35年フルローンを選ばないなんて「頭おかしい」

黒坂岳央です。

筆者は先日、35年フルローンで住宅を購入した。

一般的に住宅ローンに対する意見は否定的な物が多い。試しにネット検索すると、「絶対後悔」「人生詰む」「35年フルローンなんて頭おかしい」など、非常に感情的かつ否定的な意見が圧倒的多数を占めており、肯定的な意見はほとんど見当たらない。

だが、どんな意見も見方を変えれば、反対意見も必ず出せるはずだ。本記事執筆の目的は、こうしたネット上の感情論をわきにおいて、自己の体験と冷徹な経済合理性に基づいた新たな視点を提供することにある。

結論から先に述べると、「35年フルローンなんて頭おかしい」という意見があるなら、条件次第では「35年フルローンを選ばないなんて頭おかしい」もあり得ると思っている。

ハッキリお断りしておくが「誰もが出来るなら35年フルローンをするのが正しい」と言っているのではない。ローンをしたらダメな属性の人もいるし、ローンをしたほうが得になる人もいる、という話に過ぎない。

ではどんな条件なら後者に該当するのか? 住宅ローンに否定的一色の意見が優勢だが本当か?を考察するオピニオン記事なのだ。

Mono/iStock

住宅ローン否定派の問題点

ネット上で35年ローンが槍玉に挙げられる背景には、大多数を占めるサラリーマン層の根深い不安がある。「もし会社が傾き、失業したらどうなるか。多額の借金だけが残り、家だけ取られてしまうのではないか」というデフォルトリスクへの恐怖は、極めて現実的で、共感できる感情である。

だが、「リスキーだからやめる」という思考に囚われると、「ではあなたは肝心の家はどうやって用意するのだ?」という本質的な問いにぶつかる。

住宅ローン否定派の人は、35年後も賃貸住宅に住み続け、家賃を払い続けるのか?あるいは、数千万円、数億円の家を、「キャッシュ一括」で購入しろというのか?代案なき否定に価値はないので、そこを明らかにするべきだろう。

35年間賃貸に住み続けることと、住宅を買うことを比較すると同じグレードなら、利益が乗っている分、賃貸のほうが割高となる。そして35年間賃貸に住み続ける想定なら、「もし失業したら?」というリスクの根本解消にはならないだろう。失業をしても賃貸派も家賃を支払い続ける必要があるのは変わらないからだ(最も、経済的に困窮すれば住処を変えるオプションには優位性がある)。

だがハッキリいって、世界屈指の低金利の現代日本に住んでおり、かつ円安とインフレなら資産性を想定した家を借りるより買う方が合理的である。

実際、東京は「住んだら儲かる家」がゴロゴロしているし、最近は大阪や福岡の地価も高騰し、マンションや中古戸建てで同じような現象が起きている。

加えて、キャッシュ一括で買うなら持っている資産を売却して現金化することになるが、そこで課税される上に運用機会損失が発生する。

転勤族などで非常に高い確度で引っ越しを想定するというケースでなく、かつ資産性のある家を買う前提なら、賃貸より購入の方が経済合理性が高い。

借金が大好きな人たち

住宅ローンは「負債」という借金という見方も出来るが、個人の持つ信用力を担保に、市場で最も安価な金利で資金を調達する「レバレッジ」戦略という見方もできる。

世の中には、借金などせずとも家を現金で買えるだけの資産を持つ「資産家」と呼ばれる人種がいる。しかし、彼らの多くはあえてフルローンで借り入れることを選択する。それは、借金をしないことによる「機会損失」と「税負担」があまりに大きいためである。

資産家が持つ資産の多くは、株、債券、不動産などの金融資産であり、すぐに使える現金の比率は低いことが多い。この状況で家をキャッシュで購入しようとすれば、手持ちの金融資産を売却する必要が生じる。

この売却によって、含み益に対して譲渡所得税が課税され、資金は目減りするし、その間の資産運用の機会損失が発生する。ところが、借金をすることで、資産の売却と課税の繰り延べ効果が期待できる。

ローンの金利よりも、運用を続けた場合の期待リターンが上回る限り、借りてでも運用を続ける方が、トータルで資産を大きく成長させられるという結論になる。

筆者は住宅購入にあたり、迷わず35年フルローンを選択した。キャッシュ一括払いによる運用機会の喪失や、資産売却で生じる課税と、低金利で借り入れることのどちらが最終的に得策か、という視点で判断したら答えは「ローンが合理的」だったのだ。

金利急騰の対策

35年ローンの最大の懸念材料、特に変動金利は「この先、金利が急騰したらどうなるか」という点である。特に現在のような低金利下では、変動金利を選択するケースが多く、将来の金利上昇リスクを懸念するのは当然である。

しかし、変動金利型住宅ローンは、金利上昇リスクに対するオプションが付与された金融商品として捉えるべきである。

金利が急騰しなかった場合は市場の最低金利で借り続けられ、利息負担を最小限に抑えられる。仮に金利が急騰した場合は、ローンの残債を運用益や貯蓄から「繰り上げ返済」で、金利上昇の影響を限定的にできる。

つまり、変動金利は、「金利が急騰したら繰り上げ返済する」という行動を選択できる分、金利が上がらないうちから割高な金利を払い続ける固定金利よりも、柔軟性という点で合理性が高いのである。

さらに多少金利が上がっても、資産運用の収益リターンより小さければ返済を継続するほうが合理的である。

「失業したら家を失う」という恐怖は、手元資金を厚く確保できていない状態、すなわちリスク管理の失敗に起因する。逆に、35年ローンを組むことで手元に残した資金を、不測の事態への備えや、確度の高い資産運用に回すことができれば、それはもはやリスクではなく「経済的自由を広げるための戦略的なレバレッジ」と言えるのではないだろうか。

2025年10月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!

なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。