こんにちは!自由主義研究所の藤丸です。
今回は「政府は私たちの通貨に何をしたのか?」シリーズの第4回目です。
前回は「銀行の謎」というタイトルで、現在の部分銀行制度がどのように通貨の膨張をもたらすかについて簡単に説明しました。
今回は通貨と、国家権力との関係について見てみましょう。
まずは、ポイントをまとめます。
・普通の人々は、自らの富を得るためには、働くことで他者に奉仕しなければならない
・政府だけは、自らの富を得るために、国民から税金を強制的に集めるだけでよい。(課税)しかし、課税は国民が反対するため、政府は「通貨を新たに作り出す(偽造)」方法を選ぶ傾向がある。(通貨供給量の拡大)
→これには、二つの方法(「通貨の直接発行」と「銀行準備金率を下げること」)がある。どちらの方法でも、通貨の量が増えることは、その通貨の価値が下がることになり、その通貨を保有しているすべての人々が犠牲になっている。つまり、政府は、政府自身が使える通貨を増やすために、通貨供給量を拡大(インフレーション)させるが、そのことで国民は自分が保有している通貨の価値が下がるので、国民から政府へ、富が移転することになる。これは、課税と同様なことを意味するので「インフレ税」と呼ばれる。
通貨と国家
他のすべての組織とは異なり、「政府」は、自らの収入を「サービスに対する自発的な支払いの対価」として得ているわけではありません。
政府は、「国民から強制的に集めた税金」によって、自らの収入を得ているのです。
したがって、政府は、普通の人々とは異なる経済問題に直面しています。
より多くの財を獲得したい個人は、「他者が求めるもの、欲しがるもの」を、より多く生産し販売する必要があります。
一方、政府は、より多くの財を獲得したい場合に、「所有者の同意なしに財を没収する方法」を見つければよいのです。
その一つが「盗み」であり、一般には「課税」と呼ばれています。
しかし、税金は多くの国民が嫌がるものであり、過度の課税は、国民の反発を招く可能性があります。
そのため政府は、富を得るための別の方法を見出しました。
それは、「偽造」です。
つまり、商品やサービスの交換を通じて稼ぐのではなく、何もないところから新しい通貨を創造するのです。
歴史を通じて多くの変化はあったものの、政府の貨幣偽造への依存は、数千年も前から続いています。
たとえば古代ローマでは、皇帝が硬貨から金属の欠片を削り取ったり、劣質な金属で置き換えたりしました。
こうして政府は新たな硬貨を発行し、それを支出に充てていました。
その犠牲となったのは、自分の持つ通貨の価値が下がった市民だったのです。
現代の政府は、硬貨の発行によって通貨を膨張させることはしません。
しかし政府は現代も、通貨供給量を拡大し続けています。そしてこれは、他のすべての人々を犠牲にして行っているのです。
では、現代の政府は具体的にどのようにして通貨供給量を拡大し続けているのでしょうか?
それには二つの方法があります。
一つは、「通貨を直接発行すること」です。
「紙幣」の使用によって、新たな通貨を印刷することが容易になりました。政府が、「商品で裏付けられていない新たなドル」を創造するたびに、金属を削り取って新たな硬貨を創造することと同様の効果をもたらしました。
現代の世界では、これはさらに簡単にできます。
なぜなら、ほとんどの取引が電子化されているため、中央銀行(例えば連邦準備制度)はキーボードで入力するだけで、数兆ドルの新規ドルを創造できるからです。
そして中央銀行は、新たに発行された通貨と引き換えに、国債や住宅ローンなどの資産を購入することで、この通貨を銀行システムに送り込むことができます。
もう一つの方法は、「銀行の貸付方法を変更すること」です。
部分準備金制度下では、政府は「銀行預金の準備金要件」を変更することで、貨幣供給量を増加させることができます。
たとえば、「90%の準備金」を義務付けると、銀行は、口座の10%しか貸し出せなくなります。
もし政府がこの義務付けを「10%の準備金」に変更すれば、このような制度ではお金が増殖する性質を考えると、貨幣供給量は飛躍的に増加します。
この貨幣供給の増加は、経済において、「富が増加したように見える」可能性があります。
通貨が増えるということは、その価格(金利、つまり借入コスト)が下がることを意味します。
つまり、個人が収益性が高いと考える新しいプロジェクトへの投資コストが下がる、ということです。
貨幣量の増加がなければ、投資を行うには、「実質的な貯蓄の増加」が必要となり、それは消費者の嗜好の変化(現在の消費を控え、貯蓄を増やす)を反映するはずです。
ところが、この「人工的な好景気(政府の政策により金利が下げられたことで、投資コストが不自然に下がったこと)」は、現実の市場価格では利益が見込めないプロジェクトや産業への投資を誘発してしまいます。
結果として、この人工的な好景気は、その債務を正当化する十分な利益が得られないため、崩壊してしまうのです。
経済における「通貨」と「銀行システム」を支配する政府は、インフレーションを通じて富を没収し(インフレ税)、債務を現金化したり、一般的な投資活動に介入したりできます。これらは、警察や軍隊のような暴力を行使することなく実行できるのです。
それでは、政府はどのようにしてこの権力を得たのでしょうか?
その答えは、次回(「連邦準備制度の歴史」)に説明します。
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最後までお読みくださりありがとうございました!
再度まとめると、政府が通貨供給量を拡大する方法は、二つの方法があります。
- 通貨の直接発行(紙幣の印刷など)
- 銀行の準備金率を下げること(それによって、銀行が無から通貨を生み出しやすくなる)
どちらの方法でも、通貨量が増えることは、人々が持つ通貨の価値が下がることになります。
また、今回の記事の中で、”銀行預金の準備金”という部分については、前回(第3回「銀行の謎」)で解説しています。
また、”貨幣量の増加がなければ、投資を行うには、「実質的な貯蓄の増加」が必要となり、それは消費者の嗜好の変化(現在の消費を控え、貯蓄を増やす)を反映するはずです。ところが、この「人工的な」好景気は、現実の市場価格では利益が見込めないプロジェクトや産業への投資を誘発してしまいます。”
という部分については、以下の本でも詳しく説明しています。
こちらもぜひお読みください。
編集部より:この記事は自由主義研究所のnote 2025年11月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は自由主義研究所のnoteをご覧ください。