネルギー供給拠点を集中的に攻撃する。ウクライナ外務省は1日、「ロシアが原子力発電所にとって極めて重要な変電所を意図的に攻撃した」と非難した。ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は10月30日、「原子力の安全に不可欠な変電所が破壊された」と報告している。IAEAによると、南ウクライナ原子力発電所とフメリニツ原子力発電所付近での軍事活動で事故が発生し、リウネ原子力発電所は4基の原子炉のうち2基の出力を下げざるを得なかったという。ウクライナはまた、ポルタヴァのガス施設へのロシアの攻撃で火災が生じたと報告した。
カナダで開催された先進7カ国会合(G7)のエネルギー担当相会合は1日、ウクライナのエネルギーシステムへのロシアの攻撃を非難し、「ウクライナのエネルギー・インフラに対する最近のロシアの攻撃は、住民と人命に危険をもたらす」という共同声明を発表した。G7はまた、ウクライナのエネルギー需要への支援を約束した。
ところで、ウクライナ軍もロシアのエネルギー供給網にドローン攻撃を強化してきた。ドイツ民間放送ニュース専門局nTVのモスクワ特派員ライナー・ムンツ氏は「ウクライナ軍はここにきてロシアのエネルギー拠点を攻撃してきた。ウクライナ軍の戦術が変わってきた」と証言している。
実際、ウクライナ軍は現在、ロシアの暖房供給を標的にしてきた。ロシア中部の都市オリョールにある発電所が被害を受け、住民に影響が出ている。ロシア当局によると、ウクライナのドローン攻撃によりオリョール発電所が被害を受けた。同州のアンドレイ・クリチコフ知事はテレグラムで「ウクライナ軍の攻撃でモスクワの南西約400キロに位置する同市の一部地域で停電と地域暖房の障害が発生した」と報告している。
また、ロシアのテレグラムチャンネル「アストラ」は、「ウクライナ軍がウラジーミル市の変電所と、ヴォルガ川沿いのヤロスラヴリ近郊の製油所を攻撃した」と報じた。両地点ともロシアの内陸部に位置している。
それに先立ち、ウクライナ軍は10月24日、ロシア西部ベルゴロド州にあるダムを攻撃し、深刻な被害を与えている。大量の水が放出され、周辺地域に流れ込んだ。複数の車両、弾薬庫、要塞が水没したという。
ちなみに、ロシア軍は2023年6月6日、ウクライナ南部にあるカホフカダムを攻撃し、大規模な洪水を引き起こし、村落全体を破壊し、生態系の大惨事を引き起こしたことがある。1977年のジュネーブ条約追加議定書は、ダムへの軍事攻撃を明確に禁止している。
なお、ウクライナのゼレンスキー大統領は先月28日、エネルギー分野の代表者47人に国家栄誉を授与する法令に署名し、10人に勲章を授与した。ゼレンスキー氏は「敵は私たちのエネルギー・インフラに対して連日攻撃を仕掛けている。皆さんに心から感謝を申し上げたい。ウクライナのエネルギー部門におけるあらゆる仕事とあらゆる職業が今、極めて重要だ。ウクライナのエネルギー労働者が、敵のテロ攻撃後のウクライナの電力供給の復旧にあたり、職務中に負傷し、命を落としている。我が国は彼らの功績を永遠に記憶する」と述べている。
エネルギー・インフラへの攻撃で最大の犠牲者は民間人だ。暖房施設が破壊され、停電下で生活をしなければならない。12月に入れば、ウクライナの平均気温はマイナス以下になる。爆風で壊れた窓にはガラスの代わりにビニールで風を防ぐ。ウクライナ国民ばかりか、ロシア国民も願わない戦争が3年半以上続いているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年11月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。